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直人の川流れ

大十字大陸の西方面の国『ヤハエ王国』の、



そのさらに最西の街『ゴルダ』の、



そこのさらにさらに、西には、

つまり大十字大陸の一番西側には、


神獣として伝説になっている『フェンリル』が棲むという、『オルフェンリル大森林』が広がっている。



オルフェンリル大森林は大森林の名の通りかなりの規模を誇る。



主な生息魔物は『ビックウルフ』や『ホーンウルフ』等の狼系魔

物だ。



狼系魔物の素材は、牙や爪を武器に加工すると鋭いナイフ等になり、

毛皮は耐久性と保温性に優れ、それで作られた外套は、ゴルダの街の特産品にまでなっている。



ゴルダの街が賑わいを見せる一番の理由は、やはりフェンリルの伝説の賜物だ。



ゴルダの街の人口の約半数が、冒険者や鍛冶屋であることがそれを語っている。



神獣フェンリルを倒し、最強の名を手に入れようとする冒険者。


その素材で名剣、いや神剣を自らの手で作り上げ、最巧の名を手に入れようとする鍛冶屋。



彼らは今日も、いつフェンリルと対峙してもいいように己の身体を切磋琢磨する。


冒険者はより強い魔物に挑み、その魔物の素材で鍛冶屋は様々な武器防具を作り腕を上げ、さらに強い装備を手に入れた冒険者がさらに強い魔物に挑んでいく・・・。


それに伴い出来た、利益がゴルダの街を豊かにした。



ゴルダの街の始まりは、1組の冒険者達がオルフェンリル大森林の攻略の為に設けた拠点である。

その拠点に次々と他の冒険者や鍛冶屋が集まり、ゴルダの街を形成したのだ。


つまりゴルダの街はオルフェンリル大森林の伝説と冒険者、鍛冶屋によって存在すると言っても過言ではないのだった。


その為、ゴルダの街は別名『神獣と冒険の街』と呼ばれている。




そんなゴルダの街の外壁付近に流れる小川の前に一人の少女が立っていた。


この川はオルフェンリル大森林から流れ込んでいる。


上流のオルフェンリル大森林ではこの川を『死の川』と呼ばれる程流れが激しく、冒険者だけでなく魔物にまで恐れらているが、少女の前に流れる川は、穏やかなものである。


しかし何故、このような所に少女が居るのか・・・。


それは少女の仕事と関係している。


『川守』と言われる少女の仕事は、生きたまま川から流れてくる魔物をゴルダの街に知らせることだ。


この川の上流から生きて流れてきた魔物は必然的に強力な魔物である。

その為、川守の報告を受るとギルドから冒険者が派遣され弱っている内に仕留め、被害を最小に抑えるのだ。



しかし、川守には危険も伴う。


同じく川守であった少女の両親は川から流れて来た魔物に殺された。


それでも少女は川守を続けている。


川守は川から流れてくる死んだ魔物の素材が手に入る、

さらに、街からも川守の少女に幾らか給金が出る。


早々に親を無くし、ろくに教育を受けられなかった少女でもある程度この仕事が(あくまで少女にとってだが)割のいい仕事だと理解出来た。



少女は川守の仕事を始める。・・・といってもやっている事は川の上流側をひたすら見つめるだけだが。



川は、平和で穏やかそのものである。


しかし、この日は少し変わった物が流れて来た日であった。


「ん?うへぇ。」


ほぼ毎日遠くをただ見続けるだけの日々によって鍛えられた少女の視力が、流れてくる人型の物体を捉える。



それを見て少女はとても憂鬱な気分になる。


この川に流れてくる漂流物には2種類ある。



一つ目は魔物。大概は既に息の根を止まっている。その素材を売る事で少女の収入になる。


そして、二つ目は人間だ。

未熟そうな若者から、鍛え上げられたゴツい壮年の男、見目麗しい魔法使いと思われる美女など実に様々である。


彼らの共通点は冒険者であり、物言わぬ死体となっていることだ。


実は川守の仕事はもう一つある。


このような元冒険者達が『グールスイマー』や『アクアレイス』になるのを防ぐ為に、街のギルドにそれら冒険者の死体を届けることだ。


ギルドに元冒険者を運ぶだけなら少女にとって大した労力にはならない。


問題はギルドでその元冒険者の身内や仲間に遭遇することだ。



彼らが家族や仲間が死んだといったことに、ただ悲しみに暮れるだけならまだましな方で、

その向けようの無い怒りの矛先を全く関係の無い少女に向けてくる者もいる。


この間など特に酷かった。


・・・貴族風のだったものをギルドに届けに行った帰りに、ギルドの入口に停まっていた馬車から、これまた貴族風の女が出てきた。


彼女は、少女が届けた貴族風の男の婚約者だったらしい。



貴族風の女は最愛の人物である貴族風の男を失いヒステリックに泣き喚いて無関係である少女に当たり散らした。


貴族風の女の身なりはかなり良く、特権階級である事を示す紋章の入ったドレスを身に付けていた。



そのような人物を無下に扱うことは少女には出来ない。


下手をしたら、魔物に殺されるより酷い死に方をするかもしれない。




少女は心を無にし、憎らしそうに少女に当たる貴族風の女の攻撃とも暴力とも言えない弱々しい何かを耐えた。



少女は生きて帰れたら。

とっておいた、いい酒を、1滴残らず飲み干そうと心に決めたころに。



しかし、すぐに貴族風の女はそのか細い腕で少女に当たることを止めた。



落ち着いた彼女は、少女に筋違いな事をした事を謝罪し、少女に幾らかの金を迷惑料だと言って渡し、

馬車に乗って去っていった。




その馬車の後姿は、豪奢なはずなのに哀愁が漂っていた。


そして何故かそれは少女にとって単純な暴力よりも耐え難い気がした。


少女は、微妙な気分になり、忘れようと酒を飲んでも貴族風の女が気になってしばらく酔うことが出来なかった。


その日、少女は今までで一番嫌な気分が続いた。



このように川を流れてくる元冒険者をギルドに届けると、大なり小胸糞悪い事になるのだ。



しかし、だからと言って無視出来ない。出来たらとっくにしている・・・。


元冒険者が水棲の魔物にでもなったら、責任は少女に課せられるのだから。




しかし、その日流れて来た人型の物は様子が違った。



まるで生きているかのように血色のいい顔をしている。

今までの流れてくる元冒険者にこの様な血色のいい顔をした者はいなかった。


少女が違和感を感じて、それに近づき良く観察すると、


「・・・ガッは。」

「っ!?」


息をした。


少女の目の前の青年は生きていた。


少女の感じた違和感は、見当違いではなかったのだ。



とりあえず少女は意識の無い青年を自分の家に招き入れたのだった。


少女は厄介事になってしまったと面倒がろうとしたが、自らが安堵している事に不思議を覚えられなかった。

明日もこの時間帯に1話投稿します。

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