第73話 それとも次に来るのは13月なのだろうか? 4
SOSを送ってきた太陽とは高校で会うことになった。
冬休み中ではあるけれど、部活や補習があるので、校門は開かれていた。あちこちの教室に入りたがる唯をどうにか制し――他の生徒や教師の目に触れぬよう唯をどうにか隠し――俺たちは校舎三階の旧手芸部室を目指した。これまでの冒険の証が安置されている、我々の秘密基地だ。
「なんだよ、おまえたちも一緒かよ」三人娘を見た太陽はまず目を見開き、次に唯を見て、その目を瞬いた。「あの、どちらさん?」
「あなたが噂のタイヨー君ね!」唯は人見知りというものをまったくしない。しかし、品定めは、した。「ふぅん。まずまずカッコイイじゃない。あっちの時代でもモテる顔だね。私は唯。パパがいつもお世話になってます」
あっちの時代? パパ? とつぶやいて、伊達男は俺を見た。俺は目を逸らした。「何を言ってるのかよくわからんが、とりあえずこっちこそ世話になってます、お嬢ちゃん」
「タイヨー君は、パパのお友達なのよね?」
「お、おう。悠介は一生のダチだとオレは思ってるぜ」
「パパのお友達だっていうんなら、唯のお友達でもあるな。よし、タイヨー。今日から唯も、タイヨーのダチになってやるぞ」
「おい悠介、さすがのオレもそろそろ限界だ」太陽の頭はクエスチョンマークで溢れかえったようだった。「いったい何がどうなってやがるんだ?」
「実は――」
あまり気は進まないが、俺は事情をかいつまんで説明した。この子は20年後から来た俺の娘かもしれないんだなんて言ったら、さぞ面白おかしく茶化してくるだろうなと覚悟していたが、どういうわけか太陽は顔を引きつらせそのまま黙ってしまった。
普段のこいつなら、パパと呼ばれる俺を見ただけで、一時間でも二時間でも笑い転げていそうなものなのに。
「それはそうと、“人生最大のピンチ”なんだって?」柏木が太陽に声をかける。「いったい何があったの?」
「ああ……。まずはみんな、座ってくれ」
俺たちはそれぞれの席に腰掛けた。唯も余っていた椅子を持ってきて、俺と月島のあいだにちょこんと腰掛けた。一人だけ立ったままの太陽は全員の顔を見渡すと、吐息を漏らした。
「女子がいると話しにくいなぁ。おまけにちびっこまでいるもんなぁ」
「ちびっこって言うな、タイヨー」唯はすかさず物申す。「ダチ、だろ?」
「すまんな、生意気で」俺はいちおう詫びる。
おまえも大変だな、と言いたげに太陽は苦笑いした。「今日これからオレが話すことは、くれぐれも他言無用で頼むぞ。唯ちゃんもだぞ。わかるか? ここだけのヒミツってことな」
ラジャー、と唯は親指を突き出した。
太陽は続けた。「聞いてほしいのは、他でもなく、今付き合ってるカノジョのことなんだ」
「加藤さん」と俺は言った。太陽は秋の学園祭で親しくなった加藤さんという演劇部の女の子と、冬になった今でも恋人関係を続けていた。なりゆきで付き合い始めた割には、思いのほか交際は順調に進んでいるようで、くすぐったくなるようなお惚気話を俺は嫌というほど聞かされていた。
「いい人と評判の加藤さん」と高瀬は言い直した。
「いい人と評判の加藤さん」と月島は繰り返した。「その評判はクラスを越えて伝わってきてますですよ、はい。なんでも近所のお年寄りの家の雪かきを率先してやってあげたりして、市から表彰されたとか。この寒い中よくやるよ」
「いい人だなぁ」と唯は感心した。
「いい人だねぇ」と柏木は共感した。「で、そのいい人の加藤さんが、どうしたっていうのよ?」
太陽はせわしなく両の手を閉じたり開いたりした。それから腹を決めたようにこう告白した。
「彼女、妊娠したみたいなんだ」
部屋の中はしんと静まりかえった。俺は最初、この男がいったい何を言っているのかまったく理解できなかった。そしてそれは高瀬や柏木や月島も同じようだった。それくらい“ニンシン”という四文字は俺たちの日常から大きくかけ離れていた。
