トンネル作業の最中。(もなかじゃないよ)①
この先生きのこる
今後楽園
ちくわ大明神
洞窟での作業風景は非常に地味だったので、面白かったシーンをダイジェストでお送りします。
だって!火魔法のレベルが一番高いの俺だったし!《格闘》使ってる人もいなかったし!ヒスイたちに聞き忘れたゲームのルールや、今まで手を出してなかった生産系のスキルについて位しか新しい情報はなかったんだもん!
いや、地味って言ったけど、レイさんやフエンさんと話すのは結構楽しかった。でも、そういうのって他の奴が聞いてもつまらないじゃん。だから、端折ります。
一日目、正午
「そろそろ飯にしようぜ!」
「そうですね。そろそろいい時間ですし」
あの後、俺は魔法を試しながら作業効率を上げようと色々試していた。
「じゃあ、詰所まで戻ろ。今日の担当は誰かな~」
なんか、アミカさんだけじゃなくてニックさんまでもがテンション上がっているように見えるのだが…。森人族のアバターは耳で大体の感情が分かる。ような気がする。
「あの、どうしてみなさんそんなにうれしそうなんですか?」
「そりゃあ、ここの飯が美味いからにきまってるじゃねえか。詰所に兵士さんがいただろ?あの人たちが作る料理は絶品でなぁ!しかも、みんな得意料理が違うから、いろんな味が楽しめるんだ。俺たちはここにきて3日ぐらいだが、もう携帯食料なんて食えたもんじゃないぜ!」
「あの、それって、この依頼終わったらどうするんですか?」
「あ…」
「ちょっと!?何も考えてなかったんですか!」
「しょうがないから、料理屋や宿屋で作ってもらおうと思ってるよ。割高になっちゃうけど、1回あの人たちの料理を食べちゃうと、我慢出来なくてねぇ…」
「《料理》スキル取らないんですか?」
「生産系スキルをとるほどみんなスキルポイントに余裕はないんだよね。今のところは消耗品の供給や装備品の性能や補修には困ってなかったから、どんどん戦闘系のスキルに使っちゃったの」
「そうだったんですか。僕は今まで新しいスキル取ってないので、結構余ってます」
「初期スキルだけでイベント突破したのか?お前やっぱすげえ無茶したのな。ちなみに何とってるんd…いや、マナー違反か。忘れてくれ」
「別に教えてもいいですよ?魔法全部に、《魔力調節》、《魔力促進》、《格闘》、《鑑定》です。ファイアショットの取得条件も《鑑定》で調べましたよ」
「そんなスキル構成で近接やってるのか!?いや、その構成からすると、前情報なしで始めたのか。説明書はちゃんと読まないと意味がないぞ?」
「防具屋のオッチャン的指摘ありがとうございます。もう散々友達に言われたので、勘弁してください」
「まぁ、人のプレイにケチをつけようとは思わないが…。ホントに、よくクリアできたな?どうやったんだ?」
「掴んで、投げて、誤爆させて、キュッてしました」
「いや分かんねーよ!」
やはりこれだけでは伝わらないか。真面目に説明しよう。
「へー、最初は無茶だと思ったけど、聞いてみるとできなくはなさそうって感じかな?」
「いや、多分《格闘》がDEFとDEXにも作用してるからできた芸当であって、普通の奴は無理だろ…。そもそも魔法と物理を両立するのはとても難しいって言われてるから、《格闘》と魔法スキル持ってる奴なんていないし、仮に《格闘》と物理補助スキル持ってる奴でも後ろからの攻撃を捌き切れなくてアウトだ。そして何よりレアなのが《鑑定》だな。ラビットファイターの奇襲が防げるなら確かに有効だろうが、持ってる奴はいないだろうな」
あんま自覚してなかったけど、6人がかりでできなかったことを1人でっていうのは、かなりの非常識だったようだ。まぁ、できちゃったモンは、しょうがないよね☆(テヘぺろ)
と、益体もないことを考えていると、詰所に着いた。
「おう、昼飯にするのかあ?ちょっと待ってな!すぐに作ってやっから」
今日の当番はジーグさんらしい。正直あんまり料理上手には見えないのだが…。
美味そうなご飯が5分で出てきた。正直、10分は待つだろうと思っていたのだが。
メニューは肉や野菜の入ったコンソメスープっぽい色のスープに、麦以外にも混ざっていそうなパンに、ベーコンのような肉を焼いたものが人数分用意されていた。
みんなでいただきますをして(ニックさんも)、まずはスープから一口。
美味い!
