どうも、猫です
ありきたりな感じ。自己満足の作品ですが、お目汚ししてくださる方には感謝です。
どうも皆さんこんにちは。
猫です。
笹倉さん宅に住ませていただいている猫です。
一応、誤解がないように言っておきますが、私、飼われてはいません。
飼い猫のような、もはや猫の本分を捨てている猫たちと一緒にしてもらわないでいただきたい。
私はただ笹倉さん宅にて食事と住居を貸していただいているだけなのです。
飼われていません。マジです。
あと付け加えて置くならば、私、自分の猫の種類というものを存じていません。人間が勝手に分類したのを押し付けられるのはマジ勘弁してくれって感じですので。
ただ、笹倉宅の人間たちは私のことをミケネコと言います。もしかしたらそれが私の種類なのかもしれません。
さて、そんな私にも名前というものがございます。これも笹倉宅の人間が私の言い分など聞かずにつけたものですけどね。それでも名前は名前。皆さん方にも述べておくことにしましょう。
私、ミュウと申します。
この名前。なにやら高貴な印象を抱きます。私にぴったりではありませんか。人間がつけたものにしてはなかなかにいい発音です。ただ、これをつけたのが笹倉宅の次男坊で、ポケモンなどという奇怪な動物同士を殺し合わせるゲームが大好きというところに一抹の不安があるのですが。
私は基本的に自由です。自由という概念などないくらいに自由です。適当に外に出歩きます。適当な時間に寝ます。適当な時間にご飯を食べます。ご飯は常にお皿の上に置いてありますので。一応同居人の方々と一緒に食べるようにはしていますが。
そんな猫の中の猫。キングオブ猫。いえ、違いました。クイーンオブ猫の私。
それでも私はこの家の同居猫です。本来、笹倉宅の人間たちとは相互扶助の関係にある立場です。だから、当然何もしないわけには参りません。仕事というものがあるのです。
今日も朝からリビングのソファで丸くなっていた私にオカアサンという名の人間が仕事を頼んできました。
「ミュウちゃん。祐一を起こしてきてくれないかしら?」
やれやれ仕方がないです。まあ、頼まれてやらんこともないです。
私は一言、ミャアと鳴いておきました。
お母さんはそれでわかったのか、また朝の仕込みに手を向けます。オカアサン、できれば私のご飯はシャケで。
さて、シャケのために私は階段を上ります。祐一とやらは階段を上ってすぐ左のドアの向こうにいます。本来猫にドアを開けることなどできませんが、私が入れるようにドアは必ず少し開けておく決まりがあるのです。それにユウイチはやだやだと喚いていましたが、はて、どうしてでしょうか。なにやらいかがわしいことをしているのでしょうか。まあ、人間ですし。色々あるんでしょう。
私はいつものようにドアを鼻で押し開けました。ゆっくりと開くドアに身を割り込ませて、部屋の中へと進入します。その部屋の大部分を占めているベッドにはこの家の長男、祐一がまだグースカと眠りこけていました。
このベッドの上で寝ている、人間で言えばどうにもこうにも在り来たりな顔立ちの少年。
目が二つあって鼻が中央にあって、口があるという平凡さ。これはまったくどうにかならないものでしょうか。あ、オカアサンは素晴らしく綺麗な方です。なぜなら、ちゃんとご飯の用意をしてくださいますから。やはり輝いて見えるというものです。
まあ、とりあえずこの毒にも薬にもならないような少年を起こさなくてはなりません。
選択肢は色々あります。舐めるとか鳴いて起こすか、化けるとか。でも、今回は時間がありません。シャケが私を待っているのです。というか、いつまでも眠りこけている人間には罰が必要だと思うのです。物音から察するに、他の同居人はもう起きているようですし。
ベッドへと軽々跳躍した私は「むにゃむにゃ」なんてわざとらしくも苛立ちを抑えきれない寝言をほざく長男に『ひっかく』というスキルを使って顔面に攻撃を銜えることにしました。
