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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
10/50

十 襲撃者

2話目です。

 

 クガト師の話は概ね次のようなものであった。だが、サトラ王子をはじめ、若者たちでも、いや、幼い子供でも知っているような御伽噺の類である。


 遥か古の時代。この大陸を二分していたのはシナト王国とジャナ王国ではなかった。

 人間と魔族が覇権を懸けて争っていた時代があったのである。

 魔族は長寿のためか人口は少ないものの、強力な魔力で人類を圧倒していた。人間側も魔法と剣を駆使し、どうにか抵抗する。

 その均衡を破った者がいた。

 後に勇者と呼ばれる存在である。

 勇者の活躍で当時の魔族の統治者、いわゆる魔王は倒され、大陸は人間の支配するところとなったのである。


「く、クガト先生。その話は子供でも知っていますが……」


 クガト師が話し始めてから思っていたことだが、きっと何か、世間では語られない真実があるだろうと期待しながら聞いていたサトラ王子であった。

 だが、物語が終盤になっても世間一般に知られている御伽噺と何ら変るところがないとがっかりする。


「……せっかちな王子だな」


「え? それではまだ何か……」


「……特にはないが……」


「そ、それでは一体何のお話を……」


 はぐらかされたような気がしてサトラは床を強く叩く。


「それは自分で考えてみるのだ」


「考える? な、何を……」


「魔族はどこに行ったのかのう……」


「え?」


 若者3人は顔を見合わせた。

 しばらくして、お互い首を振る。


「……御伽噺では勇者が魔王を倒したとなっているが、残りの魔族を皆殺しにした、などという血なまぐさい話は伝わっていないからな……」


「た、確かに……」


 人魔戦争の後、生き残った魔族はどうしたのか。伝説では伝わっていないが、新大陸を目指して海に出たとか、この大陸に地下世界があって、そこで生き延びているとか、という他愛もない話ならたまに冗談として聞く程度である。

 はたまた、人間社会に混じってひっそりと暮らしているなどという、いわゆる都市伝説もないことはない。


「し、しかし、それが何の関係が?」


「わからんか? 戦争を繰り返す理由は?」


「そ、それは、どこかの国が攻めてきたときに、いつでも対処できるようにと、軍事訓練の意味があるとヤザン先生はおっしゃって……あ……」


 ついにサトラは気づいたようである。ミーシャもサラ王女と顔を見合わせる。


「どこかの国ではない。魔族が再び現れたら、ということだ」


「で、では、何故それを国民に告げないのでしょうか。国防のためなら、もっと両国が力をあわせて―ー」


「伝説を戦争の理由にはできんわな」


「た、確かに……」


 国政に関わっているサトラにはクガト師の意見がよくわかった。

 大っぴらにはできない理由で、それでも戦闘力を高めていなければならないとしたら、やはり国民を常に戦い合わせておくのが一番かもしれない。これまで両国のどちらかが勝って、相手国を占領したという歴史が無いのも頷ける。


 ならば、国の上層部、若い自分にはまだ伝えていなくても、少なくとも王や魔法協会の幹部たちは知っているはずだ。

 サトラは、長年の戦さの件に関しては概ね納得したようだ。


 だが、疑問はまだ残っている。


「で、では、もうひとつ大先生にお聞きします。昨今の両国の戦争のあり方についてですが、これで本当に国力がついたと、富国強兵と言えるでしょうか?」


「ふむ……」


 王子の新たな質問に、クガト師は白くなったあごひげをさすって考え込む。


「……くだらぬ児戯もどきの戦争ゴッコに嫌気が差して、ヤザンのバカ者に剣術指南役を任せて引退したのは、魔法協会などというものが大きな顔をし出したころだったな。思えば巧妙なやり口だ。兵士を骨抜きにし、なおかつ国力を削ぐか……本物の武人にかかったら、あんなフヌケ兵士ども、楽に皆殺しできるわ」