何というか、居酒屋のつまみみたいな、濃くて塩っ気の強い味だ。
「どうだ?疲れてるだろうから、ちょっと塩気は強めにしといたぜ」
レイさんたちもガツガツ食べてる。俺も手が止まらない。
「ちょお美味いっす!」
ベーコンっぽいのを口に入れたまま、ジーグさんに感想を言う。
「そうか、そうか。喜んでくれると俺もうれしいぜ」
そうか。なんていうかこう、ゲーム内で初めて、満腹度の回復のためじゃなくて、食べたくてご飯を食べてるからか。
そりゃ美味いわな。
食い終わって一休みしていると、ジーグさんが自分のことについて教えてくれた。
「俺はよお、こんなナリだが、この街の結構な高級レストランの息子だったんだ」
マジか。全然そうは見えない。
「俺は料理を作るのも食べるのも大好きだ。けどな、小さいころから細かい作業が苦手で、親父が作るような料理が作れなくてよお。弟が生まれてからは、親父も俺に料理を教えるのをやめて、弟にだけ料理を教えるようになった。なんもかんもイヤになっちまった俺は、13の時に家出したんだ」
酷い話だ。
「今思えば、その頃違う街から来たやつがはじめた高級レストランができて、親父も余裕が無かったんだろうな。んで、家出した俺は当然、路頭に迷った。何にも持たずに家出したから、メシも食えないし、宿も取れなかった。夏が終わった頃だったから薄着だったんだが、さすがに夜は寒くてよお。死ぬかと思ったぜ」
ジーグさんが結構平気そうに話してるから深刻に聞こえないけど、辛かっただろうな。
「そうやって、寒空の下でブルブル震えてたらな。街の巡回をしてる兵士さんに見つかったんだ。それから、詰め所に連れてく前に、寒いだろうからって行きつけの料理屋に連れてってくれたんだ。とっくに店は閉まってたんだが、店長さんはすぐに料理を作ってくれた」
ジーグさんは懐かしむように目を細めて、お茶を一口飲んでから、また話しだした。
「俺は親父の料理を食ってたから、舌は肥えてるっていう自負があった。そんで、大したことないだろうと思って食ったらな、めちゃくちゃ、美味かった。人生で一番美味かった。夢中になって平らげた後、兵士さんは俺を家まで届けるって言って色々聞いてきたけど、俺は何も答えなかった。自分が料理を学びたい場所を見つけちまったからな。俺は兵士さんと店長さんに頼みこんで、店で働かせてもらうことになった。どうせ家に帰っても、誰も待っててくれないしな。それからは、住み込みで働きながら、必死で店長さんの料理を教わった。兵士さんとはほぼ毎日店で話したよ。んで、ある時、兵士さんが兵舎でもここの料理が食いたいって言ったから、店長さんに相談して、兵士になって、兵舎の料理担当になったんだ。初めて兵舎で俺の料理が出たときのあの人の呆けた顔は、今思い出しても傑作だぜ」
ええ話や…(泣)。
「ちなみに、そこにいるギースはさっきの話に出てきた街の外からきたレストランの息子だぜ。こいつの料理は北のスーウェ地方風でな。今は寒くないが、寒い時に食うといつもの3倍は美味いんだぜ?明日はギースが担当だから、楽しみにしてろよ?」
「そう言われると、照れますね。あ、そうそう、これを飲んでみてくれませんか?明日の料理に使いたいのですが、独特な匂いがあって、苦手な人もいますから」
そう言って、ギースさんはコップ半分くらいの白い液体を渡してきた。《鑑定》さん、お仕事です。
ゴートカウのミルク 素材アイテム
ゴートカウから取れたミルク。独特な匂いと、濃厚な味わいが特徴。乳脂肪分が非常に高く、ある程度バターや生クリームを作った後のものでなければ、飲むのには適さない。
料理に使えば『耐寒』効果があり、DEFが強化されることも。
是非とも入手したいアイテムだな、これ。ていうか、ゴートカウて。ゴーカートかよ。こいつも《鑑定》。
ゴートカウ 獣
ものぐさな牧場主が山羊と牛を同じ柵で囲っていたら生まれたハイブリッド。
毛は糸や布に、皮は防具や紙に、角は武器に、肉と乳は食用にと、様々な用途がある。
ものぐさな牧場主が柵を閉め忘れたときにほとんどが逃げ出したことで、広く飼われることになった。
暑さに弱いが、それ以外では基本草なら何でも食べ、気性も温厚なので北方や高山帯の人々は好んで飼育する。
しかし、一部の個体は野生化しており、北方の草原などに生息している。
気性は荒くなっており、群れを形成して生活している。一度外敵が現れれば、山羊の毛による物理的な防御力、山羊の角と牛の突進力を活かした突撃を群れ全体で行い、外敵を轢き殺す。
野生化したゴートカウから取れる素材は飼育されているゴートカウのものよりも数段上の品質で、はぐれたゴートカウを見つけたものは一攫千金も夢ではない。
北方に行ったら、絶対群れごと狩ってやる。グループジェノサイダーの名に懸けて!ま、今はまだ無理だろうけど。もちろん用途は食用です。ジュルリ。
おっと、ゴートカウのミルク飲まなきゃ。独特な匂いってどんなのかな?まずは一口。
うっま!これうっま!
独特な匂いって獣っぽい感じかと思ったら、なんとなく甘ったるい感じの匂いだった。これならお菓子なんかにも使えるだろう。甘いものは好きなので、ぜひ食べてみたい。
いやー、ものぐさな牧場主さんは仕事してないけどいい仕事したわー。
レイさんたちもダメな人はいなかったようで、明日はこれを使った料理になるらしい。やったね。
後でゴートカウのミルクが帰る場所とジーグさんが世話になったお店を聞いておこう。
ジーグさんは身長2メートル弱ありますけどまだ19です。要するにレイさんたちと同い年くらい。ギースさんもまだ19です。
さあ、笑顔の絶えないアットホームな職場ですが、コウ君の今後はいかに!?
ブックマークされた方が100名になっていて、かなりビビっております。読んでくださる方、本当にありがとうございます!




