第95話 君は嘘のつき方を知らない 3
長い朝が終わり、長い昼が終わり、ついに約束の夜が来た。
俺は今日という日ほど時間の流れを遅く感じた日はなかった。暇さえあれば空を見上げて、早く陽が沈むのを祈っていた。ところが太陽系のボスときやがったら、いつまでもいつまでもいつまでもそこに居座り続けていた。さては俺に対する嫌がらせで地球が自転をサボっているんじゃないかと勘繰ったほどだった。でももちろんそれは俺の被害妄想だった。
そんなちっぽけな理由でこの太陽系第三惑星が46億年続けてきた営みを止めたりしない。小学生でもわかることだ。俺はどうかしていた。やむを得ない。もうじき童貞を卒業するのだ。平常心でなんかいられない。
一方で高瀬も少なからず平常心を欠いているらしかった。彼女は玄関のドアの両脇に、福助人形とだるまを置いていた。それはSNSの最古参フォロワー・オーイシクラノスケ氏のアドバイスによるものだった。「初体験がうまくいくかどうか不安なら、縁起物を家の前に置きなさい」というのがそのアドバイスだった。
そんな妙ちきりんな助言を高瀬は真に受けて実践したわけだ。普段なら笑い飛ばしそうなものなのに。そういう意味では彼女も俺に負けず劣らずどうかしていた。やむを得ない。もうじき処女を卒業するのだ。平常心でなんかいられない。
民家の軒先に福助人形とだるまが対になって鎮座するそのシュールな光景は、当然ながら道行く人たちの好奇の目を引いた。笑い出す人もいればスマホで撮影する人もいた。彼らはこの家の住民はちょっと頭がおかしいんだと思ったことだろう。
その忌々しい二体のオブジェを物置に放り込んでしまうこともできたが、験を担いでまで高瀬が初体験を成功させたがっている証だと考えると、粗末に扱うわけにもいかなかった。
なにはともあれ陽は落ち、月がのぼり、約束の夜が来た。
♯ ♯ ♯
決して示し合わせたわけではなく、俺たちはいつもより早めに夕食をとった。そしていつもより早めに食器を片付け、いつもより早めに入浴した。風呂にはいつも通り高瀬が先に入り、俺が後に入った。
俺が髪を乾かして脱衣所を出ると、リビングにはとんでもなくかわいい女の子がいた。それはもちろん高瀬だった。俺が二年と三ヶ月前に一目惚れした女の子。これから彼女と一夜を共にするのだと思うと、その時より今の方がずっとかわいく見えた。
高瀬は二人がけのソファの右半分に座って、テレビの野球中継を見ていた。いや、正確には視線の先にたまたまテレビがあって、そのテレビが野球の試合をたまたま映しているだけだ。俺の顔を直視できないのだろう。放映されているのがたとえ20年前の宝くじの抽選会でも、彼女の目はテレビに向いていただろう。
注目すべきは高瀬の格好だった。彼女はいつも風呂上がりには薄手のパジャマを着るのだが、今日に限っては白のTシャツを着て、青のショートパンツを履いていた。まるでこれから夜通しの冒険に出かけるみたいに。
いいだろう。不肖ながら俺もその冒険に同行しよう。はなから今夜は眠る気なんかさらさらない。明日からは夏休みだ。
俺はなにげない風を装って高瀬の隣に腰を下ろすと、さりげない風を装って彼女の肩に手をまわした。俺の心臓はいまだかつてないほど早鐘を打っていた。なぜならこのボディタッチは俺からのいわば最終確認だからだ。
本当にいいんだな? と声には出さずとも尋ねていた。拒絶されるんじゃないかといくぶん不安もあったが、それは杞憂だった。高瀬は頭を俺の肩にもたれかけて、それから体重を預けてきた。彼女のTシャツの上からは淡いピンクのブラジャーが透けて見えた。俺はその華奢な体をそっと抱き寄せた。