「そ、それでは……やはり何かの陰謀が……」


 サトラは、軍事訓練としての戦争が、当初の目的と違っていることを確信した。


 《協会は一体何を企んでいる? 魔族の逆襲や他国の襲撃はないと判断し、戦争を形骸化させ自分たちの勢力を強めるつもりか? 単に私服を肥やすつもりなら可愛いものだが、両国を影から支配しているつもりなのか……》


 サトラは、クガト師からの情報を加えて状況を分析しなおす。だが、結局推測に過ぎないことに苛立つのであった。


「もう一つ面白いことを教えてやろう」


 王子の混乱する様子を見て、クガト師が新たな情報を提示しようとするようだ。


 サトラは、何を勿体つけて、などとは思わなかったといえばウソになるだろうが、それでも先達に対する敬意は忘れずクガト師に詰め寄る。ここら辺がシュウとは大きく違うところだといえよう。


「大先生! ご存知のことがありましたら是非すべてをお話ください!」


「伝説にしか過ぎんぞ」


「それでも結構です!」


「……伝説を持っているのは何も人間の世界だけとは限らん。魔族の世界にも伝説がある」


「ま、魔族の伝説?」


「うむ。それによると、いずれ魔王が復活するとのこと」


「魔王が!」


 サトラは一言叫んだだけで固まってしまったかのようであった。

 女性二人、ミーシャとサラ王女は不安そうな表情で身を寄せ合っている。


「……現状で魔族が襲い掛かってきたら、人間側はひとたまりもないだろうな……」


 驚いたことは驚いたが、サトラはある矛盾に気がついた。


「……大先生。魔族の伝説とおっしゃいましたが、魔族はまだ生きているんですか? 先生は何故魔族の伝説をご存知なんですか?」


「そりゃ、ご近所さんだからな。お、もうだいぶ暗くなったな。メシにするか……」


 極軽い口調で驚くべき発言をしたクガト師であったが、同じレベルの日常的なセリフと共に立ち上がろうとする。


「大先生! それは一体――」


「しっ! ……客か……囲まれたか……」


 更なる追求をしようとするサトラ王子を、クガト師は手を上げて制止した。その言葉には不穏な空気が漂っている。


 そのころ山小屋の外では、シュウがヤザン師と剣の特訓をしているところであった。


「ほら! いくら力任せに振り回したって、サーベルとは違えんだ!」


「クソッ!」


 剣の腕は、ヤザン師と比べればまだまだのようで、シュウの渾身の斬撃は軽くいなされてしまう。


「だから! クレイモアみてえにもいかねえって言ってるだろ! ほれ! バランスが崩れた!」


「チキショウ!」


 真剣での稽古だったが、あくまでも練習だったので、ヤザン師は体勢の崩れたシュウを蹴り飛ばすにとどめている。

 命に別状も、ケガもないが、シュウの燃えるような闘争心に油を注いだ結果となる。


「その剣はな! 叩きつけるんじゃねえ! 剣の重さで撫で切るんだ! てめえの腕と剣のバランスを考えろ!」


「こうか! こうかよっ!」


 師に対する口の聞き方はなってないが、シュウはヤザン師の教えに従い、徐々に戦い方を変えていく。

 だんだん鋭さを増すシュウの斬撃を受け流すのにも苦労し始めたヤザン師は、心の中で満足しながら指導を続けた。


「そうだ! それからバスタードってのはな! 二つの特性がある! 斬撃と突撃だ! クレイモアよりは軽いから突きもスピードが出る! レイピアやサーベルなんかよか、よっぽど威力があらあ!」


