とりあえず、自己紹介でもしますか*ゼファロス
再び緋絽です!
今回はとりあえず、自己紹介でもしますかより、少年ゼファロスが登場!
いつもと何も変わらない、普通の日の夕方だった。
村の集まりの後で、友人と別れ家に帰ろうとしていた時にそれは起こった。
突然聞こえたざわめきに好奇心を胸にその中心へ近づく。
そんな俺───ゼファロスの目に映ったのは、この世界では魔族や災厄の象徴の色とされる黒を瞳と髪に宿した、3人の男女だった。
「とりあえず、自己紹介でもしますか」
………はぁ!?
その内の一人、後にヒロトと名乗った男が呑気にそんなことを言って、悟った。
あぁこいつら絶対大丈夫だ、と。
盗賊にしてはノンビリ自己紹介とかしてるし、その上村人にすぐ捕まったことを見ると、…………盗賊にしては、その、……………ショボすぎるだろう。魔族にしても同じ。
それに。
ヒロトの人が良さそうな笑い顔が浮かんだ。
その後、化け猫が出て、俺達子供は真っ先に逃がされた。
逃げようとして、気づく。
あいつら。あの3人も逃がさないと、死んじゃう。
友達の一人が集団から逸れた俺に気付いてついてきた。そいつに気付いた他の奴らも集団から抜けてくる。
「ゼファロス!何してんだよっ、早く逃げるぞ!」
「あいつら───」
どこに、閉じこめられてるっけ?
走り出した俺を友達が呼び止めたが、俺は振り向かなかった。
「ゼファロス!」
「あいつらも、逃がさないと…っ!」
あいつら、俺達に簡単に捕まっちゃうくらい弱いんだ。そんな奴らが、化け猫に捕まったら、すぐに喰われてしまう。
多分、人間だし。人間じゃなくても、優しそうだし。
倉庫に辿り着いて、扉に手を掛けたが開かない。
「ゼファロス!何してんだ!」
「クッソ鍵かかってる!」
焦って次どうするか考えが浮かばない。
倉庫番って、今日誰だっけ。
いやでも、こんな混乱の中で捜してもきっと見つからないし、第一大人達に無理矢理逃がされる。
どうしよう。この倉庫は村一番の大きさで、結構重要な物が入っているらしい。壊そうとも思ったが、朝には化け猫は帰る。その時倉庫が壊れてたら、ちょっと俺にはどうすればいいかわからない。
───そこで、俺はハッとなった。
すぐ近くで化け猫の呻り声が聞こえたのだ。
ここまで、あと数分もしないうちにやってくる。
「ば、化け猫が来るぞっ、ゼファロス!」
「わかってるよ!」
こうなったら。
近くを見回して俺の顔の大きさの石を見つける。
そしてそれを頭上に振り上げて、扉の鍵を壊そうとして───内側からバキッと威勢のいい音が響いた。
そして左側の角からあの3人が出てくる。
えぇ!?
逃げるぞ的なことを言って3人が走っていく。
3人が出てきた方の壁を見ると───人が一人、ようやく通れるくらいの穴が綺麗に空いていた。
倉庫の中の景色が、俺にカモーンとよくわからないが、こっちへ来い的な雰囲気を醸し出しているような気がする。
「えぇぇええ!?」
これ、俺がやろうとしていたことよりたちが悪くないか!?
んで、今の俺のちょっとしたシリアスシーンだろ!
