一話 はらぺこ少女
あれから数年が経った。
僕は15歳の高校生になった。
家的にも親的にもいわゆるお金持ちの通う高校に通うように勧めてきたんだけど、僕は出来ればそんなしがらみは無しの高校生活を送りたかった。
なので、必死に親を説得して何とか一般の高校に通うことが出来るようになった。
まあ、家族の一人が猛反対を未だに続けているけど・・・。
まあ、兎にも角にも。
ここ、私立光山高校は少し校則がゆるいだけの普通の学校だ。
家から歩いて30分という普通の距離。
それを今日も普通の毎日を享受しながら登校する。
猛反対を続けている者が今はいないからだ。
僕の所属しているクラスは1年C組。
仲が良く、団結力がどのクラスよりもあるとみんなが自負している。
そんな仲のいいクラスメイト達と今日も楽しく過ごすため、いつものように教室に入る。
「おはよ~」
僕は家族のおかげもあり、今ではかなり明るくなっている。
「おう、おはよう。高波」
僕に声を掛けてくれたのは親友の山田誠龍。
これで「せいりゅう」と読むのだが、若干中二臭い・・・。
でもまあ、かっこいい名前ではあるのだがその名前でいじると何故か怒る。
どうやら名前負けしているので滅多なことじゃ呼ばないで欲しいらしい。
「おう。山田」
こんなのんびり毎日が続く、そう思っていた。
・・・
それは放課後、少し帰りが遅くなって少し遅めの帰路に付いたときのことだった。
学校と自宅のちょうど中間辺りに着いたとき、ぐぎゅるるるるるる!と近くの電柱の方から音が鳴っていた。
そんな何かを訴えるような音が聞こえてきたのだ。
「?」
僕は不思議に思い、その音の鳴る方を向く。
「ううっ。おなかすいた」
そこには涙目でうずくまっている女の子がいた。
あまりにも悲壮感が漂っていて、かわいそうだったので少し悩んだ後、声を掛けた。
「あの~」
「?」
「お腹空いたんですか?」
「!」
何故か表情だけで返事をしていた。
もう声を出すエネルギーすら大切だと言うんですね?
「もし、よかったら僕の家に来ます?最近冷蔵庫の調子が悪くってね。冷蔵庫の食べ物そろそろ全部無くして新しい冷蔵庫、買おうと思っていたところなんですよ」
「・・・」
急に困った顔になる。
「大丈夫。心配しなくてもいいよ。ナンパとかじゃないから」
僕は女の子の考えていることを読み取ってそう返す。
「・・・」
女の子は少し考えた結果、食欲が勝ったらしく、大きく頷いた。
「じゃあ、ついて来て」
僕は家に案内する。
どうやら食事出来ると分かって最後の力を振り絞ったらしい。
よろめきながらもしっかりとついてくる。
さすがに「背負って行こうか?」とは僕も言えない。
「さあ、入って」
家に到着し、女の子を家に入れる。
女の子は物珍しそうにあたりを見回す。
まあ、僕も初めてこの家にやって来たときもあんな感じだったな。
「じゃあ、そこの部屋で待ってて。30分くらいで出来るから」
僕は女の子に居間に行くように指示する。
女の子は分かったと言うように頷いた。
僕は台所(というよりもはや厨房)で料理を始める。
ちなみに使用人は雇っていない。
この家の家訓で『すべて、家族で乗り切るべし。』というものがあるので。
そして何年も僕が作っていたら父さんの知り合いのプロの料理人が家に来たとき、料理を出したら急に作った人を聞き、僕だと答えると土下座をして『まいりました。』と 言った。
まさかプロに勝ってしまうなんて僕も予想出来なかった。
まあ、確かに舌が肥えた人間に毎日作っていたから多少は自信があったが。
まあ、とにかく。
そこまで成長していた。
何かしらの才能はあったのだろう。
他の家の掃除、洗濯など、家事全般がプロ並になってしまっていた。
まあ、回想はここまでにして、そんな訳で30分後、居間に大量に食事を出した。
「どうぞ、召し上がれ」
僕がそう言った瞬間、すごい勢いで食べ始めた。
ただ、急いで食べるだけでなく、味わって食べている。
それに、食べ方も急いで食べているのにどことなく上品だ。
「それじゃ、僕もいただきま~す」
そうして三十分もしたら比喩でもなんでもなく、山ほどあった料理がなくなった。
あまりに力の抜けた、ゲッソリした顔だったので気付かなかったがこの子はとてつもなく可愛かった。
「「ごちそうさま」」
女の子はこっちにやってきて、
「ありがとうございました」
「いいや、いいんだよ。こっちも困ってたところだったし」
「いえ、私も何かお礼を」
「いや、いいって」
「いえ、そういう訳には」
女の子は真剣だった。
「う~~ん。それじゃあ、なんであんなのになってたの?」
「うっ。それは・・・」
「ダメだったかな?」
「い、いえ。話します」
女の子は少し抵抗があったようだが話し出した。
読んでくれて感謝です。
次もぜひ、よろしくお願いします。