やがて時間が経ってその言葉の意味するところがわかってくると、三人娘はまるで変質者を敬遠する目で太陽を見やり、そして、逃げるように机ごと部屋の隅へ移動した。
「そういうことするのやめてぇ!」と太陽は手を伸ばして訴えた。「本当に傷つくから!」
「最低だね」と柏木は言った。
「見損なったよ」と高瀬は言った。
月島は何も言わなかった。何も言わないのが、月島流の非難だった。
唯は俺の隣でけろりとしていた。「タイヨー、パパになるのか?」
「あはは」太陽の目は笑っていない。「あのね唯ちゃん。『パパ』ってのは今、お兄さんが世界で一番聞きたくない言葉なんだ。ちなみに二番目が『赤ちゃん』で、三番目が『責任』な。この三つのうちどれかでも聞くとお兄さん、胸がぎゅぅっと締め付けられるように苦しくなるんだ。そんなわけで、ちょっとばかし気を遣ってくれると、助かるな」
「赤ちゃんできた責任とりなさいよ、パパ!」と柏木がすかさず叫んだ。
ピストルで撃ち抜かれたみたいに仰々しく胸をおさえる太陽を尻目に、俺はうなずいた。なるほど。これでようやくパパと呼ばれる俺を見ても、こいつが笑わなかったのも合点がいった。
「ねぇ葉山君」高瀬は遠くから口を開いた。「加藤さんが、その……妊娠したって、間違いないの?」
「まだ100%確定したわけじゃない」と太陽はまるで空から垂れる蜘蛛の糸をつかむように言った。「だからあくまでも『みたいなんだ』って表現にとどめたんだ。細かいことはこれから話すから、とりあえず皆々さま、こちらに戻ってきてくれない?」
三人娘は再び机ごと移動をはじめた。そして心なしか太陽と距離をとって座った。
「彼女――加藤さんから相談を受けたのは、ちょうど一週間前のことだ」と太陽は話し始めた。「『アレが来ないの』って彼女は深刻な顔で言うんだ。アレってのは、つまりアレだ。いちいち説明しなくても、なんのことかわかるよな?」
「わかんなーい」と唯は首をかしげて言った。「ねぇタイヨー。アレって、なんのこと?」
「唯ちゃんにはまだちょっと早いかな」月島は、これから先はきわどい話になるね、とつぶやいて唯の耳を両手で塞いだ。
「早い話が、生理でしょ?」と柏木が言いにくそうに言った。
太陽は小さくうなずいた。「オレは男だからあんまり詳しくはないが、普通ならだいたい月に一度の間隔で来るもんなんだろ? それが今回は遅れてるって彼女は言う。28日周期で来るところが35日目になっても来ないと言う。さすがのオレもそれが来ないということが何を意味するのかくらいはわかる。アレが来ないの。いやはやまったく、世の中には、こんなにも恐ろしい言葉が存在するんだな」
俺は冬休みに入る前の教室での加藤さんの様子を思い出していた。
教師に指されても授業を上の空で聞いていてまともに答えられないということもあったし、掃除中に立ち話してサボっている生徒たちをひどい剣幕で叱ることもあった。いずれも以前の真面目でほがらかな彼女からは、およそ想像もつかない姿だった。
「たしかに加藤さん、このところ様子がおかしかったもんなぁ」と高瀬は言った。そして太陽を目の端でにらむように見た。「でもそういうことなら、勉強に集中できなかったり、ナーバスになったりして当然だよ。女の子だもん」
「話を進めるぞ」色男はばつが悪そうに前髪をいじる。「オレと彼女はじっくり話し合って、とりあえずもう一週間は様子をみてみようということになった。なんでもアレが遅れる理由は一つだけじゃないみたいだからな。彼女はアレが来たらオレのスマホに連絡を入れると言った。アレは――いや、オレは――バンドの練習中でも夜中でもかまわんから、とにかく来たらすぐに連絡をくれと言った。一週間待った。夜もほとんど寝ないで待った。古今東西の神様に祈りながら待った。でもついに連絡は来なかった」
よく見ると太陽の目の下には、くまができていた。同じ立場に置かれたら俺も眠れる自信がなかった。
