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一話 名前



 僕は今、校門のど真ん中に立っていた。


もちろんこんな目立つところにずっといようだなんて思っているわけでは断じてない。


目の前に高原さんはいて、僕を中に入れてくれないのだ。


「ねえ、高原さん。いい加減入りたいんだ。そこをのけてよ」


「いやよ。私にも都合があるの」


「いやいや。その都合、ちょっと下らなくない?」

 

目を使ってから言う。


このままだと高原さんに遅刻にさせられる。


「ふっ。心を読んだわね。じゃあ、単刀直入に言うわ。あんたが私の名前を呼べばそれで終わるのよ!さあ、早く呼びなさい!」


「それならさっき呼んだじゃん。高原さんって」


「違う!そういう意味じゃない!苗字じゃなくて下の名前で呼べって言ってんの!」

 

校門前で大声で僕に向かって叫ぶ高原さん。


「そんな理由で入校を阻止しないでよ!このままじゃ遅刻しちゃうよ!」

 

現在の時刻は8時15分。


まだ、少し余裕はあるがのんびりも出来ない。


「だから、私の呼び方を『高原』から『実咲』に変えてくれればそれでいいの!」


 厄介な。


「それは後々面倒になるんだって。高原さんも分かるでしょ?」


「どうしてよ!」


 どうやら頭に血が上ってそこまで答えが至っていないらしい。


「友人にからかわれるのはともかく、姉さんに知られたら高原さんは折檻コースかもしれないよ?」


 そう。


僕が嫌がる・・・というより高原さんの身を案じているのだ。


姉さんに知られたらただでは済まない。


僕の名前を呼ぶのとはまた違うのだ。

 

姉さん曰く、


「ナツのことを呼ぶのはナツの同意があればだけど、結局相手の自由じゃない?でも、ナツが相手のことを名前で呼ぶのはナツがその人のことを親しく思っている証拠なのよ!私ですらナツに呼び捨ての名前で呼ばれたことがないのに。そんなのずるいじゃない⁉」


とのことだ。


姉を呼び捨てで呼ぶ弟がこの世界にどれだけいるだろうか?どう考えても少数に決まっている。


「うっ。で、でも!私も引けないの!だからお願い!名前で呼んでよ~!」


 すでに登校してきた他の生徒たちから注目も浴びている。


そんな中で涙目になり出した高原さんを見た生徒たちが僕に呼んでやれよという目を向けてきた。


目の力を使わなくても分かるほどに鋭い視線たちだ。


「は~あ」


 僕はため息をつく。


「分かったよ。実咲」


 僕のその言葉に若干顔を赤くして恥ずかしそうにしながらもホッとする高原さん改め、実咲。


今回のこの課題。


僕や実咲だけでなく、この課題を考えた櫻嘉さんにも姉さんの怒りの魔の手が迫りそうだな。


知られないように、もし知られても姉さんを出来るだけ抑えないとな~。


「そ、それでいいのよ!」


 そう言うと走って学校に入っていた。


「ハァ。今日も頑張ろ」


 周りの刺々しい視線を受けながら僕も学校に入っていった。




                ・・・




 教室に入ると山田が近づいてきた。


「おっす。今日もいつものか?」


 ニヤニヤしながら聞いてくる。


「おはよう。まあね。懲りないよね~」


 実咲が転校してきてすでに一週間が経過していた。


あれから事あるごとに実咲は僕にアタックしてくる。


どうやら毎日あの父親に僕に関する課題を出されているらしい。


それを実咲はしょうがなくこなしている。


まあ、今回も合わせて成功した課題は二つのみだが。


「なんでこうなるのかな~」


 自分のカバンを机に置きながら山田に愚痴る。


「そりゃお前、なんだかんだ言いながらも惚れてんだよ」


「誰が?」


「高原さんが」


「誰に?」


「お前に」


「ないない」


 首を振りながら山田の言葉を否定する。


「なんでだよー。あり得る話だろー」


「まあ、傍から見たらそう見えるかもな」


「だろ?じゃあ、なんでそんなに否定的なんだよ~」


「ああしなきゃいけない理由を知っているんだよ」


「へえ。教えてくれよ」


「個人情報なので・・・」


 手で制しながら言う。


「なんで高原さんの個人情報をお前が知っているんだよ⁉」


「あの人の父親が僕の父さんと知り合いなんだよ。そこ経由なの」


「あー。なるへそ」


「ほら、そろそろ先生来るぞ」


 と、僕が言うとタイミングよく先生が入ってきた。


「やべっ。じゃ、また後でな」


「おう」


 さあ、今日の始まりだ。僕VS実咲の戦いと言う名の。





読んでくれて感謝です。

次の話もよろしくお願いします。

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