怨憎会苦。愛別離苦。
どちらも仏教用語。
生きているために生じる苦しみについての説明において
憎い、恨んでいる奴に会う苦しみ。
愛している者と別離する苦しみ。
とされる言葉です。
違わい!という人はごめんなさい。倫理でこう習ったもので。
ログアウトしている間に、多少は勉強もしておこう。
「課題しないなら」とかいってVRギアを取り上げられたら目も当てられないし。
もうすぐログアウトしてから30分というところ。
ベッドに寝転がってVRギアをつけて「じゅうぅーう。きゅぅーう」とカウントダウンする。
「なぁー」と言っていたら携帯が鳴る。誰だろう?戌亥だ。
「もしもーし、どした?」
『いいか!電話かけなおすまで絶対ログインするな!』
「はぁ?何言ってんだよ」
『時間がないから説明は後だ!絶対ログインするなよ!5分くらいで掛け直す!じゃあな!』
「オイ、だから何言って『プツッ』切りやがった…」
どういうことだ?何かヤバそうな雰囲気だったし、おとなしく待っとこう。
おかしい。10分経っても掛け直してこない。ゲーム内ではかなりの時間が経っているはずだ。
心配だし、少し様子を見てみよう。
ログインする。
取り敢えず、宿のロビーへ。
ヒスイたちはいないようだ。俺が行ったことある範囲で探すしかない。いつも通りに大通りを通って西門へ行ってみよう。門まで行って見つからなかったらおとなしくログアウトしよう。
それらしき四人組を見つけた。俺が最初にラプスたちと会った広場だ。何か人だかりに囲まれてるんだが…。ダイっぽいのがかろうじて見える。
直接はとてもじゃないが話しかけられない。そういえば、『フレンド』からテレビ電話みたいなことができるって言ってたな。何となく適当な路地に入って、『フレンド』からラプスを選び、コールを押す。
ヤバい。画面が開いたのはいいが、周りが五月蝿い!
「おい、ラプス!どうなってんだ!」
『なんだこの画面?』
『フレンドコールじゃないか?』
『こいつが寄生野郎ね!』
『誰よあんたは!』
『おい!やめてくれ!そいつは…!』
『アンタがいるからラプス君たちが森まで行けないでしょ!』
『寄生なんて恥ずかしい真似、よくできるな!二度とラプスさんたちと関わるな!』
『迷惑なんだよ!帰れ!』
『そうだ!帰れ!』
『帰れ!帰れ!』
うるさ過ぎるのでたまらずコールを切る。また、あいつらか…。そりゃ戌亥からしたら俺と会わせたくないわな…。
さっきの奴等は戌亥たちの中学校の頃の取り巻きで、リアルでも俺を毛嫌いしている連中だ。幸い、コール画面の周りに人が密集し過ぎて俺とは分からなかったようだが。
学校での戌亥たち四人組はかなり人気者だ。そりゃあ、外見やら性格やらの美人とイケメン4人組なのだから、当たり前だが。
中一の頃に取り巻きがいなかったのは、明らかにランクが落ちる俺がいつもアイツ等の傍にいたからだ。俺に「アンタみたいなやつは戌亥君たちといたらダメなの!そんなこともわかんないの!?」とほざきやがった救いようのない性格ブスは中一の頃から俺を除いた戌亥たちをマークしていたようで、中二になって俺が違うクラスになった途端、戌亥たちとグループぐるみで付き合い始めた。
あの性格ドブスの目的はクラスの奴等の上に立つこと。
戌亥たちが人に命令するような人間じゃないってことを分かって、わざと戌亥たちの下について、戌亥たちの威を借ることでより大人数の上に立ったのだ。
そのために、中三になると俺は性格ドブスのグループだった奴等に排斥された。戌亥たちの拍が落ちるという理由で。幸いイジメにまでは発展しなかったのは、俺が学校で戌亥たちと関わるのを早々と諦めたから。
学校で会えなくても、休日などでは俺の家でみんなで遊べるし、あのクズ共とは関わるだけ損すると思ったからだ。
その後、卒業前に俺のおばあちゃんの調子が悪くなり、一緒に住むことになったのだが、家が狭くなってしまい引っ越すことになった。俺のいた中学校はほぼエスカレーターで入学する高校がきまっていたので、その高校に入っても、友達と話せない学校なんて価値がないと思った俺は引っ越し先から一番近い学校に行くことにした。
こんな感じで俺は今の学校に友達がいない。
それにしても…あのクズ、VRにまで手を出して来るとは。見上げた根性だが、またラプスたちと遊べる時間を削りやがって。やっぱあの時問題になってもいいから顔面殴ってわからせてやればよかった。ラプスたちは優しいから利用されてることに気付いても付き合ってやってるだけなのに、完全に調子に乗ってやがる。
まぁ、俺は奴らと関わるのがめんどくさい。奴らは戌亥たちから離れようとはしないだろうが。
それに、奴らの言い分にも一応理がある。β勢の戌亥たちに交じっていたnoobの俺は寄生と言えなくもない。今日からはソロでやっていこう。ログアウトしたら一応そのことを連絡しよう。
もし、だ。まぁ、奴らはいつかやるという確信があるが、俺の友達を一人でも泣かせるようなことがあったら。
その時は一人残らずPKして排除してやる。
『その時』の為に、俺はもっと強くなろう。
―――冷静なフリをして、本当は今にも爆発しそうな本気でブチギレた頭で、そんなことを思った。
主人公さんは友達の為に怒れる人です。
ちょっと怒りすぎじゃね?と思っている方もいるかもしれませんが、その理由は今後書いていくつもりです。
後付けみたいになってすいません。