「そして迎えた今日の朝。彼女はうちにやってきた」と太陽は言った。「手にはドラッグストアのレジ袋があってよ、その中には何やら見慣れない縦長の箱が入ってるんだ。オレはその箱の中に何が入ってんのかすぐにピンときた。女の勘ならぬ男の勘ってやつだな。『に』で始まって『く』で終わるもんだ。よりによってちょうどそのタイミングで出かけていたママンが帰ってきて、玄関で彼女と鉢合わせた。オレは慌てて彼女を自分の部屋へ連れていった。
ところで悠介。彼女がドラッグストアで何を買ってきたか、おまえさんにはわかるか?」
「妊娠検査薬だろ」と俺はとぼけるでもなく答えた。
「実物を見たことあるか?」
「あるわけないだろ」
「あのな、ぱっと見た感じは体温計みたいな形をしてるんだよ。細長くて片手で持てて、ちょっとでも雑に扱うと折れちまいそうなんだ。こんなちゃっちい代物でいったい何がわかるんだと思ったが、彼女はそいつをお守りみたいに大事に持ってトイレへ向かった。尿をそれにかけると、陽性か陰性か判別できる仕組みらしい」
太陽は焦点の定まっていない目で何もない空間を見つめた。
「オレは自分の部屋で結果が出るのを待っていた。あの待っているあいだの緊張感といったら、ちょっと他に例えようがないね。実際に経験した奴にしかわからんだろうな。緊張のあまり呼吸のしかたを忘れちまって、あやうく死にかけたくらいだ。三分ほどして――やたら長く感じたが実際は三分だ――彼女はトイレから戻ってきた。彼女は無言で検査薬をオレに差し出した。オレは目を背けたい気持ちをぐっと堪えて結果を確認した。
入ってやがったよ。陽性の欄にしっかり赤いラインが。あの時はいっそ、呼吸を忘れて死んじまえばよかったと思ったね」
「神沢、代わって」と唯の耳を塞いでいた月島がささやいてきた。「腕、疲れた」
「あ、ああ」隣に7歳児がいることをすっかり忘れていた。「おつかれさん」
引き継ぎが済んだのを見届けてから、柏木が口を開いた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、なによ、すっかり被害者ぶっちゃって。やることやってるから、妊娠したしないの話になるんでしょう? 自業自得じゃない!」
太陽は少しムキになった。「いや、それがさ、やることやったかどうかは覚えてねぇんだよ」
「覚えてないって、どういうことだよ」と俺は唯の耳をしっかり塞いで言った。
太陽は言った。「たしかに一ヶ月半前に、一度だけそういう雰囲気になったことはあった。あの時もオレの部屋だった。オレと彼女はベッドに腰掛けて、ひとしきり愛だなんだ語り合った。それからひとしきりじゃれ合った。服も脱いだ。そうなるともうやるべきことはひとつしかないだろ? ところが、だ。ところが肝心の、そっから先の記憶が、すっぽり抜け落ちてるんだよ」
「抜け落ちてるって、どういうことだよ」と俺は唯の耳をがっちり塞いで言った。
「実はその日はちょうど『north horizon』がラジオの音楽番組でべた褒めされた翌日でさ、こりゃあブレイク間違いないぜってことで、ふたりで祝杯をあげてたんだ。褒めてくれたのはオレも尊敬しているミュージシャンだったから、うれしさ余ってついつい飲み過ぎちまって、それで記憶がぶっ飛んでるんだよ。
あとになってオレたちは一線を越えたのかどうか彼女に尋ねても、恥じらいつつ頬をぽっと赤く染めるばかり。できれば『はい』か『いいえ』で答えてほしかったが、質問が質問だけにしつこく何度も聞くのもヤボってもんだろ? そういうわけでそのあたりはいまいちはっきりしてないんだ」
いい人と評判でなおかつ風紀委員長の肩書きまで持つ加藤さんがそんななにかとルーズな放課後を過ごしているなんて信じられなかったが、話が逸れるので黙っていた。
「なるほど。それで、妊娠が100%確定したわけじゃないと言っていたのか」
太陽は深くうなずいた。「なにしろオレは身に覚えがないんだからな」