その後ヒロト達が突然火を何もないところから点けて、ヒロト達が言うところの山猫を撃退し、なんだかんだで村長の家に置いてもらえることになったらしい。
さらに3人は万事屋を結成した。
頼めばなんでもしてくれるらしい。
これは、そのすぐ後のこと。
「しまった…」
俺は必死に森の中である物を探していた。
そのある物とは、母ちゃんの首飾り。
村の友達との話の中で、女の子にどんなものをあげたら喜ぶかという話になった。
マセガキとか言わないでほしい。
あと5年もすれば、お嫁さんだってもらえるようになるのだ。全然不自然じゃない。
話の経緯はよく覚えてないが、最終的に誰が一番綺麗なアクセサリー持っているかに話題が飛躍し、翌日持ち合わせることになったのだと思う。
俺は男だからアクセサリーを持ってなかったが、以前母ちゃんが綺麗な玉の連なった首飾りを持っていたのを覚えていたのでそれを少々拝借することにした。
1日くらい、それにちょっとくらいなら大丈夫。
そう思って母ちゃんの部屋の引き出しからコッソリ取ってきたのだ。
なくすことも考えてなかったから母ちゃんに借りることも言ってない。
それなのに、俺はなくしてしまった。
「うっ…」
探している内に途方に暮れて、涙目になってきた。
泣いてたまるもんか。
奥歯を噛み締めて我慢する。
誰のが一番綺麗かという話になって、口論、そしてつかみ合いに発展しもみ合って喧嘩し終わった後で無くしたことに気づいた。
「どーしよう…、母ちゃん、怒るだろうな…」
あの首飾りは、結婚する時に父ちゃんが母ちゃんに贈った物らしい。
意外に高価なものらしく、母ちゃんは大事にしていた。
俺は立ちあがって後ろを振り返る。
捜索範囲、森。
精神的打撃が強すぎてクラッときた。
お、落ち着け俺。
まだ日暮れまで時間はあるし、友達だって探してくれてるんだ。きっと見つかる。
お腹がキュッと痛い。
………見つからなかったらどうしよう。
「あれ?ゼファロス?何してんだ?」
突然聞こえた声に振り返ると、あの3人がいた。
「あ…」
「かくれんぼか!?オレも混ぜろっ」
「うるさい秋弥。お前はガキか」
シューヤにユーカが手刀を落とす。
ニホンではチョップというらしい。
「……ん、ゼファロス、お前ほんとになんかあったか?なんか顔色悪くね?」
ヒロトが俺の顔をのぞき込んできた。
つられるようにあとの2人ものぞき込んでくる。
「………というより、泣きそうじゃないか?」
ユーカの言った言葉に顔が熱くなった。
別に、これくらいで泣いたりしねーし。
「なんでもねーよっ、じゃーなっ」
ほんとは手伝ってもらおうかと思ったが、泣きそうな顔を見られるのは一生の恥だ。
「ちょい待ち」
服の後ろ襟を掴まれ首が締まる。
「ぐえっ」
あ、こなくそ、涙出てきた。こうなったら苦しいせいで涙が出たということにしておこう。
「なっにすんだ…っ!」
「手伝ってやろうか?」
突然降ってきた言葉に唖然とする。
今、なんて?
「え?」
「だからー手伝ってやろうかっつってんの!ほら言え、言うがいいっ、何がしてほしい!」
何故か上から目線のシューヤに訳もなく笑いが込み上げた。
「何!?母ちゃんのネックレスをなくした!?」
「ねっく…何?」
「あぁ、いや気にすんなこっちの言葉で首飾りの意味だ」
そう言って訂正するヒロトの後ろで容赦なくシューヤがユーカに叩かれている。
「うわそれやべぇなゼファロス。お前見つけなきゃ超タコ殴られるぜ。オレも一回母ちゃんのお気に入りの指輪なくしてさぁ、」
『そら殴られるだろ』
シューヤが2人に同時につっこまれた。
なんだかもう、それを見ていたら怒られるのを怖がってべそをかいていた自分がアホらしく感じてきた。
「うん。だからさ」
笑って言う。
「母ちゃんの首飾り探すの、手伝ってよ」
その少し後に首飾りは見つかったが、結局俺は怒られた。
何勝手に持ち出してんだ、その挙げ句の果てなくしただと?
とガミガミ怒られた。
まったく言い返せない。
でも、その時何故か一緒にあの3人が怒られてくれたのが妙に嬉しかった。
「ゼファロスの母ちゃん、やっぱ超こえーな!」
「バカッ声がでけー!」
「また怒られたいのかお前はっ!」
「───なぁっ」
呼んだ俺の声に3人が振り返る。
俺はニッと歯を出して笑った。
「兄ちゃん達、ありがとな!」
いや、なんとなく、あの子らに対するゼファロスを書いてみたいなーと。
あんまり出てこないもんだから、ゼファロスが!
仕方がないんだ!自分は悪くない!