やはりチェリーはきのうのうちに明里さんに引き渡しておいて正解だった。あの人懐っこいボーダーコリーがもしここにいたら、間違いなくこのムードをぶち壊されている。
そのまま俺たちは野球中継を見るともなしに見ていた。二人とも何も喋らなかった。それでも「この試合が終わったら……」と高瀬が思っているのは、肌越しに伝わる彼女の鼓動や呼吸のリズムからなんとなく読み取れた。
試合は7回裏を迎えていた。やたらフォアボールとエラーの多い冗長なゲームだった。ピッチャーが無駄な牽制球を投げたりバッターがファウルで粘ったりするたび俺はじりじりした。試合時間の決まっているサッカーやラグビーならそうはならなかっただろう。野球は初体験を迎える直前に見るべきスポーツではないようだ。
さいわい試合は延長戦に入ることなく、9回でゲームセットになった。ヒーローインタビューが始まったところで、高瀬は小さく息を吐き出した。俺はリモコンでテレビを消した。そして高瀬と最古参氏のSNS上のやりとりを思い出した。
『するなら彼の部屋がいいよ。だーリンさん、繊細そうだから、彼が勝手知ったる場所の方がうまくいく。そして電気はつけた方がいいよ。だーリンさん、不器用そうだから、暗いと何かと手間取るよ』
そう最古参氏はアドバイスを送っていた。我が家の玄関を見世物小屋のそれにしたことからもわかるように、高瀬は最古参氏を信頼しきっている。彼女の頭には、最古参氏の書いたシナリオがあるに違いない。
「俺の部屋に行こうか」と俺は高瀬にしか聞こえない声で言った。
「行こうか」と高瀬は俺にしか聞こえない声で言った。
俺は彼女の手をとった。そしてリビングから廊下へ出て、二階の自室を目指して階段をのぼった。いつになく一歩一歩を踏みしめてのぼった。俺たちは今まさに大人の階段をのぼっているんだな、と思った。
ドアを開けて見慣れた部屋に入ると、月の明かりだけをたよりに彼女をベッドに座らせて、俺はその隣に腰を下ろした。
「ひとつだけ聞いてもいい?」と高瀬は言った。
「いいよ」と俺は言った。
「神沢君はどうして、初体験がしたいの? 何か特別な理由があるの? その、性的な好奇心は、別として」
「体験する前と後じゃ世界の見え方が変わるって聞いたんだ」と俺は答えた。「高瀬もよく知ってるように、残念ながら俺は自慢できるような両親の元に生まれてくることができなかった。そのせいもあってか、小さい頃から世の中の暗い面ばかり見せられてきた。正直今でも俺の目にはこの世界はあまり美しくは映らない。だから確かめてみたいんだ。本当に世界の見え方が変わるのかどうかを。変わって見えたならその世界は美しいかどうかを」
暗がりの中で高瀬はこくんとうなずいた。
「そういう高瀬は?」と今度は俺が尋ねた。
「アイリのSNSを見ていたなら、知っているでしょ?」
「きちんと高瀬の口から聞きたいんだ」
意地悪な人、という風に彼女は肩をすくめた。
「神沢君もよく知ってるように、私はこのままいけば半年後には望まない結婚をしなくちゃいけないの。望まない結婚相手に処女を捧げるのは、死んでも嫌だから。もちろん結婚を阻止するっていう神沢君の約束を信じていないわけじゃないんだよ? でもね、待っているだけはなんだか嫌だったの。自分から変えたかったの。何かを」
「運命を変えるための初体験」と俺は冗談交じりに言ってみた。
