ウサギ狩りのお時間です。
キレた主人公さんは結構口が悪くなります。
というか、そこそこ人格が変わります。
とりあえず、ギルドに戻ろう。理由は単純。
「人族でも夜に狩りができる場所はありますか?」
ギルドの相談窓口に相談する為だ。受付は俺がここで初めて出会った坂本さん。
「次の町、センドの北にダンジョンがあります。そのダンジョン内は薄暗いですが、常時明かりがついていますので、狩りはできるでしょう。次の町へ行くためのイベントについて説明しますか?」
「お願いします」
「イベント内容は街道を塞ぐラビの群れの討伐です。群れには《統率》で全体のステータスに補正をかけるラビットリーダー、ラビットと外見は変わりませんが力が強いラビットファイター、この辺りでは珍しい攻撃呪文を使うモンスターのラビットマジシャンと回復魔法を使うラビットメイジが合計20体、それにラビとラビットが100から200体ほどいるそうです。依頼を受けた方はいますが、達成した方はまだいませんね」
「どうしてですか?対策を立てれば何とかなりそうですけど。」
「報告によると、この辺りでは魔法を使うモンスターがいないので、ラビットマジシャンの魔法に対応しきれないそうです。また、ラビットファイターはラビットとは簡単に見分けがつかないので、力加減を間違えて攻撃を受けきれなかった人もいるようですね。このようにして前衛が崩されて、後は数の暴力に飲み込まれてしまう…というのが大体のパターンですね。対策を立てれば…というのには賛成ですが、みなさんラビにやられたというショックや死に戻りの恐怖からか再挑戦しようとしませんし、後続の方も『先発組がクリアできないなら自分たちも無理だろう』と挑戦する人は少ないです」
「なるほど、ラビにやられたらそりゃショックですよね」
「豆腐メンタルの方がそれ以降DEFを上げようと防具ばかり更新している姿は滑稽で非常に面白いです」
わぁ辛辣。
「挑むなら、クエストボードの左端にある大きい紙が依頼書なので、それを持ってクエスト受付に行って、処理してもらってください。草原を抜けた先の森にある大きな道を5分くらい進むと、イベントが始まります。クエスト達成はセンドのギルドで処理してもらえますので、ここまで戻ってくる必要はありませんよ」
「そうですか。ありがとうございました」
行こう。ここ2日間の様子では、戦法によっては殲滅できるだろう。
「ご武運を」
「行ってきます、坂本さん」
あ。
「私はミグですよ、“コウ”さん?(ニコッ)」
「す、すいません」
笑顔が怖い。なんというか、眼鏡をかけてないのにそこはかとなく鬼畜メガネ感が出ている。
逃げよう。
去っていく背中をみながら、呟く。
「彼は『冒険者』たりえるでしょうか?」
少なくとも先ほどの彼の激情は生半可なものではない。
「願わくば、彼が堕ちてしまいませんように」
そして、今の彼も、無邪気に笑っていた彼も、彼の本当の姿なのだろう。
「いけませんね、年を取るとどうも独り言が多くなる」
男は思考を断ち切って、ギルドの職務に戻った。
草原を突っ切って森の道を目指す。
ギルド前の例の駅ビルで装備を買い替えて、消耗品を買い込む。靴はもう少し性能の高いものを、グローブは手のひらと手の甲が金属で覆われ、指まで布があるものに、杖もヒスイと同じものを購入した。残った手持ちは30ジェネ。
MPを無駄にしないように、鑑定の魔眼をたまに使いながら進む。
道中、草原でラビ4匹、ラビット2匹と出会った。イベントで試そうと思っていた戦法を試す。
…いけそうだな。MPは少し減ったが、このくらいならイベントでも通じるだろう。
まってろウサギども。全員一緒に俺の経験値と素材にしてやるからな。
森の中の道とやらの入り口についた。戌亥は、大吾は、香澄は、美奈は、どうしているだろうか。どうせまだ奴らに囲まれているだろう。
いつか。いつの日か。またみんなで遊ぶのだ。
これはその第一歩。
「ピィッ?」
「ピィ!」
「ピピッピ!」
「ピピ!」
