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青年は走る

深い。

深い深い森の中だった。



「・・・ッハァハァッ!」



10代後半辺りのまだ、少年から青年になったばかりの、あどけなさを残しつつ、精悍さを浮かばせる顔立ち。


「・・・ッフゥッ、ハァハァッ!」


この世界では珍しい、黒髪。

それを激しく振り回し。

青年は走っていた。

いや、逃げていた。


『ガア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!』


青年の背後から迫る影。

2、3メートルはあるであろう四足歩行の動物だ。

見た目は狼に近いが、明らかに普通の狼ではない。

少なくとも、青年のにとっては。



・・・普通なら人間である青年はこのような狼モドキとの掛け合いは出来るハズが無い。


森には所狭しと生える木々を初めとした数多くの障害物が存在している。

さらに青年はこの森に入って間もない。

そもそも二足歩行と四足歩行では出せる速度が違う。


今この瞬間にも青年が狼モドキの腹に収まっていない事がまさしく奇跡であった。


「・・・ハァハァッ!!」


『ガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!』



いや、奇跡ではなかった。


楽しんでいるのだ。狼モドキは。


圧倒的強者からなんとしてでも逃げようと、必死に知恵を絞り、策を尽くす弱者。


その知恵も、策も、(すべ)(まった)くの無駄だと知らしめて絶望に染まった弱者の顔を見つつ四肢からいたぶるように食すのが、この狼モドキの最高の楽しみなのだのだ。


そして、存分に楽しんだ狼モドキは、今まで以上の速さで青年に迫る。



この狼モドキの正式名称は『ブラストウルフ』いう。

優れた身体能力もさることながら、『ブラスト』の名の由来となった口から出す火球といった能力を所持している、


この世界に存在する魔物の中では、かなり危険な部類の魔物だ。



『ガァ゛ァ゛!』


すぐ背後でブラストウルフが短く吠える。


「ッ!?あああああ!!!」


それに驚いた青年は、周囲えの注意がおろそかになる。

そして足元に根を張っていた木の根に躓く。不幸にも転んだ先には崖が・・・。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!――――――――――」


結果、憐れな青年は崖の底に真っ逆さまに落ちて行くのだった・・・。





************************************************




青年、三枝 直人(さえぐさ なおと)は一度死んでいる。


住んでいたアパートが深夜に火事に見舞われたのだ。

直人が気づいた頃には、四方が火の海だった。



最初は火が体を焼く苦痛にひたすら身悶えた、


しかし、次第に体の隅から段々に感覚が無くなり、完全に無くなった瞬間に、


直人は見知らぬ、和テイストな空間にいた。



そこには、死後の世界の管理者を名乗る人物がいた。


管理者曰く、直人の死に様が中々に憐れだったので、再び生きるチャンス与える。

それに伴い、直人の希望を1つ叶える。

・・・と。


直人はテンプレートな現代オタクなのだった。

ついでに童貞であり、非モテであり、軽いコミュニティ障害であった。


もはや、直人が魔法使いになるのは時間の問題である。


直人はこのどうにもならないことをどうにかしようと管理者に言った。



『異世界にチートハーレム転生したい』と。



尚、直人がこの解をだすまでの思考時間は僅か0.5秒、

もはや、条件反射の領域である。



そして、光る粒子が身体を包み込み・・・。



気づいたら、深い森の中であった。



まず手始めに、テンプレ現代オタクの直人は、異世界なのだからステータスなりスキルなりの存在を期待した。



高めのテンションで『ステぇぇぇータぁぁぁス!!!』と叫んだ。



前世の自分とは比べ物にならない格好いい声が森に虚しく響いたのみであった・・・。



何も変化が無い事に若干焦る直人。


しかし、もっと焦る事態が直人の身に起こる。



ステータスが存在を確認するために大声を出したせいで、すぐ近くにいた、

赤黒い毛並みの狼モドキ、ブラストウルフにきずかれたのだった。



そして、森の中のリアル鬼ごっこが始まり、冒頭に繋がる。




************************************************



幸い崖の下は川であった為、十数メートル上から落ちたた直人は落下死(2度目の死)をなんとか免れた。


が、


「ぷはっごぼぼぼぼっぶっァごぼぼぼ!!!」



川はかなりの激流であり、体の自由が聞かない。



おまけに川の両端は切り立った崖であるため、

もし、この激流の川の中で泳げられたとしても体力が尽きるまで激流に襲われ続けるだけだ。



そして最終には溺れて空気中から隔離され酸素を得られ無くなり溺死する。



この川は、落ちたらほぼ助かる事が無いため『死の川』と呼ばれていた。



そして、憐れな青年、直人は再び迫る溺死(2度目の死)の恐怖を前にし、意識を失った。








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