贖罪
目を覚ますと、自分の部屋じゃないことに気づいた。
「・・・知らない天井だ。」
定番のセリフをとりあえず言っておく。
こんな状況くらいにしか使う機会ないと思うし。
何も無い真っ白い空間だ。長く居ると発狂するかもしれない。
これはアレか。
「死後の世界ってやつか・・・。」
この後に、神でも現れて異世界に・・・。だったら笑える。
ただ、死んだなら両親には悪いことをした。ろくに親孝行できていなかったし。
先ゆく不幸をお許しください。って自殺したわけじゃないか。
しかし何も無いなこの空間。もしかして、どっかにここから出る出口とかがあったりして。
ちょっと探索するか。念の為。
・・・体感時間で一時間程探索した。なんと衝撃の事実が判明した。
・・・何も無い。
押しても引いても叩いても何も無い。
煮ても焼いても揚げても何も無い。
「ひらけゴマ」
もちろん何も無い。
なのでしばらくぼーっとしてたら。体感時間でさらに一時間後、目の前の壁が左右に、さながら、コンビニの自動ドアのように開いた。
開いた先にはかなり長い階段があった。
・・・階段しか無かった。
とりあえず階段を上がるとその先には巨大な、両開きの扉があった。
・・・扉というより門と言った感じだが。
扉は近づくと勝手に開いた。
扉の先は全くの別世界だった。
目が覚めるような朱色の鳥居。奥には社が見える。
遠くには鮮やかに色付いた山々が望める。
今までの殺風景が嘘のような世界が目に刺さる。
しばらくして鳥居の奥にある社に座っている人影を見つける。
近づくとその人影は女性の形をしていた。
しかし、普通の人間では無い事にも気付く、
輝くような金髪と同じ色の頭から生えた狐耳、さらに当然のごとく臀部から生えた尻尾。
まさしくお狐様。もっふもふである。
もう一度言おう、もっふもふである。
―――よく来たのう、ここは死後の世界、さらにその管理者の住まう空間じゃ。―――
そして二次元から飛び出て来たような整った容姿。
身長は120センチメートルに届くかどうか。
幼女だ。美幼女だ。
纏うのはまさしく巫女装束。
金髪お狐巫女幼女様だ。うおおおおおおおおおお。舐め回したい。舐め回したい。舐め回したい
―――っ!?なんじゃ、とてつもない寒気を感じたのじゃ!!―――
のじゃロリ!のじゃロリータ!!!!
―――・・・まぁいいのじゃ。それよりおヌシは死んだのじゃ。―――
嗚呼。なんて可憐な声。耳が幸せ過ぎて何処かに飛んで行きそうだ。
―――おい、ワシの話を聞かんか。―――
金髪お狐巫女幼女様の声をしっかり聴くためにずっと黙っていたせいで、金髪お狐巫女幼女様が拗ねてしまった。そんな様子も可愛らしいが。
何か言って機嫌をとった方がいいだろう。
ここは慎重に、いかねば。
下手に格好付けたセリフではなく。なんというのか素朴な感じで・・・。
よし!!
「我が死に場所ここに見つけたり!!!!」
―――イヤだからおヌシ既に死どるからな!?―――
そういえばそんな事言ってたな。
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現在、俺は金髪お狐巫女幼女様と社の中で向かい合って座っております。
なんとかもう一人の俺が落ち着いたのだ、金髪お狐巫女幼女様が淹れたお茶(ヤツが再び現れしかけた)を啜っている。
お茶がすごく美味しい。いや、すごく美味しいお茶だった。
「やっぱり死んだのか俺は?マジかー。あっ、お茶のお代わり貰えます?それとお茶菓子も欲しいです」
―――マジじゃ。ちょっと待っておれ。―――
そう言って金髪お狐巫女幼女様は立ち上がり、社の奥に行った後、少ししてお茶のお代わりと饅頭を持って再び現れた。
さっそく頂いて、まず饅頭を口に入れる。饅頭の中身は粒餡だった。
口内に広がる餡の濃厚なのに甘過ぎない味、それを優しく包み込む餅。そこにお茶を流し込む。このお茶も素晴らしい。熱すぎずぬるすぎない風味を最大限に感じられる絶妙な温度だ。
饅頭+お茶=原点にして頂点
ここに1つの答えが生まれた瞬間だった。
―――茶と菓子に夢中になるのは良いが・・・おヌシ、ワシの言った事を聞いていたのか?―――
「俺が死んだって事だろ?」
―――うむ。――――
「俺ってどうやって死んだんた?全く記憶が無いんですけど。」
―――火の不始末じゃの。ついでに何かに引火してけっこうな火事になったのじゃ。―――
「あー。残っていたスプレーに引火したか。」
―――恐らくそんなところじゃな。・・・そいでの、幸い早く気付かれたのでおヌシ以外に犠牲者はほとんどおらんかったのじゃが・・・―――
「ほとんどいなかったってことは。つまり少なくとも一人以上俺のせいで死んだ人がいたのか?」
―――うむ。おヌシの住んでいたアパートの真上に住んでいたヤツがおってな。憐れなので願いを1つ聞いてやったのじゃ。そしたらそヤツ・・・―――
あっ、なんとなく予想出来る。
―――『異世界で美少女ハーレムが欲しい、ついでに異世界だから。なにかしらチート能力も欲しい』とな。―――
「二つじゃん」
―――まぁ、その程度はワシにとって誤差の範中じゃ。―――
なにそれすごい。
「しかし、何故それを今俺に?」
―――うむ、実はおヌシこのままだと地獄に落ちることになるのじゃ・・・曲がりなりにも罪の無い人間を焼死させしまったからの。しかし、不本意な事故であるし、贖罪の余地は有ると死の管理者であるワシは判断したのじゃ―――
「贖罪ってのは具体的に何をすればいいんだ?」
―――おヌシにはヤツの能力の1つになって一緒に異世界にいってもらう―――
「サー●ァント的な?」
―――そうじゃの。ちなみに拒否すると地獄に直送されるぞ。本物の地獄は地獄絵図なんてあまっちょろいものではないぞ―――
地獄絵図って十分やばそうなのにあれでもあまっちょろいのか。本物の地獄ヤベェ。後、ナチュラルにネタが通じた事に驚いた。
―――で、どうするのじゃ―――
「そりゃもちろん、やらせていただきます」
そう言って俺は残っていたお茶と饅頭を一気に平らげる。・・・お茶は冷めても美味しかった。
元々、こういう展開には憧れがあった。形式はやや異なるが異世界転生だし。あと、地獄怖い。
―――ふむ、分かったぞ。まぁ殆ど一択じゃしな。ではそろそろ時間じゃな―――
「あぁ、じゃあな金髪お狐巫女幼女様。お茶と饅頭ご馳走さん」
―――お粗末様じゃ。・・・ってなんじゃその渾名は!?―――
「だって名前知らないし」
俺のまわりが光に包まれてゆく。
―――そういえばそうじゃったの。いいか!ワシの名はあっ、ちょっとまて!おい!!―――
俺は光る粒子になって消えた。
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