「こうかよっ!」


 斬撃での攻撃中、シュウはいきなり教わったばかりの、いや、ミーシャの兄、カイエン卿との戦いを思い出したのだろう、鋭い突撃を繰り出した。

 ヤザン師はその攻撃を受け流したが、一瞬シュウの突きが早く、左頬を掠める。鮮血が滴った。


「よし! そいつだ! ……ちっ……おめえとお揃いになっちまった……」


「何言ってやがる!」


「まてっ!」


 かわされたが、自分の剣技に確かなものを感じたシュウは攻撃を続けようとした。

 だが、一歩下がったヤザン師は弟子を制止する。


「どうやらおめえたちの予想は当たっちまったようだな」


「なに? あ……」


「お客さんだ」


 シュウもやっと気がついた。山小屋に向かって数人の男たちが近づいてくることに。

 十人前後の黒装束の連中に、不吉な印象を持つ。どう考えても友好的な相手ではなさそうだ。


「気をつけろ!」


 サラトナ城からシュウたちを監視していた連中であった。サトラ王子がクガト師からかなりの情報を聞きだしたことを知ったのだろう。もはや姿を隠す気はないらしかった。

 銃やボーガンを問答無用で乱射し始める。


 シュウとヤザン師は暗がりの中、弾丸や矢を見えているかのようにジグザグに移動しながらかわした。


 黒装束の一人が掌を二人に向けると、そこから拳大の火の玉が飛び出す。


「やはり魔法協会か!」


 シュウは飛んできた火の玉を、たった今修行したばかりの剣技で切り払った。

 銃などの飛び道具を使うところを見ると、それらを管理している魔法協会が真っ先に思い浮かんだが、魔法攻撃を受けて間違いないと判断する。


「シュウ! どうした!」


 銃声を聞いて山小屋の中のサトラが飛び出してくる。


「ジジイ! ガキどもを何とかしろ!」


 王子の参加をヤザン師は認めなかった。

 ジグザグ走りで敵陣を目指しながら師匠であるクガト師に救援を要請する。


「王子よ、中へ」


「し、しかし……」


「これからやることができただろう?」


「は、はい……」


 サトラ王子を山小屋の中に連れ戻し、クガト師はある重要なことを告げた。


「え? ま、まさか……」


「わかったな。その後はお前たちの好きにやればいい」


 そう言った後、クガト師は呆然とする王子と、いきなり始まった戦闘に怯えていたミーシャとサラ王女に秘密の抜け穴を教える。

 ゆり椅子を移動させ、床板を剥がすとその秘密の抜け穴が現れた。


 抜け穴に3人が入ったのを見てクガト師は剣を手に山小屋を出る。


「孫弟子! お前も中に入れ!」


「冗談! じいさんたちに負けるか!」


 攻撃魔法を使えるのは一人だけだったらしいが、シュウは火の玉攻撃に何とか食い下がっている。


「バカモン! 嬢ちゃんたちを誰が守るんだ!」


「ちっ!」


 クガト師の言い分に反論できなかったシュウは火の玉を薙ぎ払いつつ後退する。

 クガト師と並んだところで、抜け穴のことを耳打ちされ、その場を交代するのであった。


「じいさんたち! 死ぬなよ!」


 そう叫んでシュウは山小屋のドアを閉める。


「ふん、生意気言いおって。お前の弟子はガラが悪いの!」


「そういうな! ウチの流派の伝統だろ!」


 老剣士師弟は弾丸と矢の雨の中気楽に言い合いをしている。


「中だ! 皆殺しにしろ!」


 クガト師が火炎の魔法術士に不意に近づいたとき、黒装束の一人が他のメンバーに指示した。


「おい! ジジイ!」


 前面で二人の黒装束の相手をしていたヤザン師が慌てる。

 残る数名の黒装束の連中がクガト師が目を離した山小屋に突入した。


「フハハハハ! キサマも死ねい!」


 目の前の老人も油断したと見た火炎使いの魔法術士は、特大の火の玉をクガト師に向けて打ち出す。


「アリガトよ。ちょうど火種がほしかったところだ」


 慌てたと見せかけたクガト師は、その火の玉を受け流し、なんと斜め後ろの自分の山小屋にぶつけたのだ。


 激しい爆発音と共に山小屋は吹き飛んだ。どうやら根っから武人のクガト師は、いつかこのようなこともあろうかと山小屋に大量の火薬を仕掛けていたらしい。

 近くにいた黒装束の男たちと共に、辺りは火に包まれるのであった。



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