「でも妊娠検査薬は陽性なんでしょ?」と柏木は言った。「あれってけっこう――おそらくあんたが思ってる以上に――精度が高いんだよ? ということは加藤さんは高い確率で妊娠してるんだよ。妊娠してるということは、父親がいるんだよ。父親は誰? どう考えたって、彼氏であるあんたしかいないじゃない」
「そうなんだよなぁ……」とうめくように言って、太陽は腰から崩れ落ちた。でもすぐに立ち上がった。「ちょっと待てよ。でもさ、仮に彼女が実際に妊娠してるとして、父親は本当に、オレなんだろうか? 案外、他にいたりしてな? それはあり得ることだろ? ひとつの可能性としてさ」
恋人を疑ってかかる男の風上にも置けない太陽のその発言は、当然ながら三人娘の顰蹙を買った。太陽への非難の声が収まるのを待って、俺は気になっていたことを尋ねた。
「なぁ太陽。当の加藤さんは、なんて言ってるんだ? その、いろいろと、選択肢があるわけだろ?」
「ああ、それがさ」と太陽は言った。「『ひとりで考える時間がほしい』、だそうだ」
それを聞いた女性陣は、同性として、何かを察したらしかった。ほどなくして高瀬が口を開いた。
「加藤さん、産むかもしれないんだ……」
とつきとおか、とつぶやいて柏木は指を一本ずつ折った。「このままいけばあんた、来年の秋頃にはパパになるかもしれないのね。こうなった以上は、高校をやめて手に職つけて、汗水垂らして働くのよ。愛する家族を養うために」
「やめてくれって。お願いだからそういうリアルなこと言わないで。オレはまだまだ夢を見ていたいの!」
俺は太陽の顔を見た。今にも泣き出しそうだった。
「これが人生最大のピンチかどうかはともかく、今おまえが大変な状況に置かれているということは、よくわかった」
「わかってくれるか、友よ」と太陽は声を震わせて言った。「そうなんだよ。大変なんだよ。みんなも知っての通り、オレん家はそれなりにデカい病院で、オヤジはそこの院長だ。もし息子のオレが同級生の女の子を妊娠させたなんてことが世間に知られたら、病院の看板とオヤジの顔に泥を塗ることになる。オレはまず間違いなく家から叩き出されるだろうな。いや、それだけならまだいいんだ。問題なのはノーホラだ」
「知名度急上昇中の『North horizon』」と俺は言った。
太陽はうなずいた。「これまでの地道な努力が実を結んで、ようやくメジャーデビューの道もほんのりと見えてきた。さっそく来週には雑誌の取材が入ってるし、年明けには地元FMラジオへの出演も決まっている。オレたちにとっちゃ今がまさに正念場なんだよ。
これからのバンドの行く末を占うこんな大切な時期に、スキャンダルは確実に命取りになる。彼女のことがもしバンドメンバーに知られたら、オレは間違いなくノーホラから叩き出されるだろうな。そうなるとこれまでの苦労がすべて水の泡だ。家の中で居場所を失うのはやむを得んとしても、ノーホラの中で居場所を失うのだけは絶対に勘弁だ。なんせノーホラはオレの人生そのものだからな。命の次に大事と言ってもいい。
なぁみんな。オレはどうしたらいいだろう? 今回ばかりは本当の本当に参った。何も良い解決策が浮かばん。どうか助けてくれ」
太陽は誰かが話し出すのを腰を低くして待っていたけれど、一向に誰も何も喋らなかった。窓の外ではカラスが挑発的な鳴き声をあげてどこかへ飛んでいった。
「おいおいだんまりとはあんまりじゃねぇか」と太陽は顔を真っ赤にして言った。「忘れてもらっちゃ困るが、オレたちは『それぞれの望む未来のために協力する』集まりだろう? プロのドラマーになるというオレの望む未来が危うくなってるんだ。せめて一人くらい、『我こそは』って奴がいないもんかね?」
「葉山君に同情して、協力してあげてもいいって人?」
月島が挙手を求めたけれど、高瀬も柏木も手はあげなかった。月島自身もあげなかった。俺は唯の耳を塞いでいたのであげようにもあげられなかった。