「やめてよ、大袈裟だってば」高瀬はくすくす笑って、俺の肩を軽く叩いた。叩いたその手は肩にとどまり続けていた。やがて笑い声が消えた。そして静寂が訪れた。「そろそろ変えちゃおっか、運命」
俺は口の中の唾を飲み下してうなずいた。そしてやはり最古参氏のアドバイスを思い返して、枕元のライトをつけようとした。すると高瀬はそれを制した。
「明るいと照れちゃうから、暗いままで……」
「わかった」
「脱がせて」
「わかった」
俺は彼女の求めに応じて髪留めを外し、シャツを脱がし、ショートパンツを脱がした。そこまではよかった。問題はブラジャーだった。ブラジャーなんて自分でつけたこともなければ誰かのを脱がしたこともない。もちろん学校で脱がし方を教わったこともない。そもそもどういう構造になっているのかもよくわかっていない。そのうえ指先を照らすのは月光しかない。最古参氏の予想通り、俺はえらく手間取った。
「ごめん。こういうの、手慣れてなくて」
「ばか」高瀬は優しく耳元でささやいた。「それでいいの。暗闇の中でブラを脱がすことに手慣れていたら、大変でしょう?」
「試したな」と俺は軽く舌打ちして言った。
「これでおあいこ」と高瀬は、俺がSNSをこっそり見ていた仕返しとばかりに言った。
♥ ♥ ♥
それから俺たちは、冒険の旅に出た。
まだ見ぬ“新世界”を目指して野を越え丘を越え、草をかきわけ岩を乗りこえ、渓谷を抜け湿原を抜け、魚と共に空を泳ぎ、鳥と共に海を飛んだ。
冒険の先導は俺が担うこともあれば高瀬が担うこともあった。俺がずっと行ってみたかったところに彼女を連れていき、彼女がずっと見てみたかったところに俺も付き添った。行く先々に発見があり、教訓があり、示唆があり、感動があった。
意外なことに――これは本当にまったく予想していなかったことだけど――俺よりも高瀬の方が冒険に対し積極的だった。彼女の方が行ってみたい場所が多かった。彼女は寄り道を好んだ。そんなところまで見てみたかったのか、と俺は少なからず驚いた。
とはいえもちろん俺は寄り道にも付き合った。彼女の要望通り、聖地を巡礼し、遺跡を探索し、火山を拝んだ。
なにしろ新米の二人の冒険だから、うまくいくことばかりじゃない。足を踏み外すこともあれば、道を間違えることもあった。それでもその都度、俺たちは互いを慰め励まし合って、一歩ずつ着実に歩みを進めた。
長かった冒険もいよいよ大詰めを迎えた。新世界はすぐそこだった。行くべきところは行った。見るべきところは見た。伝説の宝玉は集めた。いにしえの封印も解いた。神々の加護も得た。愛の紋章も揃えた。あとは目の前の扉を開けるだけだ。その先にはまだ見ぬ世界が広がっている。
俺はエチケットとしてつけるものはつけようと、今度こそライトを灯して枕元に手を伸ばした。それをとどめたのは高瀬だった。彼女は俺の腕をつかんで、首を横に振った。
「いらない」
「でも……」
「余計なことは何も心配しなくていいんだよ」と高瀬は前もって準備していた台詞を言うように言った。「今日は、大丈夫だから」
「わかった」と俺は言った。
「私、泣いちゃうかも」
「どうして?」
「どうしてだと思う?」
「痛くて?」
「ばか」と高瀬は言った。「違うよ。うれしくて」
どうやら俺はもう何も言わない方がいいようだった。だから口を閉じてライトを消し、呼吸をととのえた。
高瀬と出会った日から今日までの思い出が頭の中で再生された。まるで日めくりカレンダーをめくっているようだった。この二年と三ヶ月、彼女はいろんな顔を見せてくれた。どの顔も俺は好きだった。明日の彼女はいったいどんな顔をしているだろう?
