十一 新たなる出会い
メリークリスマス。
今日も2話あります。
「キャアーッ!」
抜け穴から続く地下道を進んでまもなく、シュウがサトラ王子たちに追いついたところで、後から轟音が鳴り響いた。
ミーシャとサラ姫はシュウに抱きつきながら悲鳴を上げる。
「何てこった。あのジジイ、自爆でもしやがったのか……」
落盤の恐れもあるかと、シュウは二人を庇いながらふと呟いた。
「クガト先生……ヤザン先生……その命、決して無駄にはしません! 行くぞ! シュウ!」
「殿下! お、お二人は……」
「サラ王女。これで間違いなく魔法協会が何か陰謀を企んでいるということがハッキリしました。我々は前へ進まなければなりません。先生たちもそれを望んでいるはずです」
サラ王女の不安に、サトラは前進こそ今取るべき行動だと答える。
「……なあに、気にすることはねえ。あの師匠たちがくたばるわきゃねえって。ほれ、行こうぜ、ミーシャ、姫さん」
「……やはり、兄様は陰謀によって……」
「おっと、まだ泣くなよ! 始まったばかりだ!」
「は、はい!」
ミーシャは涙を拭い、元気に答えるのであった。
サラ王女はシュウの腕の中、うらやましそうに妹分の成長を見ている。
「オホン……しゅ、シュウ。いつまでもレディーたちを抱きしめているんじゃない。さっさと行くぞ」
サトラも、自由闊達な友人がうらやましいのか、いつもの態度には似合わず強引にシュウと女性たちの間に割り込んだ。
それが笑いを生み、一行は気を取り直して前進を再開する。
人の手が加えられているとは思えるが、照明設備もないゴツゴツした地下道を進むのは困難を極めた。
幸い、サトラ王子とサラ王女が王族のたしなみ程度の魔法を習得していたため、ライトニングの術、小さな光の玉を出すことができ、何とか方向程度はわかる。
もっと幸いなのはクガト師が起こした爆発の影響が地下道にまで及ぶことなく、そしておそらく地下道入り口は完全に塞がっているため追っ手を気にすることなく進むことができたということであった。
「魔法協会の陰謀は間違いないとして、なぜボクたちが調べていることがわかったんだろう?」
地下道を歩きながらサトラは新たな疑問を仲間に投げかける。
「そりゃ相手は魔法使いだからな。遠くの人の話も聞けるんだろ?」
シュウは単純な思考で答えた。
だが、王子の疑問の要点は、方法論ではなく、きっかけについてなのである。
「……もしかしたら、ジャナの魔術管理組合が私たち、いえ、ミーシャの動向を最初から見張っていたのかもしれません」
サトラ王子の言わんとするところを正確に捉えたサラ王女が、不安そうにしている友人を顧みながら推論を述べた。
サトラも納得する。
「なるほど。カイエン閣下が目をつけられていたとすれば、妹君も……ということですか」
「ニイサマ……」
この段階で、兄の死が魔法協会、及び魔術管理組合の仕業だということが、限りなく明白に思えてきたミーシャは、実際に手を下してしまったシュウにすがりつく。
「……大丈夫だ。サトラが何もかもハッキリさせてくれるさ」
「はい……」
「おいおい。丸投げはよしてくれ。もとはといえばシュウが持ち込んだ話だろ」
サトラは親友のいい加減さに呆れるが、怒ったふうではない。いつものリクリエーションのようなものだ。
「王子サマなんだから、しかたないだろ」
「あのなあ……」
「サトラ様。わたくしもおりますから。シュウさんの分まで働きますわ」
シュウとサトラ王子の遣り取りに、笑いを堪えながらサラ王女が申し出る。
ミーシャにも笑顔が戻ったようだ。
「ええ、期待しています。みんなで彼らの陰謀を暴きましょう! 勿論シュウもな」
「はい!」
「……わかっってるよ。まあ、オレは肉体労働専門だがな……」
ミーシャは元気に返事をしたが、シュウは相変わらずである。
ともあれ、一行は新たに、まだ全体像が見えない陰謀に立ち向かうことを決心するのであった。
