初?作業じゃない戦闘。
コウ君が、『一方的な狩り』じゃなくて、正面切って戦ったのって何気に初めてじゃないですかね?
そう思ってこの話のタイトルを付けました。
慣れない戦闘描写なので、分かり難いところがあったら教えていただけると嬉しいです。
マッドゴーレムが近づいてくる。
これまでの奴等と違って、ドスドスとかノッソノッソじゃなくてスルスルと滑るように近づいてくる。
両足を地面につけたまま、足の裏を流動で滑らせてるんだろう。足の裏に車輪でも仕込んでるみたいな動きだ。
「アテにならねえパーツがざっと50ほどある」ハズもなく、脚を浮かさない分安定してる感じだ。足の裏も水気が有る分接地面積が増えてるだろうし。
取り敢えず、近づかれる前にできる限りのバフを掛けておく。
「ウインドエンチャント」
「ファイアエンチャント」
追加で身体強化、気闘法、気功闘法、気刃化、気迅化もつけておく。
泥製とはいえ、実力の分からないゴーレムの一撃を貰うのは悪手だ。それに、触れられたらそのまま体に飲み込まれて窒息死とかしそう。サンドゴーレムより流動のレベルが高いから、あり得なくない。
やはり、回避しつつの魔法しかないか。
相手が近づいてくる速さに合わせて下がりながら、先ずは風魔法。
「ウインドランス!」
当たったけど、効果が薄い!水気を含んで重くなってるから、砂の時みたいに吹き散らすことが出来ない。そして、吹き飛んだ分もゴーレムの前方にしか落ちないから、流動で回収されてみるみる内に治っている。
クソッお前は未来から来たサイボーグの更に未来から来た最新型か!
愚痴っても仕方ないので、今度は火魔法で攻撃。
「ファイアランス!」
これも当たる。ウインドランスよりは幾分か効いているみたい。若干背丈が縮んだように思う。ってヤバい!軽くなった分、ちょっとだけど明らかに速くなった!
行き止まりに追い込まれるくらいなら、この先の部屋で待ち構えた方がいいか…。
この階層に来てから次の階層への魔法陣は見てないし、一本道だった。このままだと追いつめられる。
ファイアランスを2、3度ほど当てつつ逃げていると、部屋に出た。
ここで倒す!
火魔法の方が効きが良いなら、ファイアピラーなんかで一気に焼いてやりたいけど、狭いから下手に使えない。天井は3メートルくらいしかない。山人族が長柄の得物を振りかぶれば、天井に邪魔されてしまうだろうほど。
自滅だけはしたくない。これで死に戻ったら、おいたんに今度からソロで入れてもらえなくなるかもしれないし。俺がパーティー組めるわけない。なんとしても生きねば。
来た。もう、SPDに振ってる俺でもバフがなかったら後ろ走りじゃ距離を広げられないだろう位に速い。スピードをゆるめず一気に距離を詰めてくる!
手を振りかぶることなく、そのまま抱き着くように突っ込んでくる。大きく横に跳んで逃げた。
幸い、いきなり方向転換するのは難しいみたいで、そのまま壁にドチャッとぶつかった。
動きが止まったので、ファイアランスを使う。また当たって、小さくなった。最初は2メートルくらいあった身長が、今では1メートル60位になっている。
「うおおっ!」
こっちに振り向かずに、体の前後を入れ替えて、またいきなり突っ込んで来た!
だからお前は最新型か!
また横に跳んで回避。
今のはヤバかった…。まだまだ、体積的に俺を窒息させることは容易いだろう。気を引き締めねば。しかしながら、このペースでは時間が掛かり過ぎる。サンドゴーレムが追加で現れたら、ウインドランスを使おうとして注意を逸らした隙にやられかねん。
一か八か、次の突進の時にメイスで一撃入れてみるか。
壁にぶつかった時の泥の質感的に、柔らかいというほどでもないけど、ロックゴーレムよりは脆そうだし。
そうと決めたら、集中だ。
来る!
メイスは右手で持って、右肩に担いでいる。そして突進に合わせて、マッドゴーレムの右膝目掛けて姿勢を低くして飛び込むように躱す。躱しざまに、肩を支点にしてメイスを振り抜いて、ゴーレムの右の腰辺りを吹き飛ばしてやった。
ゴーレムはバランスを崩して、床に転がる。
動きが止まっている間に咄嗟にファイアランスで追い打ちをかけて、一旦距離を取る。
何とか上手くいったな。
!
右手が冷たい。目を向けると、メイスについていた泥が俺の右手を覆うようにうごめいている!
「魔拳・火!」
《魔力調節》で通常の3倍MPを込めた魔拳を発動させて、必死で拭う。
幸い威力は十分だったようで、触った端から砂に戻って行く。なんとか振り払うと、マッドゴーレムが1メートル40くらいになって立ち上がっていた。
どうやら分裂した体と同時に動くことは出来ないみたいだ。もしできていたらさっきの隙を見逃すはずはない。
この調子なら、なんとか倒せそうだ。最後まで気を引き締めて行こう。更に速くなっているはずだしな。
次の突進が来る。同じように躱して、メイスを叩き込もうと動き出した瞬間。
ゴーレムの身体から泥の塊が飛んできた!
咄嗟にメイスの先の太くなっているところを振り下ろして壁にしたが、体の数か所に一部が付着してしまった。しかし、今は突進を躱さなければならない。しかし咄嗟にメイスでガードしたはいいものの、そのせいで重心がブレて、満足に動けない。
横に跳んで躱すのは無理だ。
どうする、どうする、俺!
「魔脚・火!」
咄嗟にできたのは、足にも同じようにブーストした魔脚をまとって、メイスを振った勢いのままに回し蹴りを叩き込むことだった。
右足を軸にして一回転して、左足を蹴りだす。
胸のほぼ中心をとらえた脚は、そのまま胸を貫通した。しかし、ゴーレムの動きはまだ止まっていない。
その時、俺が開けた胸の穴の中に。
一瞬周りの泥から飛び出た、『E』の字に窪んでいる泥を固めたプレートが見えた。
最早これを破壊しなければ、他に生き残る道はない。
トンネルでやった時のように、手を手刀の形にして、穴が塞がる前に滅茶苦茶に泥をかき分けた。
そして、泥が俺の胸まで到達した時。
ついにプレートを捉えた。すぐさまはぎ取って握りつぶす。
そして、俺の体を光が包み込んだ―――――――――
死に戻ったんじゃなくて、身体にまとわりついていたマッドゴーレムが核を潰されて倒されたことで、光になったのを描写しているつもりです。
マッドゴーレムのドロップ確認と、次の階層については次話。
5階層ごとの中ボスはその次の話にする予定です。
以下次回以降のネタバレです。
鉄分多めです。