俺は新世界への扉に手をかけると、心を無にして、ゆっくり力を込めた。
高瀬の瞳からこぼれるひとしずくの涙を、俺と月だけが見ていた。
わずかではあってもたしかに開いた扉の向こうからは、強烈な光が差し込んできた。あまりのまぶしさに俺は早くも目眩がしそうだった。それでも俺は扉から手を離すつもりはなかった。がむしゃらに扉にしがみついて、むしろその手にいっそう力を込めた。俺が力を込めれば込めるほど、扉が開けば開くほど、差し込む光も強くなっていった。それは何かと問われれば、たしかに新世界の光だった。
新世界への行く手を遮るものはひとつとしてないはずだった。スマートフォンの電源は切った。玄関の鍵もかけた。ドアのチャイムも消した。火災報知器も外した。蚊や蝿のたぐいも駆除した。ボーダーコリーも明里さんに預けた。
何物にも邪魔をされず、何者にも干渉を受けず、俺は扉を完全に開け放ち、新しい世界の風景をこの目で見ることができるはずだった。
――しかしながら、それは起こった。
一度、二度と、ベッドが揺れた。ずしん、ずしんと、地響きのような音を伴っていた。
三度目のずしんで、揺れているのはベッドだけじゃないことがわかった。部屋全体、いや、家全体が揺れている。ずしん、ずしん。地震だろうか? 違う。それにしては揺れがあまりにも規則的すぎる。一定のリズムでずしんが来て、おさまる。まるで相撲取りが家のどこかの柱でてっぽうでもしているみたいだ。六度目のずしんで、ついに高瀬は閉じていた目をゆっくり開いた。
「この揺れ、神沢君が起こしてるんじゃないの?」
「家中が揺れるほど俺は激しくしてないよ」
「それじゃ、なんなの、これ?」
知らんぷりを決めこんで扉を強引に最後まで開けてしまうこともできたが、あいにく高瀬はもはや気が気じゃないようだった。口惜しいが、名残惜しいが、やむなく俺は、開きかけた扉から手を離した。扉は閉じ、光は消えた。ずしん。
「本当になんなんだろう、これ?」
「外から聞こえない?」
言われてみればたしかに、震源は玄関あたりのような気がする。
俺たちはベッドから裸のまま下りて窓際へ向かった。そしてカーテンの隙間からこっそり軒先を見下ろした。そこには信じがたい光景が広がっていた。
二人の若い女が、一本の丸太を脇で抱えている。そしてあろうことか、その丸太で玄関のドアを突いている。ずしん。残念ながら俺たちは、二人の女の顔に見覚えがあった。
「あいつら、何やってんだ!?」
「なんで晴香と月島さんがいるの!?」
「なんで今夜のことがバレたんだ?」
「月島さん、なんか言ってない?」
俺は耳をすましてみた。討ち入りじゃ! どうやらそのように聞こえる。
「まったく。何が討ち入りだよ。忠臣蔵じゃあるまいし」
なんとなく発したその言葉に俺ははっとした。忠臣蔵?
「なぁ高瀬。SNSでいちばん親身になってアドバイスをくれた、最古参のフォロワーのアカウント名って、たしか……」
「たしか、オーイシクラノスケ」
「大石内蔵助」と俺は言い直した。
「忠臣蔵の主人公」
「吉良上野介邸への討ち入りを率いた人物」
頭は著しく混乱していた。それでも最古参氏の正体は月島だということはわかった。月島が柏木を引き連れてうちに来たということはわかった。うちに来た目的は討ち入りだということはわかった。それがあまり喜ばしくない状況だということは、ひどく混乱している頭でもわかった。
「ねぇ神沢君、どうしよう?」
「どうしようもなにも」俺は部屋の中を見渡す。「うちには吉良邸みたいに隠し部屋もなければ影武者もいない。どうしようもない」
しばらく沈黙があった。十度目のずしんで高瀬は観念したように息を吐いた。
「どうやら、ここまでみたいだね」
何か言うべきなんだろうけど、俺はすっかり消沈して何も言えなかった。