暗闇を進むこと数時間。ついに出口が見えてくる。時間的にはまだ夜が明けていないものの、暗闇に慣れた4人の目には星明りが眩しく感じられるほどであった。
「このまま進もう!」
サトラは、悪友で丈夫だけが取り得の男だとわかりきっているシュウはともかく、か弱い女性たちにも強行軍を提案する。
敵の姿が見えてきて、自分たちが戦わなければならないとわかっているミーシャとサラ王女は、勇敢にもその提案を受け入れるのであった。
どちらにせよ、ジャングルの真っ只中でロクな休憩も取れないだろうとは皆思っている。
ならば闇に目が慣れているうちに進んだほうがよいかも知れないのだ。
後は、猛獣や魔獣が襲ってこないことを祈るばかりであった。
「こっちのはずだ」
サトラは、山小屋でクガト師に教えられた情報を元に一行の先頭に立つ。
シュウはしんがりを務めた。
ほぼ休憩無しでさらに数時間。夜明けがやってきたころ、一行はジャングルの切れ目に出た。
「む、村だ……」
村というには規模が小さかったが、少し開けたところに人家が数軒見える。
「誰や?」
シュウたち4人がその集落に近づくと、誰何する声が聞こえてきた。
夜が明けたばかりだというのに、いきなり発見されシュウたちは慌てる。だが、その声がどうにも危険そうには思えなかった。
姿は見えないが、子供のような声であったのだ。
「ぼ、ボクたちは怪しい者ではありません! クガト先生に聞いてきました! この村の長老に会わせてください!」
一度抜いた剣を納め、サトラは姿の見えない村人に声をかける。
ミーシャとサラ姫を庇っていたシュウも、サトラ王子のやり方に賛同したかのように剣を納めた。
「クガト? ああ、剣のオッチャンか」
前方のあばら屋の影から顔を覗かせるものがいる。
予想されたように、それは小さな子供、女の子であった。
ホッとした表情の4人を見て、その女の子はシュウたちの前に出てくる。
変った子供であった。
歳は5、6歳くらい。下帯、つまりフンドシ姿で、目の粗い織物のチョッキ風の衣装を素肌に羽織っただけの出で立ちである。足元は裸足のままであった。あまり手入れがなされてはいないようだが、長めの黒髪と、日焼けした顔に大きな瞳が非常にかわいらしい。
「き、キミ。名前は? ボクはサトラ」
サトラは、如何なるときも紳士であるのか、小さなレディーに対する礼儀も忘れず、用件を述べる前に自己紹介する。
「ウチ、ハナ。兄ちゃんたち、オジイに会いたいんか?」
「そ、そうなんだよ。案内頼めるかな。ハナさん」
「ええよ。こっちや」
サトラ王子の人柄のおかげか、何のトラブルもなく目的が果たせそうな一行はホッとしながら不思議な少女の後を追う。
集落の間の道を進んでいくと、朝も早いというのに何人かの村人が目に付き、シュウたち一行を不審そうな目で見ていた。
だが、先導するハナという少女の明るさからか、何事もなく道を譲られる。
集落のズンどまりぐらいだろうか、一軒の家、クガト師の山小屋より原始的な造りの建物の前で少女は立ち止まった。
「ここがオジイの家や。オジイ!」
少女は躊躇なく戸を開ける。
「オジイ! あんなー、剣のオッチャンがなー……あれ、何やったかな……」
「ハナや。お客さんか?」
少女の声に応じて、中から目当ての人物が現れた。
雰囲気がクガト師に似た、白い長髪で髭まで白くて長い、御伽噺に出てくる仙人のような老人である。やはり目の粗い織物の、大き目の衣装を引きずるように着ていた。
「あ、あなたが長老のオットー様ですか。クガト師に導かれやってまいりました。私はシナト王国第一王子、ユルハン・サトラ・シナトーラと申します。こちらは友人たちで……」
「ふむ。立ち話もなんじゃ。お入りなさい」
長老は、サトラ王子の挨拶に興味が湧かないとでもいうように話を切り上げさせる。
