火の不始末は異世界への入り口である
初投稿者です。
「完成だ・・・。」
2時過ぎの、築30年以上の薄暗く畳張りのワンルームの部屋で俺はぼそりと、そう独り言を呟いた。
山積みにされたて独特の匂いを放つ空のスプレー缶と塗料、様々な形状の工具、そして中央には、おそらくは濃いくまが浮かびあがらせ口元を歪めているであろう俺。
もし、この光景を他人が見たら、・・・人にもよるかもしれないが、ほとんどの人は俺をやばい人間だと錯覚するだろう。
・・・というかこの前、塗料の匂いで大家さんにシンナーをやっていると勘違いされて犯罪者予備軍のレッテルを貼られそうになったばかりだが・・・。
・・・おっと。嫌なこと思い出すところだった。・・・その事を忘れるために俺は、目の前に鎮座する”それ”に意識を戻す。
深い蒼と黒をベース、に所々に黄金のカラーリング。
騎士をモチーフにデザインされたが、生き物の様な生々しさももつ装甲。
頭部には鋭い刃物の様な一本角で、カメラアイは所謂モノアイ。
本体の半分もある大型のライフルを右手に、反対側の手には中型のシールドを持ち、腰部に2本の剣を差す。
約20センチメートル程のプラモデル、『グレイヴ』に・・・。
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・・・『グレイヴ』とは、『超越戦装甲機神』という深夜放送のテレビアニメに登場する主人公のライバルポジションに当たる人物であるルフィアス=クアイズの愛機だ。
『超越戦装甲機神』は2クール全25話でそれなりの人気とファンを集め深夜アニメのロボット枠のなかでは成功した方の作品だ。
大まかにストーリーを説明すると、
ある日、世界に突然謎の物質『超越物質』が、出現する。
『超越物質』は、重力の操作や、エネルギーの生産、さらには、ある条件下においては物質の複製すら可能で、さらに、いくら使用しても減少しないという・・・それまでの物理や化学を、まさに文字通り”超越”した性質を備えていた。
各国は競って『超越物質』の研究を進めた。その結果、人類の技術力は飛躍的に上がった。
・・・しかし、問題が起きた。
いくら使用してもけして減少しない『超越物質』にも絶対数がある。
結果、『超越物質』をめぐる戦争が起きた。
それによって、世界は『合衆国』、『王国』、『大陸』、『島国』の4つの勢力に分かれた。
そして、各勢力の技術者たちは『超越物質』の性質を兵器として、最大限に駆使出来る『装甲機兵』を開発する。
・・・ちなみに『装甲機兵』だと、長いので、劇中ではたいてい『Аs』と呼ばれてた。
『Аs』は、『超越物質』で生産されたエネルギーを動力源としている。とゆうか、それ以外にもほとんどの武器弾薬がそれに依存している。
何せ、費用がほとんどかからないし枯渇の心配もないからだ。
第2次世界大戦においても日本が敗れた大きな要因としても有名なのでバカにはならない。
『Аs』の登場によって既存の戦術は無意味なものになったこの戦争は『4勢戦争』、俗に『超越戦』と呼ばれた。
舞台はそれから20年後・・・。
『合衆国』の学生、主人公のレド=アカギは、ある日、住んでいた都市が『王国』軍の襲撃を受ける。
技術者の両親と共に家の地下シェルターに避難すると、そこには主人公の知らない、
・・・およそ通常の『Аs』の2倍のサイズを誇る純白の機体『ホワイトファング』を目にする。
『ホワイトファング』は、この作品のタイトルにもなっている『装甲機神』の1機だ。
『Аs』と『装甲機神』の違いは、『Аs』が『超越物質』で生産されたエネルギーを動力源にしていることに対して、
『装甲機神』は『超越物質』を直接組み込み、『Аs』以上の性能と半永久的な稼働をを実現したことだ。・・・つまりは完全な上位互換だ。
元々は『島国』の技術者だった主人公の父親アスカ=アカギが設計し『合衆国』によって製造された『ホワイトファング』に搭乗し、なんとか『王国』軍を退けたレドは『合衆国』軍に入隊し様々な敵と戦いを繰り広げ、
最終的には戦争を起こして『超越物質』を独占しようとしている黒幕を倒す。というストーリーだ。
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ルフィアス=クアイズは『王国』軍のエースパイロットで、初登場は第3話でレドがなんとか戦いに慣れ始めたころに登場する。
『王国』軍本部から、『合衆国』の新兵器を鹵獲するためにレドの所属している隊を襲撃する。
当時ルフィアスの愛機は『グレイヴ』ではなく、『王国』軍の『As』の『ソードマン』を改造した『ダブルソードマン』で盾とライフルを取り外して剣を両手に装備し、機体をルフィアスのパーソナルカラーである紺にされたものだった。
機体の性能では劣るもののルフィアスはエースパイロットとしての実力を発揮し主人公を追い詰める。
・・・が、それによって主人公の寝っていたパイロットとしての才能が覚醒させる。
ルフィアスは急に動きが良くなった『ホワイトファング』相手に撤退を余儀なくされる。
これが主人公とルフィアスが初めて対峙した戦闘だった。
劇中で主人公とルフィアスが対峙するのは、この回を合わせて4回だ。
2回目では連戦で主人公が疲弊した瞬間を、狙い『ホワイトファング』の頭部を強奪し、それを解析して得た『装甲機神グレイヴ』を新たな愛機にする。
3回目以降はルフィアスの『グレイヴ』と負傷した『ホワイトファング』を主人公の戦い方に合わせて改修した『レッドインパクト』との一騎打ちが主になる。
4回目の戦闘の後にルフィアスは、『王国』軍に裏切らてレドの仲間になる。
物語終盤でルフィアスは主人公を黒幕の攻撃から庇い、炎に包まれる『グレイヴ』と運命を共にする。
このシーン流れたBGMは悲壮感満載で非公式だが『焼け死ぬBGM』と名付けられてしまった・・・いい曲なのになぁー。
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『超越戦装甲機神』は優れたメカデザインと等身大のヒューマンドラマで一時期話題になった。
そのほかにも、独特のギャグとシリアスのセンスでいまだにそれなりの人気とファンを誇っている。
・・・かくゆう俺もその一人だ。
今回めでたく『レッドインパクト』と『グレイヴ』がプラモデルとして、ネット販売限定で売り出された。
もちろん俺は両方とも買った。
どちらから先に組み立てるか迷ったがデザインが好きだった『グレイヴ』からにした。
色分けには難が有るがディテールや可動範囲などはなかなかの出来だった。
なので、俺がやった事といえば塗装のみだった。・・・まあ、俺の性格上結局、三ヶ月程かかったが。
しかし、思っていたよりもいい出来に仕上がり、かなりの達成感が得られた。
さてと。そろそろ寝るとするか。明日は溜まった空き缶スプレーを捨てに行かなければならない。
俺は布団に入り目を閉じた。
すぐに意識はブラックアウトした。
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『今朝のニュースです。本日、朝5時頃★★★県●●●市のアパートで火災が発生し男性二人の死亡が確認されました。警察によりますと、火元は1階で何らかの可燃性物質に引火したと考えられるそうです。警察は引き続き調査を続けるとの事です。では、次のニュースです・・・』
読んで頂きありがとうございました!( ´ ▽ ` )ノ