家中に悲鳴が木霊したのは言うまでもありません。
食卓。朝を彩る料理。
オカアサンとその三人の子供たちはリビングで料理を囲みながらその箸を進めています。ちなみにオトウサンとやらはもう会社に行っていますので、ここにはいません。朝早くご苦労なこった、です。
「母さん。お願いだからミュウに起こさせるのは止めてくれよ。顔に傷が増えていくんだけど」
「それはちゃんと起きない祐一が悪いんでしょ。ほら、さっさとご飯食べて」
「お兄ちゃん、どんくさいね。ミュウに嫌われているんじゃないの」
ニッシッシと言った感じでこの家の長女、祐一の妹の美香は笑います。なかなかに悪役めいた笑いです。
「うっさい。別に嫌われてねぇよ。なあ、ミュウ。別に俺のこと嫌ってねぇよな」
祐一が私の方に顔を向けて問いかけてきます。しかし、不機嫌な私はプイ、と顔を背けました。
「うぐっ」
「ほら、やっぱり嫌われているー」
またしても笑う美香。祐一はへこんだように項垂れてから、とりあえず食事を再開し始めました。
ふん、まあどうでもいいことです。祐一なんてどうでもいいのですが、はてはて、どうして私のご飯にはシャケがないのでしょう。なぜいつものキャットフードなのでしょう。
「お母さん。何かミュウが不機嫌そうだよ。ずっと唸っている」
ショウガクセイとやらに分類されるらしい次男坊の健人は私を指差してそう言いました。まったくです。私、今不機嫌です。約束のシャケは一体どうしました。仕事のねぎらいというものが足りないと思います。
「うーん、どうしたのかしら。もしかして、発情期なのかもしれないわね」
失礼なこと言わんでください。
諦めて私はキャットフードをモグモグバリバリすることにしました。そんな私の耳に同居人たちの会話が入ってきます。
「ああ、母さん。多分今日遅くなると思う」
「うん? 何かあるの」
「えっと、ちょっと頼まれごと・・・・だと思う。ご飯はいるから」
「はいはい。わかったわよ」
「何、お兄ちゃんの癖にデート?」
「ええ、ユウ兄デートなの!?」
嫌な感じの笑いを顔に載せる美香に、『でーと』という謎の単語に過剰反応する健人。それに祐一は呆れた表情で手をプラプラ振りました。
「ちげーよ。綾が放課後に話があるんだと。昨日にメールしてきてな。きっとバイトのシフトを変われとかそういう話だろ」
「………………可哀相な綾姉ちゃん。幼馴染のお兄ちゃんがこんなラブコメ主人公みたいな鈍感野朗で」
「あん? 何か言った?」
「なんでもなーい」
「ほら、早く食べなさい。遅れるわよ」
オカアサンの一言は鶴の一声なんとやら。三人は顔を見合わせ、時計を見て、また顔を合わせ、勢いよくご飯をかき込み始めました。
「あら? 忘れ物」
騒がしい三人がいなくなって数時間。
オカアサンはお昼を食べ終え、私は三時のオヤツをおすそ分けしてもらい、リビングでゆったりまったりしていた頃。私の上からはオカアサンの呟きが降ってきました。
「困ったわね。財布なくて帰りに祐一は困らないのかしら」
話を聞くに、というか推測するまでもなく、学校に行った祐一は財布を忘れてしまったらしいです。まったく相変わらずのドジッコです。
「ま、いいか♪」
そこで届けるという選択肢をとらないオカアサンも素晴らしいです。
財布を放置して最近流行りも廃れてきたらしい韓国映画のビデオを見始めたオカアサン。もはや祐一のことなど頭の片隅にもないことでしょう。わくわくどきどきの面持ちで画面に食い入るオカアサンを一瞥してから、私はむくりと起き上がりました。
トコトコとテーブルに近づき、そしてジャンプ。財布を見事その口にくわえて、着地。
ま、私も暇ですし。これも仕事の一つということにしておきましょう。
学校までは数分で到着しました。
いえいえ、猫の足では到底着けない距離です。散歩も好きですが、さすがに時間もありませんでしたので。きっと猫の足では祐一の帰宅時間には間に合わなかったことでしょう。用事があると言ったので、通常よりは遅いとは思いますが。
