TS擬人化①
『初めましてマスター。私はマスターの能力です。死後の世界の彼女が貴方に与えられたチート能力・・・それが私です。以後宜しく御願い致します。それよりもマスター、お怪我は大丈夫ですか?』
「僕は・・・大丈夫だ、問題ない。」
『それは大丈夫じゃないフラグですマスター。タイトルまで巻き戻されますよ。』
「通じた!?」
『まぁ、そういうネタを使っているあたり、マスターは平気そうですね。』
「あっ、うん。何かスキルで死にづらい体になっているんだ。それに僕より手当てが必要な人がいるし。」
そう言うと、マスターは少女に近付いて、呼吸しているか確かめた。
「良かった、生きてる。でも、足に怪我がある、それにかなり勢い良く吹き飛ばされたから、何処か骨折してるかも知れない。」
確かに、破片の様なものが少女の足に深く突き刺さっている。ほっとくとヤバそうだ。
「・・・どうしよう。誰かを手当てしたことなんて無いし、そもそも救急箱みたいなのも無いから応急処置も出来ない。」
困り果て、狼狽えるマスター。俺も少女を救う方法が無いか周りを見回すと、川を下った先には小さく街様な場所を見付けた。
『マスター、川の流れる方向に街の様な場所を発見しました。もしかしたらあそこに病院があるかもしれません。』
「マジか!」
『はい。マスターはその人と一緒に私に搭乗して下さい。その方が早く着くはずです。』
「分かった、頼む!」
そう言うと、マスターは少女と一緒に俺に乗り込んだ。
グレイヴはスピード特化で手数で勝負するタイプの装甲機神だった。
その為、街がある場所までたどり着くのに1分もかからなかった。
『着きました、マスター。』
「よしっ、さっそく入ろう。」
『私はここで待機してます。多分、私は大きすぎて入れないと思いますし。』
「あぁ、分かった。」
そう言うとマスターは急いで街に向っていった。
俺はステルスモードになり帰りを待つことにした。このステルスモードは機体の操作が出来なくなるが、特殊なレーダーでしか見つけることができなくなるのだ。
これで俺に気付けるやつは居なくなった。
・・・何か暇だな。遠くの風景でも見て気を紛らわすか。
今の俺の目はかなり遠くまで見えるしいい暇潰しになるな。
・・・・・・あっ、街の反対側にあるでかい森でなんか動いた。
狼?でかいな。10メートルぐらいありそう。
「あれ?さっきここで待ってるって言ったよな?」
マスターが帰って来た。早いな。ステルスモード解除。
『ここですよ。』
「うわ!びっくりした!」
『随分早いですね。』
「う、うん。何か門の所で、僕は身元を証明出来ないからお金払わないと入れないって言われて。」
『なるほど。彼女は?』
「治癒院とか言うところの人が連れてったよ。」
『しかし、街に入れないのは、厳しいのでは?マスターこのままだと自給自足のサバイバル生活開始じゃないですか。』
「そうなったら僕は確実に死ぬよ。街に入る為にはお金が必要だけど、現状一文無しでね。ただ門番の人によると魔物の素材を換金してくれるらしいんだ、だから魔物を探しに行かないと。」
『多分、魔物だったらさっき見つけましたよ。』
「えっ、ホント?」
『はい。まだ居るかも知れません。』
「おお!じゃあ善は急げだ早速行こう。」
『了解しました。』
―――数分後―――
『見つけました、アイツですよ。』
「ねえちょっと待って!あいつ明らかにやばくない!?」
『ただデカイだけですって。』
「だといいんだけど。うーん・・・他のを探し・・・『目標、来ました。』・・・逃げられなかったかー。」
大狼が高速で近付いてくる。とりあえずライフルを散弾モードにして、迎え撃つ。
このライフルは『三段可変エネルギーライフル』といい、グレイヴの専用装備だ。と言っても、グレイヴの装備は全てワンオフの専用装備だが・・・。その名の通り、『超越物質』から生産されたエネルギーを、三種類のパターンで打ち出し攻撃する。
ひとつは、牽制用の散弾モード。
もうひとつは、通常時のライフルモード。
そして最後は、決戦用のフルチャージモード。
の三種類だ。劇中では基本的に牽制→通常→決戦の順でモードを使い分け戦っていた。・・・決戦モードは全然使ってなかったが。
牽制用の散弾は10メートルはある大狼では避けきれ無かった。
じわじわと、大狼にダメージを与える。
しかし、大狼もやられっぱなしではない。
俺が言うのも何だが、その巨体に似合わず縦横無尽に動き回り爪で攻撃し、鎌鼬のようなものを放って来る。避けられた鎌鼬は背後の森の木を数十本斬り飛ばす。