多分今のラビたちが群れの斥候みたいなものなのだろう。道の先に逃げていった。仲間を呼んでくるのだろう。その場で待つ。
1、2分で群れが見えてきた。5メートルはある道幅が、灰と白に埋め尽くされている。壮観だな。
「ピッピッピ!」
「「「ピピッピッピ!」」」
あいつら、多分だが、こっちを見て笑ってやがる。大方、6人組パーティーを返り討ちにしてきたから、1人に負けるはずがないとでも思っているのだろう。いい度胸だ。気に入った。
鑑定すると、最初に笑った奴がラビットリーダーだった。
「面白いやつだ。お前は最後に殺してやる」
「ピピッ!?」
殺気が伝わったのか、なんか震えてる。早く来いよ。
「さっさと来いや畜生どもぉぉぉ!」
「ピィッ!」
「「「ピィッ!ピィッ!」」」
灰と白の壁が迫ってきた。
まず最初に、俺は自分の背面に《魔力調節》で強化したファイアウォールを展開する。背面からの攻撃を防ぐためだ。逃げることはないので、問題ない。もう杖に用はないので、群れに向かって投げつける。
群れの先頭のラビットが飛び上がってきた。このくらいなら躱せる。でも。
「ギュピッ!?」
わざと受けて、頭をわしづかみにする。結構痛かった。DEXがそこそこ高くないとできない芸当だろうが、俺にはできた。
「ギュ!?」もう片方の手にもラビットを掴む。俺のHPは…3減っている。
「オラァ!」跳びかかってくるラビたちを手に持つラビットたちを振り回してはたき落とす。
処理しきれないときは、横によけてファイアウォールに突っ込ませる。
突っ込んでくる奴1匹ずつに《鑑定》を使ってラビットファイターかどうか確認しているので、不意打ちされることもない。
ラビットマジシャンが魔法を使ったら、その魔法に向けて出来るだけ速くラビットを投げつけて、誘爆させる。うまくいけばラビットマジシャンと、すぐそばにいるラビットメイジを巻き添えにできた。
幸い|弾切れ≪・・・≫の心配はないので、躊躇はない。
こっちからも魔法を使って、魔法が飛んでくる辺りにファイアボールを撃ちまくる。狙いはつける暇がないので適当。
そんな風にしていると、10分で目に見えて数が減り、更に10分後にはラビットリーダーとラビットファイター2匹に、ラビとラビットが6体になっていた。
流石にすべての攻撃はいなしきれず、俺のHPは残り52、MPは8まで減っていた。まぁ、このくらいなら何とかなるだろう。
ラビットたちにファイアボールを撃ち、走り寄って蹴っ飛ばす。残ったのはラビットファイターとリーダー1匹ずつ。ラビットファイターが跳びかかってくるが、勢いを殺して頭を掴んで、首を捻ってポイ。いい感じに慣れた。
ラビットリーダーも意を決して突っ込んでくる。しかし、ラビットファイターのように俺に捕まってしまった。
「じゃあな」
こいつは俺の事を排斥した性格ドブスを思い出させたので、首を絞めて殺す。
「キュ、ギ、ギ…」
動かなくなった。俺の手の中で光の塊になって、弾ける。これでクリアだ。
「はああぁぁ、つっっっかれたぁ~」
その場に座り込んで休む。ポーションとか携帯食料で回復していると、目の前にウインドウが現れた。
『 運営からのお知らせです。
第二の街、センドへの道を解放した者が現れました!
イベントクリア者は一名です。
他の方も次の街を目指して頑張ってください。 』
うげ、一人でクリアしたって書かれてる。とりあえず、もう疲れたからセンドに行って、ログアウトしよう。
センドのギルドでクエスト達成を処理してもらって、近場のおすすめの宿屋を聞く。
町の中や門の外の風景や特色なんかは疲れ切った身体と頭では目に入らなかった。門からギルドまでが短かったので、ファストよりも小さいなとは思ったが。
宿屋にチェックインして、ホットケーキみたいな甘いパンで腹を満たして、ベッドにダイブ。
今日はもうログインするのやめとこう。疲れた。
次の街の話は、また次回。
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趣味で書き始めた拙作ですが、今後ともよろしくお願いいたします。