人間の足で家を飛び越え、屋根をつたい、数分で到着した学校。ギリギリセーフなのかどうか、校門には下校途中の生徒が多くいます。まあ、きっとセーフでしょう。そういうことにしておきます。
とりあえず、祐一がどこにいるのかを知らなくてはいけません。
何やら私に向けられる視線が多い気がしますがそれを気のせいと判断して、近くにいた女子生徒に近づいて祐一の居場所を尋ねることにしました。
「すいません。ここに祐一という名の生徒はまだいるのでしょうか?」
「え、あ、う、あぅ。は、は、はい。えっと。確かまだ教室に居たかと」
「あ、俺知ってます! あいつ教室に残っていました! 場所は分からないと思うので俺がお送りいたしま――」
「おい、待て! 抜け駆けは許さんぞ!!」
「そこの彼女! 場所なら僕が!!」
「クソっ! また祐一か! あのラブコメ野朗!!」
「バカ、泣くんじゃねぇ。泣くんじゃねぇよ。まだ妹とかお姉さんとかそっちの可能性が!!」
「バカ言うな! あいつの身辺はもう調査済みだ! こんな可愛い綺麗な女の子はデーターファイルに入ってないんだよ! 新しくフラグを立てた女の子に違いねぇ」
「死ねばいいのに。死ねばいいのに。死ねばいいのに」
「君、祐一とはどういう関係!?」
えっと、私は確かそこのお姉さんにお尋ねしたはずなのですが。
いつの間にかに集まった男子生徒諸君により、何やら包囲網の中へと私は閉じ込められてしまったようです。さきほどのお姉さんは人の波へと飲み込まれもはや影も形もありません。ああ、どうしたことやら。
戸惑いながらも、私には早く財布を祐一に届けねばならないという使命があります。よって、私は困惑気味に皆さん方の問いに答えて脱出するという選択をすることにしました。
「えっと、はい。私と祐一は同じ家に住む仲です。たまに嫌々ながらも一緒のお風呂に入れられたりもしますけど」
あれには困ったものです。私、水が嫌いだというのに。
突如、静寂がその場に舞い降りました。
皆さん不思議にも動きません。まるで石のように固まっています。こちらとしては好都合なので結構ですが。
とりあえず人を押し寄せて脱出。学校へと目指します。
昇降口のところに着いたあたりで怒号と呼ぶに相応しい声が背後から木霊しましたが、気にすると碌なことにはならない気がしたので無視することにしました。なぜか後で祐一に謝らなくてはいけない気はしますけど。
教室に到着です。
ふぅ、疲れました。場所は臭いでわかったので苦労はしませんでしたけど。
教室には人がいませんでした。いえ、語弊があります。人はいました。ただ、そこにいたのは祐一ともう一人の人間しかいませんでした。さっきから黙りこくって静かです。まるで人がいないみたいだと感じたのも仕方がありません。そのもう一人の人間を見てみれば、性別はメスみたいですね。女子です。
「えっと、あの、ゴメンね。いきなり呼び出して。昨日も驚いたでしょ?」
「うん? 別にそんなことねーよ。何を言うか、なんてわかってたし」
「…………ふ、ふぇ!?」
「まあ、長い付き合いだしな。お前が何を考えているかくらいわかるって」
「え、え、ええええええええええええええええええ!?」
「なんだよ、そんなびびることないだろ」
………………。
………………。
………………。
なんでしょう、あの空気は。酷く混濁しています。カオスです。
それと、何だか知りませんが私、非常にムカつきます。
胸にモヤモヤが出てきて、不思議な感じ。真に不快です。確実にこれは祐一のせいでしょう。イライライラ。ああ、後でどうしてやりましょうか。
とりあえず傍観している私。教室のドアの前から顔だけ覗きこむ形でいるのですが、なぜかあの二人は気付きません。入れないような雰囲気だったので躊躇っていたのですが、果たして躊躇う必要などあったのでしょうか? ま、いいです。もう少しだけ様子を見ましょう。
