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二者択一

作者: 螺旋

「お前は何もわかっていない!」

「分かって無いのは君の方だよ!」


時刻は午後12時20分

雲一つない快晴の下、普通の高校の普通の教室内に、二人の少年の叫び声が木霊した。

教室では授業が行われるわけではなく、それぞれの生徒が思い思いに机を動かし、

思い思いのクラスメイト……または他のクラスの友人達とグループを作り、弁当箱の中身を突いている状態……

すなわち昼休みである。


当然ただ黙って食事をする者は少なく、それぞれのグループで教師の悪口、昨日のテレビ番組の内容、 流行の歌手についてなど至って平凡ではあるが様々な会話がされており、教室という空間を雑然としたものにしている。


しかしその雑然とした空気の中でさえ、冒頭の2人の少年の叫び声は多くの生徒の目を引く程の ボリュームであり、本人達も周囲の「えー、なにあいつら、キモーい」「死ねばいいのに」「やはり姉でござるよな!ブヒッ」と言わんばかりの視線に気づいたのか声を潜めた。

……一部おかしな思いを孕んだ視線があることは触れないでおくことにする。


「……だから、姉好きなど理解できん。妹こそが至高であることになぜ気づかないのだ少年Aよ」

「いつから僕を少年Aというモブキャラの様な名前で呼ぶようになった。ていうか妹の方が僕にとっては理解できないな」


教室の窓際の列の最後尾……要するに教室の隅にグループを作る3人組

会話の内容は、「姉」「妹」どちらがよいかという至極どうでもいいような内容だが、3人の内2人は真剣に 議論を重ねている。……周囲の注目を一時とはいえ集めてしまう大声を出してしまうほどに。

快晴の上に窓際ということもあり、外から窓を通して入り込む光に照らされるという、まさに青春の1ページとでもいうような絵面でのこの会話。

おそらく彼らの両親がこの残念な光景を見ればむせび泣くことだろう。


「お前は朝、【お兄ちゃんっ!朝だよっ!】と水を混ぜた片栗粉のようなドロリとしたノンレム睡眠から 深い緑で色づく木々が生い茂る森の中、木々の隙間から差し込む日光、そしてそれらを祝福する鳥のさえずりのような 爽やかさかつ愛らしい声で起こされる喜びを思い描いたことがないというのか……!?」


「例えが長いし意味不明だよ……とりあえず、君の頭は変質者並みだということは分かった」


そんな絵面の中、妹好き少年の繰り出す異常に回りくどいうえに意味不明と言っても十分に納得できるレベルの例え話を交えた妹好きの少年の台詞に、姉好きの少年が右手で頭を抱えながら皮肉交じりの突っ込みを返す。


尚、その間もう一人の少年は我関せずといった様子で母親から作ってもらった弁当をつついている。

妹好き少年のたとえを交えた主張の間にからあげを一つ、卵焼きを一つ平らげたようだ。


「なんだ、お前は俺の頭が悪いとでもいうのか?」

姉好き少年の皮肉がふんだんにこめられた一言にたい、し若干のいらつきを表情に出しながら妹好き少年が箸を動かし 弁当の鮭フレークが乗せられた米を口に運び、咀嚼しながら問いかける。

姉好きの少年は口の端をニヤリと吊り上げ、目に掛かる前髪を片手で払いのけた。


「別に。まぁ姉の【弟君、朝だよ?】という淀んだ眠気を静かに心の内側から熱く燃え盛る炎のような言葉によって覚ましてくれる方が素晴らしい。これに気づかないという点では少し君はおバカさんだとは 思うけどね」


「……お前の例えも大概だな」


穢れをしらずに自然の中を虫取り網一つ片手に持ち鼻水を垂れ流しながら駆け巡る小学生のように目を爛々と輝かせながら語る妹好きの少年に対し、あきれたように妹好きの少年が呟いた。

ボケと突っ込みの攻守逆転である。

その後も各自の弁当を腹に収めていきながらも口論を続ける二人であったが、時刻の経過により 昼休みの終わりが近づいていること、そしてなによりお互いの意見は石のように固く、決して曲がることがなく、このままでは埒があかないということを理解した二人は、それまで黙って二人の意見を聞きつつ弁当を食べる作業に集中していたもう一人の少年に結論をゆだねることにした。


「「なぁ、お前(君)は妹と姉、どっちがいいと思う?」」


声を重ねて問いかける。


……


それぞれのグループがそれぞれの会話で盛り上がり、食事も終わったことでより一層

賑わいをみせる教室の一角で、場違いとも言える緊張が走る。

外から降り注ぐ、どんな陰鬱な空気も浄化できるのではないかと思う程穏やかかつ快活な日の光も、今の彼らをつつむ異様な空気を陽気な物に変えることはできない。


二人の少年がかたずを呑んで見守る中、昼休み中声帯を震わせることなく、ただ黙々と食事をし、ただ黙々と二人の意見を聞き続けた少年の口が、ついに言葉を発するために開かれた。




「母」


姉の方が好きです。こいつらほどの執着心はありませんが。

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