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おくさまはこうさぎ。 2


「じゃあ、この辺りで一休みでもするか」

 ラグラスはゆっくりと体を伏せ、背中に乗っているプリムラをおろしました。

 ラグラスとベロニカはプリムラを連れ、群に帰っている途中です。

 おおかみであるラグラスとベロニカなら、群までひとっ走りすればすぐ着く距離なのですが、今日はプリムラも一緒なので、ゆっくり、ゆっくりと進みます。きっと群れにつく頃には日が暮れていることでしょう。

 それでも、プリムラが疲れて倒れたりしたら大変なので、休憩はしっかりととります。

 ラグラスの背中から降りたプリムラは、ぐぐーっと背を伸ばします。自分の足で歩くよりかは大変ではないものの、同じ姿勢でいたので、体の節々がちょっぴり痛くなっていました。

「大丈夫か、お嬢ちゃん……?」

 ラグラスの心配そうな声に、プリムラは「はい!」と元気に頷きます。

 だって、ちょっと疲れたといっても、プリムラはとっても楽しいのですから! 今日は何といっても、ラグラスの仲間のおおかみに会う日です。ラグラスと一緒に過ごしてきたおおかみですから、きっとみんな優しいおおかみさん達に違いありません。

 プリムラは、それが今からとっても楽しみで、どきどきわくわくしているのです。

 そんなプリムラの思惑をしっかりと読みとったベロニカとラグラスは、「ハハハ……」と複雑そうな笑みを交わしたのでした。


 そんなわけで今日はちょっといつも以上に落ち着きのないプリムラは、水を飲むと、少し退屈になって、ぴょこぴょことその辺りを進んでいきます。

「遠くへ行くんじゃないぜ」

 冒険心旺盛な小ウサギにラグラスは声をかけます。きっと今のプリムラには、気持ち的にも体の方も少し動くぐらいがちょうどいいはずです。それに、この辺りは危険はない場所なので安心してプリムラを一匹にさせておけるのです。

 自分が一緒にいるとプリムラの行動を制限してしまいがちなので、ラグラスはぐっと我慢をしてついていきません。でも、意識はしっかりとプリムラに集中させて、それで良しとすることにしました。




 プリムラは、来たこともない場所なので、わくわくしながら草をかき分けてぴょこぴょこと進みます。こすれる草の葉っぱでサクサクと音をたてて進むのはなんて気持ちがいいのでしょう!

 その感触が楽しくて、どんどんと先へ進んでいるときです。

「……だって……話し……」

「……らよー、ぜってー、ガセネタだっつってんだろー」

「でも、オーキッド様が言ってたんだから……」

「かー、おめー、あんなヤツの言葉を信じて……」

 ぼそぼと会話している声が聞こえてきました。

「?」

 プリムラは、ちょこんと首を傾げると、とりあえずそっちに向かってぴょこぴょこと進みました。

 プリムラからは一体誰がお話をしているのかは見えません。



 草をかき分け進む小ウサギを見つめる二対の目があります。

 何と、若い二匹のオスおおかみです!

 プリムラの耳に届いていたのは、この二匹の会話だったのです。プリムラからは見えなくても、二匹のおおかみは小ウサギに気付いていたのです!

 二匹のおおかみの視線の先で、ちっちゃくてまっ白な物体がぴょこぴょこと動いています。とってもふかふかで柔らかそうな小ウサギです。

「おい、小ウサギだぜ」

 こそこそっとセージはジニアに耳打ちをしました。

「なあ、ちっちぇーけど、柔らかそうでうまそうなことないか? 狩ってやろーぜ」

 セージの言葉に、ジニアは少し非難するように声をあげました。

「なに言ってるんだよ! おもしろ半分に餌をとるものじゃないって言われてるだろ?! 今は餌をとる必要ないくらいちゃんと食べてるじゃないか!」

 そう言いながらジニアは律儀にも、思わずセージに合わせてコソコソと話します。

「だぁーっ、うっせーなぁ、この熱血ヤローがっ とるっつったらとるんだよ!!」

「ダメだって言ってるだろ?!ラグラスさまだって言ってたじゃないかっ」

「あんなおっさんの言ってたことなんざ知らねーよっ 大体なぁ!! 俺は前からおめえのことは気にくわなかったんだっ」

 コソコソと話しながらも二匹はだんだんとムキになって、ついには口げんかに突入しはじめました。

「どうしてセージ、お前はすぐそんなこと言うんだよ!」

「あぁ?! 気にくわねーからに決まってんだろ?! 大体、どうしてオーキッドのヤツもてめーなんかと組ませんだよ。もっと他にマシなヤツがいただろーによぉ……」

 二匹の会話はだんだんと過熱していきます。おかげですっかりと二匹の頭の中から小ウサギのことはすっ飛んでいました。

「……んだとぉ?!」

「なんだってお前は……っ」

 でっかい声でうなり合いになったところです。

 カサカサッ

 茂みがこすれる音がしました。

 その音にハッとして二匹がその音のした方へ目を向けると、なんと小ウサギが二匹の方を見ているではありませんか!

「ちくしょう、おめえのせいで、気付かれたじゃねーかっ」

 セージは叫びました。

 ……が、そのまま逃げると思われた小ウサギは、まだそこにじっと座っています。怖くて動けなくなっているのでしょうか?