「そ、そそそそっか。気付いていたんだ。てっきり素であれかと思っていたよ」
「わざとって、仕方がないだろ。そういう風に組まれていたんだから」
「く、組まれていた!?」
「店長命令だからな」
「店長がそんなことを!?」
なぜか衝撃を受ける少女。ガーン、とまさにそんな効果音をつけて仰け反ります。
イライライライラ。
イライライライラ。
「う、でも、そっか。気付いていたんだ」
「しつこいな。そうだって。ああ、心配すんな。言いにくいなら俺が代わりに言ってやるから」
「え、ちょ、ちょっと、それって、え? そういうことなの、あの、でも、えっと、そ、それはダメだよ!」
イライライライラ。
イライライライラ。
「うん? 別に遠慮する必要はねぇぞ」
「え、遠慮じゃなくて。だって、ほら、ね? わ、わわ私だって一生懸命覚悟してきたんだから!」
「そ、そうなのか。そんなに気張らなくてもいいと思うが」
「気張るもん! 一生に一度あるかないかのことなんだから! えっと、あの、言うよ? 私、私ね、祐ちゃんのことが………………」
イライライライライライライライラ。
イライライライライライライライラ。
イライライライライライライライラ。
………………うん、待つ必要なんかないっす。
「ふんっ」
「へぐっ」
イライラゲージが全快に溜まった私は赤くなって固まる少女と怪訝そうな祐一の下に割り込み、財布を祐一の顔へと投げつけました。奇妙な顔をして祐一がこちらに向きます。
少しだけ爽快ですかね。まだイラついていますけど。
「え、誰?」
「ゆ、祐ちゃんの知り合い?」
ひどく戸惑う二人。祐一は呆然と、少女は軽くパニックみたいです。
いきなりの乱入者に困惑は隠しきれない二人を置き去りに、私はさっさと帰ることにしました。何だかむかついて、いらついて、嫌な気分を抑え切れません。せっかく財布を届けに来たというのに。まったく、私がバカみたいじゃないですか。
「祐一、今日のご飯は秋刀魚みたいです。さっさと帰ってきてくださいね」
そう言い残し、私はさっさと踵を返して教室を出ました。そして全力で廊下を走りぬきます。
「祐一のばーーーーーーーーーか!!」
廊下で全力疾走しながら私はそう罵倒することも忘れません。
祐一のばーーーーーーーーーか。
「あれ、ミュウちゃん。お帰りなさい。散歩は楽しかった?」
猫に戻った私が家に着くと、オカアサンはいの一番で出迎えてくれました。その柔和な笑みに癒されます。
返事としてにゃあと鳴いておきました。
「そう、よかったわね。今日秋刀魚だからミュウちゃんにもおすそ分けよ」
全然楽しくないっていうーか不快全快でもう最悪でしたよ、という意味合いを込めて鳴いたのですが、悲しいかな。お母さんには伝わらなかったみたいです。まあ、いいですけど。今晩はちゃんと魚ももらえるみたいですし。おすそ分けという言葉には遺憾の気持ちを示しますけど。
テクテク歩いてソファに座るオカアサンの膝の上に乗って丸くなると、オカアサンは私の顎をゴロゴロしてきました。私はそんなオカアサンの行為を甘んじて受けます。別に気持ちがいいからじゃないです。誤解しないでください。オカアサンがそうしていると何だか幸せそうに目を細めるからです。別に気持ちがいいわけじゃ……あ、そこです。もう少し強く。
私はオカアサンの柔らかい膝の上で眠りへと落ちて行きました。 やれやれ、まったく今日も疲れる一日でした。
あ、秋刀魚は取って置いてくださいよ。お母さん。
猫、猫。ちなみに作者は犬派です。すいません。
ふとしたことの帰り道。昨日のことですが、なぜか猫三匹に遭遇。しかもみんな作者にがんを飛ばしてきます。ちっちっち、と呼ぶとどの猫も逃げていきました。少し泣きそうになったのは秘密です。
そんな感じでアイディアが浮かんだのですが・・・・面白かったですかね? わりと読みやすく書いたつもりですけど、どうなんですかね?