そこで思いも寄らぬことが起こった。唯の右腕が、すっと真上へ伸びたのだ。俺はびっくりして思わず両手を耳から離した。
「唯おまえ、俺たちの話が聞こえていたのか!?」
「半分くらいはね」と唯はこともなげに答えた。「でも、何の話をしているのかは、難しすぎてやっぱりわからなかった。でもわかっていることもあるよ。それはとにかくタイヨーが困っているってこと。友達が困っていたら、助けてあげなきゃいけないでしょ? そしてタイヨーは唯のダチだ。だからタイヨー。何があったか知らないけれど、唯はタイヨーを助けてやるぞ」
「聞いたか、おまえたち」太陽は7歳児に平伏す。「まったく、この子の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。よし、唯ちゃんも今日から正式にオレたちの仲間だ。オレの輝ける未来のために力を貸してくれ。いつか武道館ライブが決まった暁には、薄情なこいつらより先に、招待状を出すからな」
「おう。特等席を用意してくれよ」
「おうとも。VIP待遇だ!」
「アホくさ」と柏木は頬杖をついてつぶやいた。
それからしばらくたわいのない話が続いたあとで、月島が思い出したように唯に声をかけた。
「そういえば、明日はクリスマス・イブだけど、パパは何かしてくれるの?」
「ううん」と唯は首を横に振った。「唯はね、チキンやケーキが食べたかったんだけど、パパは『いいか唯。おれはキリスト教徒ではないしクリスマス商戦に踊らされるつもりもさらさらない。だから特別なことは何もしないぞ』とか難しいことを言うの。だからもうクリスマスは諦めてるんだ」
「つまんない男」柏木は容赦ない。「普通、7歳の子にそういうこと言う?」
「明日は居酒屋のバイトがないんだよ」と俺は弁解した。「数少ない休みの日くらい、のんびりしたいだろ」
「休みだったら、なおさら何かしてあげればいいのに」
「何かしてあげられること……」月島が、ぱん、と手を叩いた。「そうだ。唯ちゃんの歓迎会も兼ねて、明日みんなでクリスマスパーティをするっていうのは、どう?」
「いいね!」と高瀬はすぐに賛同した。「それなら、唯ちゃんにプレゼントを用意しなきゃね!」
柏木も続く。「あたしはおもしろいゲームをいくつも知ってるから、明日教えてあげる。いっぱい遊ぼうね!」
唯は隣で椅子から立ち上がった。「わぁ。夢みたい! 早く明日にならないかなぁ。ありがとう、お姉ちゃんたち!」
太陽はひとり、ため息をつく。
「おまえさんたちはいいねぇ、楽しそうで。オレは明日はひとりで部屋にこもるとするよ。とてもじゃないがメリークリスマスって気分にはなれん。それどころか、ベリー苦シミマスだよ」
そのおそろしくつまらないジョークに誰も反応しないなか、口を開いたのは唯だ。
「ひとりで苦しむなよ、タイヨー。タイヨーもパーティにおいでよ。唯がダチとして招待してやるぞ。ひとりで悩んでいたって、良いアイデアは浮かばないだろ? とりあえず明日はパーッと楽しんで、それからまたどうするか考えればいいんだよ。ひとりきりのクリスマスは、寂しいよ?」
太陽の顔色はとたんに明るくなった。
「それもそうだな! それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな!」
「唯ちゃん、優しいんだね」と高瀬が言った。
「唯ちゃんに感謝しなさいよ?」と柏木が言った。
「唯ちゃん様々だよ」と太陽は言った。「そんなわけで悠介、明日はよろしくな」
「いちおう確認しておきたいんだが」と俺は教室内に漂う不穏な空気を察して言った。「クリスマスパーティは、うちでやることになるのかな?」
わかってるじゃない、という風に五人はうなずいた。
「ついでにもうひとつ確認しておきたいんだが、俺がどうこう言おうが、もうこの決定は覆らないのかな?」
「わかってるじゃない」と唯はすっかりリーダー気取りで言った。
おまえは俺の苦労を何もわかっちゃいない! と俺は心で叫ぶ。