 セージは、ぷるぷる震えて動けない獲物を捕らえるのもおもしれーかも……とか思って小ウサギを見たのですが、何だかそれもちょっと違うようです。

 小ウサギは不思議そうな顔をして、じーっと二匹の若いおおかみを見ているのです。

「なあ、セージ、もしかしてあの小ウサギ、オーキッド様の言ってたラグラス様の……」

 ジニアはセージに耳打ちしました。

 実はこの二匹、ラグラスをたぶらかした小ウサギの捕獲命令を群から出されてやって来たおおかみだったのです!!

 プリムラ、ピンチです!!

「あぁ?! あんなトロそうなヤツがラグラスの相手なんかできっかよ」

 セージはジニアの言葉を小馬鹿にするかのような口調で言い捨てました。

 ごもっともな意見です。ジニアは思わず納得しそうになりました。

 しかし、です。おおかみを見ても逃げないということは、おおかみの近くにいることに慣れているからかもしれません。

 セージとジニアはそのままぼそぼそと相談をはじめました。


 その間も、プリムラはやっぱりその場から離れようとはしませんでした。

 ずっと前にベロニカと約束した

「悪いおおかみもいるからちゃんと逃げるのよ」

 という言葉を忘れているのでしょうか?

 いいえ、そうではありません。

 プリムラは、ちゃーんと覚えているのです。けれど、プリムラはその大きな耳でしっかりと二匹のおおかみから出た言葉を聞き逃していなかったのです。そう、二匹のおおかみは「ラグラス」という言葉を何度も言ったのです!!

 プリムラは思いました。

“きっとあのおおかみさん達はラグラスさまのお友達なんだ。だから、いいおおかみさんだから逃げなくてもいいんだよね。”

 安易かつ、単純明快な結論に達していたのです。

“なんて話しかけたらいいのかな??”

 うむむ?

 と、困って、プリムラは後ろ足で立った状態のまま首をちょこんと傾げます。

 そしてそのままプリムラは、ぼそぼそとお話をしている二匹の若いおおかみを見ながら考え込んでいました。



「おい、とりあえず、捕まえるぜ」

 セージはジニアに言いました。

「うん、そうだな」

 ジニアも頷きました。

 二匹はとりあえず、確信はないけれど当初の目的と思われる小ウサギを捕らえることにしました。

 ジニアとセージはじりじりと逃げられないように間合いと小ウサギの逃走経路を計算しながら詰め寄っていきます。

 少々傷を付けたところで、なんの問題もありません。エサにしかならない小ウサギの一匹や二匹、傷ついたり死んだりしたところでかまわないのです。ただ、ラグラスに何をしたのかをはっきりさせるために殺さないように捕まえたいだけなのですから。

「いくぜ」

「うん」

 二匹は体制を整えました。




「……やばい!!」

 ラグラスは横たわっていた体を瞬時に起こすと駆け出しました。

 プリムラがどこにいるかは把握していたのですが、別のおおかみ達がこの近くにいることに今まで気付けなかったのです。

 一瞬だけ風向きが変わった瞬間に感じ取った臭い。かすかなその臭いでラグラスはジニアとセージが近くまで来ていることに気付きました。そして、その同じ方向にプリムラがいることも分かっています。

 風向きが変わるまで気付かなかったとは不覚です。

 あの愛らしいプリムラです。ちょっとやそっとで誰が狩る事なんて出来ましょう。そんなことは百も承知です。でも、プリムラの愛らしさに気付く前に、パクリとやられてしまえばおしまいです! 例えば、後ろ向いてるときにパクリとやられたら?!

 まだまだ青いあの二匹なら、そういうこともあり得ます。

 ジニア、セージ……その時は貴様ら、絶対にゆるさん!!

 ちゃんと見つからないように隠れているんだぜ、お嬢ちゃん!!

 祈るような気持ちでラグラスは走りました。




 二匹がプリムラに飛びかかろうとしたときです。

 プリムラは二匹のおおかみが自分をじーっと見つめていることにようやく気付きました。今まで視線を合わせようとしなかった二匹のおおかみが自分を見ています。

 プリムラは嬉しくなりました。これで話しかけやすくなります。


 この小ウサギさんはとっても場の雰囲気を読みとるのが下手なようです。それは、とてもとても幸せな気質なのかもしれませんね。


 そして、ジニアとセージが小ウサギに飛びかかろうとした瞬間でした。

 まっ白な小ウサギは、ふいに満面の笑みをにこにこーっと浮かべ、自らぴょこぴょこと近づいて来るではありませんか!!

 思いがけない小ウサギの行動に、思いっきり虚をつかれ動きを止めてしまい、どうしていいか途方にくれてしまった二匹の前に、満面の笑みを浮かべた小ウサギがちょこんと目の前に座りました。

「「……」」

 二匹のおおかみは言葉をなくして小ウサギをマジマジと見下ろします。

 そんな二匹のおおかみを見上げ、小ウサギがひときわにぱっと笑顔を輝かせ言いました。

「こんにちは!」

 とっても元気で気持ちのいいあいさつです。そして、その後に深々と頭を下げる姿がとっても礼儀正しくて愛らしいことといったら!

 二匹の若いおおかみは、あんまりにもなその愛らしさに心臓をズッキューン……っと打ち抜かれてしまいました。

「……お、おうっ」

「こ、こんにちはっ」

 思わず反射的に返事を返す二匹の若いおおかみ。

 小ウサギさん、二匹の若いおおかみを味方にゲット♪


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