「ひぃぃ!!し、死ぬぅ!!!」
『当たらなければどうということはありません。』
「も、もし当たったらどうなる?」
『・・・。』
「あっ...(察し)。」
『勘のいいマスターは嫌いです。』
「もうやだおうちかえりたい。」
そんなこんなで、散弾撃って回避する戦いを続けていると、大狼の動きが鈍って来た。
俺はライフルを通常モードに戻し、止めの一撃を放った。その一撃は大狼の急所に見事に決まった。
大狼の巨体が崩れ落ちる。
「た、倒した・・・のか?」
『マスター、それは倒せていないフラグです。あれ?さっきこの大狼心做しか動いたような・・・。』
「よしっ、念のためもう1発ぶち込んで。」
『冗談です。マスター。』
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オルフェンリル大森林の頂点の証である純白の毛を持つフェンリルの王は酷く退屈していた。
何故ならフェンリルの王の力は強大過ぎたからだ。
殆どの生物はフェンリルの王を目の前にすると、怯えて逃げ出す。
そして恐れを知らない者がフェンリルの王の殺気に当てられるものなら恐怖で呼吸を忘れ、心臓の動かし方を忘れ、意識を忘れ屍と成り果てる。
フェンリルの王は闘いは好むが、一方的な虐殺はフェンリルにとって萎えるので好まない。
そもそも、食事は配下のフェンリルが持って来る獲物と魔族が勝手に捧げる供物で、充分だ。
一時は強者を求め魔界に行って、魔王に何回か勝負を仕掛けたりしたが、ある日に大量の供物を持って魔王が現れた。
魔王は「もう無理死にそう勘弁して下さい。」と言って、最後には見事な土下座まで披露した。
因みに魔王はそれ以降フェンリル恐怖症になり、フェンリルの王の「フェ」を聞くだけで全身が震え上がるようになったらしい。
フェンリルの王は求めていた。まだフェンリルの王が弱かった頃に経験した、意識が燃え上がるような闘いを。
人間から神話として語られるのも、魔族から災厄として恐れられるのも、フェンリルの王は望んでない。
退屈で陰鬱で憂鬱な今を破壊するような、闘いだけが欲しいのだ。
そんなある日だった、フェンリル王の前にフェンリルの王の倍はある巨躯を誇る巨人が現れた。
最初は図体だけの木偶だと思った。
しかし、闘いを仕掛けると、素早い動きでフェンリルを翻弄し、フェンリルに手傷を与える程の威力を持った魔弾を無数に放って来た。間違い無い強敵にフェンリルは歓喜した。
そして、フェンリルの王は満身創痍にまで追い込まれ、それまでのとは比べ物にならない極大の魔弾を、喰らい、意識を闇に葬り去らた。
しかしそれは、何よりも強者との闘いを望むフェンリルの王にとって最も望んだ最後であった。
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「ウプッ!」
『大丈夫ですか?マスター。』
「あんまり大丈夫じゃないかも。うわ、目が合ったよ・・・。」
『我慢して下さい。この大狼を持って行けば街に入れる筈です。それまでは堪えて下さい。』
現在、俺は大狼を肩に担ぎ、街に向っている。
「にしてもこの大狼凄く嬉しそうに尻尾振りながら向って来なかった?」
『私にもそう見えましたマスター。アイツ・・・笑っていやがる。って言った感じでした。』
「まぁいいかこの話は考えても切りがないし。そういえば、お前僕のことマスターって呼んでるけど何で?」
『本来はマスターではなくマスター権限を持つ人物と言うのが正式名称なのですが、如何せん長いのでもうマスターでいいのでは、と思いマスターと呼称しております。』
「マスター権限って?」
『私にも分かりません。』
「管理者ェ。説明くらいしてくれたっていいじゃないか。・・・危うく死にかけたよ。あっ!しまった!」
『どうしました?』
「そろそろ門番の人が言ってた門が閉まる時間だ!!急げ-!!!」
『あ、ちょっとやめてください。よくわからないボタンを適当に押しまくらないで下さい。あっ!そこらめえ。』
瞬間、俺の身体が煙に包まれた。けむい!凄いけむい!
「げほっ、何するんですマスターは!凄くけむいですよ!・・・あれ?なんか声がおかしい?」
「ええー、ナニコレぇ。」
「ひゃあ!?マ、マスターが巨大化した!?」
「逆だよ。」
「えっ?」
そう言われ気付く。俺の体が小さな(一部大きい)女の子、つまり幼女になったことに・・・。
「な、何ですかこれぇー!」