「それにしても、世の中うまくできてるなぁ」彼女は自嘲気味に笑う。「SNSのおかげで迎えられた神沢君とのこの夜が、SNSのせいで終わっちゃうんだから。皮肉な話。これはきっと神様からの私に対するお叱りだね。言いたいこと、思っていることがあるならネットで吐き出したりするんじゃなく、きちんと本人に面と向かって伝えなさいっていう。これからは良い子じゃない自分もさらけ出していかないとね」
何か相づちを打つべきなんだろうけど、俺はどんな相づちも打てなかった。さすがに心配になったのか、高瀬はこちらの顔を覗き込んできた。
「ちょっと、大丈夫? 今にも泣きそうな顔をしてるよ? でもしょうがないか。したかったよね、最後まで」
したかった、と俺は声にならない声を喉の奥から絞り出した。
それを聞くと高瀬は俺を慰めるように背中を優しく撫でた。そのあいだも例のずしんは繰り返し続いていた。十三度目のずしんで彼女は唸った。十五度目のずしんで彼女は怒った。
「うるさーい! 文句なら後でいくらでも聞くから、せめてあと五分だけ静かにして!」
高瀬はそれだけ言うと、窓をぴしゃりとしめて呼吸を整え、今度は俺の両手をとった。
「ねぇ神沢君。最後まではできなかったかもしれないけど、私にとっては、とても素敵な夜だったよ。短い間ではあったけれど、不完全かもしれないけれど、たしかに神沢君とひとつになれた。それはまぎれもない事実。だから私の中では、初体験を済ませることができたと思ってる。とても素敵な初体験。今夜のことは、一生忘れないよ」
俺は聞いているしるしにうなずいた。
「三日前、私が部屋にこもったとき、神沢君はドアの前でたしかこう言ったよね。『優等生ともヒロインとも呼べない、意地も見栄も張らない自分に正直な“アイリ”が、俺は嫌いじゃない』って。それは嘘じゃないんだよね?」
「嘘じゃない」と俺は言った。その日俺はいくつかの嘘をついたが、それは嘘じゃない。
「それじゃ意地も見栄も張らず、優等生もヒロインも失格の、本当のことを話すね」高瀬はそう言った。「私はね、この日が来るのをずっと前から待ち望んでいたの」
「ずっと前? いつから?」
「いつからだと思う?」
「いつからだろう?」
「一年生の春から」と高瀬は言った。「ヒカリゴケの洞窟で今みたいに手を重ね合って、神沢君が私の望まない政略結婚を打ち砕くって約束してくれた、あの春から」
「そんな前から?」
「そう。もう二年以上も前からずっと今夜のことを夢見ていたんだよ。今夜の私は、神沢君のイメージしていた真面目で清楚でお淑やかな女の子じゃなかったと思う。それでもそんな私を――普通の女の子の私を――受け止めてくれて、とてもうれしかった。ありがとう。本当に素敵な夜だった」
「続きは」と俺は、野暮を承知で言った。開けかけた扉を未練がましく思い出していた。「今夜の冒険の続きは?」
「続きは」そこで高瀬は、いくぶん打算的な笑みを浮かべた。「そうだな。やっぱり神沢君が私との約束を守って、トカイさんとの政略結婚を打ち砕いてくれたら……かな」
「えぇ?」
「そんな世界の終わりみたいな顔しないの。どうして私がこんなこと言うと思う? 神沢君を信じてるからだよ。約束を守ってくれるって。私にとって神沢君は希望なの。希望がそんな絶望的な顔してちゃだめでしょう? しゃんとした顔を見せて。ね、だーリン?」
俺はなんとか表情を作り直した。それでよし、という風に高瀬はうなずいた。それから思い出したようにカーテンをめくり、軒先の柏木と月島をちらっと見やった。どうやら俺が他の扉から新世界を目指すんじゃないかと不安になったようだ。
「どうしてもまた冒険がしたくなったら、誘って。寄り道だけなら、付き合うから」
俺がうなずくと同時にずしんが来た。十六回目。五分経ったぞ、の合図だ。
「さぁ覚悟を決めなきゃね」と高瀬は、俺が外した髪留めで髪をまとめて言った。その仕草はやけに大人びて見えた。「あの二人に何を言われるかわからないよ。特に私はきのう、いかにも優等生っぽく全校生徒の前で不純異性交遊をいましめたばかりなんだから。神沢君。今夜は長い夜になるよ。準備はいい?」