だが、屋内に招かれたことで、サトラは順調に事が運んでいると感じ、意気揚々と仲間を促して邸内に入った。
高床式で中は板の間であったので、履物は脱ぐことを指示される。一行は郷に入っては、と素直に従った。
「悪いが、オレは寝るぞ。細かい話は任せた」
一同が部屋の中央に車座に座ったとき、クガト師の山小屋に着いたときと同じようなセリフを吐いて、シュウは板の間に寝転がった。あっという間に寝息を立てる。
「す、すみません。コイツ、ここしばらく寝てなかったもので……」
シュウの礼儀のなさにはいつも呆れさせられるが、確かに睡眠が足りていなかったのも事実だと、会談前にサトラは親友に代わって長老に謝罪する。
「ホッホッホッホッ。その様子だと、お前さんたちも一晩歩き詰めじゃったろう。話はここでゆっくりと休んでからでも構わんぞ」
長老は、クガト師の山小屋からここまでの道中を察してか、懐の大きそうな提案をしてきた。
サトラはミーシャとサラ王女を顧みる。
《ここが敵の巣窟かもしれない可能性がある。ボクとシュウはともかく、この二人まで無防備にさせていいものか……》
二人は、不安そうに手を取り合ってはいたが、目に強い意志が感じられた。
サトラは心を決める。
「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。その前に、一つだけ確認しておきたいことがあります」
「……なんじゃな?」
「……あなたたちは、魔族ですか?」
クガト師がサトラ王子に告げた重大な秘密。それは魔族の隠れ里に関することであったのだ。
魔族といえば、元々人間の敵であったはず。
だが、今の敵は魔法協会であり、クガト師が行けといった以上、信用できるとサトラは踏んでいた。
「いかにも。我らはその昔、人間たちに破れ、この地でひっそりと暮らす魔族の生き残りの、そのまた子孫じゃ。どうじゃ? 怖くて眠ってなどおれんか?」
この仙人のような長老の答えに、豪快に眠っているシュウを除き、サトラ王子たち3人は慄然とした。御伽噺と都市伝説でしか聞くことのない魔族が、実際に目の前でその存在を自らあっさりと認めたのだ。驚かないほうがどうかしている。
しかし、ここまで案内してもらった少女も、途中見かけた村人も、そして目の前の長老も街に住んでいる人間と見た目は変わるところはない。頭に角も、背中に羽も、尻にシッポもなく、肌がウロコ状でもなかったのだ。
伝説に尾ひれがついているのは半ば承知しているが、それでも人間とは異なる外見のイメージがあったサトラ王子たちは目と耳を疑う。
だが、クガト師から既に話を聞いていたサトラは逃げ出したい衝動を辛うじて押さえつけることができた。無理してだが、ニコリと微笑む。
「い、いえ。親切にここに案内してきてくれたハナさんと、正直に答えてくれたオットー様を信じます」
「ほお。魔族を信じると?」
「はい。ですがもう一つお願いが」
「何じゃな?」
「さすがに驚くやら、怖いやらで眠れそうもありません。魔力で催眠魔法をかけていただけませんか? ミーシャさん、サラ王女、いいですよね」
サトラは意外な要求をする。
ミーシャも、サラ王女も、ここまで来たら、という感じで、半ばヤケクソ気味に首を縦に振った。
「ホッホッホッホ。面白い子供たちじゃ。よかろう。ハナや。かけてあげなさい」
長老はサトラ王子の態度が気に入ったらしく、なおかつ、余計な心配を与えないでやろうと考えたのか、シュウの寝顔に見入っている少女を呼んだ。
「え? ウチが? ええよ」
子供らしく躊躇もしないで、ハナという魔族の少女はサトラ王子たちの前に立つ。
初めから横になるように指示し、なにやら呪文を唱え始めると、サトラ王子たちは深い眠りに落ちていった。
《ああ。これは間違いない。魔族だ。これからどうすれば……いや、まともに目が覚めることができたら、の話だな……》
眠りに落ちる直前、サトラはそんなことを考えていた。




