だんなさまはおおかみ 1
プリムラは真っ白で小さなうさぎさんです。でも、小さくったって、りっぱなオトナです。
だって、ついこの前プリムラはお嫁さんになったのですから。
相手は種族の違うラグラスさま。種族が違ったって、二匹はとってもらぶらぶです。
旦那様であるラグラスとは種族を越えた大恋愛(?)の末に結ばれただけあって、常にらぶらぶです。
更に何と、旦那様はおおかみさんなのです!
ほんとはエサと天敵な筈の二匹なのですが、そんな本来あるべき壁すら越えただけあって、やっぱりらぶらぶです。
特に、旦那様の方は、愛らしい新妻にめろめろです。どのくらいめろめろかというと、一目でプリムラの愛らしさにノックアウトされて、そのままだまくらかして巣に連れ込んだくらいです。
そんな二匹は、想いが通じ合って以来、以前にも増してラブラブになっています。
「ただいま、お嬢ちゃん」
おるすばんしながら、だんなさまの帰りを待っていたプリムラに、大好きな優しい声がかけられました。
帰ってくるなりラグラスは、プリムラのもとに駆け寄ると、小さな体をきゅ~と抱きしめます。
「おかえりなさい、ラグラスさま」
プリムラは、うれしそうに笑って、抱きしめられたままちょこんと頭を下げました。
その笑顔の愛らしいことといったら。
ラグラスは、小さな体を抱きしめた腕(前足?)を離すのが辛いくらいでした。でも、更なるプリムラの笑顔を見るために、涙を呑んで体を離しました。
そして、
「ほら、お嬢ちゃんに、おみやげだ」
そう言って差し出したのは。
「わぁ! きいちごだぁ!」
そう、プリムラの大好物の木イチゴです。
「こんなにたくさん! ありがとうございます、ラグラスさま!!」
プリムラが満面の笑顔で、ぴょんぴょんとはねます。
その愛らしさにラグラスは、プリムラをまた抱きしめそうになったのですが、そこはぐっと我慢して優しげな笑顔を浮かべると何でもないように言いました。
「お嬢ちゃん、この前俺が言ったことを覚えているか?」
「?」
「“ありがとうのしるし”は、どうだった?」
きょとんとして、少しだけ首を傾げて思わず考え込んでしまったプリムラでしたが、すぐに思い出しました。
「……えっと……」
でも思いだしたものの、それは何だか恥ずかしくて、プリムラは口元に手(前足?)を当てて恥ずかしそうに、ちらりちらりとラグラスを見つめます。
「ほら、お嬢ちゃん」
恥ずかしがる小ウサギさんが可愛らしくて、少しからかうようにラグラスは顔を近づけました。
「えっと……」
きゅー。と小さくなって、両前足でプリムラは顔を覆ってしまいました。
でも、おおった手の隙間から、上目がちな赤い目がラグラスをうかがっています。
「ん? 忘れたのか?」
ラグラスがからかうと、とたんに、プリムラはぱっと顔を上げて叫びました。
「忘れてないです!!」
大好きなラグラスの言葉を忘れるはずがありません。
ところが、その反応を待っていたかのようにラグラスがにっこりと笑い、プリムラは言ってしまってから、ハッとして真っ赤になってしまいました。
「じゃぁ、やってくれるかな?」
にっこりと笑ったラグラスが「ありがとうのしるし」をするようにうながされます。プリムラは真っ赤になりながらも、おずおずとうなずき目の前のラグラスの顔を恥ずかしそうに見ました。
そして、一生懸命後ろ足で立ち上がると、「ちゅっ」とキスをしました。
「ありがとうございます」
消えそうな声で言って、そのまま逃げ出しそうになったプリムラを、ラグラスはぱっと捉えて抱きしめました。
「どういたしまして」
そして今度はラグラスの方からキスをしました。 そのまま、抱きしめてぺろぺろとプリムラの顔をなめます。
プリムラはきゅっと目を閉じてなされるがまま緊張して固まってしまいました。
でも、それはプリムラがラグラスを好きだからどきどきして動けなくなっていることをラグラスは知っています。
プリムラと、真の意味でラブラブになってから、毎日繰り返しているのに、まだまだ慣れないプリムラが 、ラグラスはかわいくてたまりませんでした。
そんなわけで、仕事帰りの旦那様を迎えたプリムラは、うれしはずかしお出迎えをすませ、お食事タイムに取りかかりました。
目の前には、大量の木苺があります。
小ウサギさんは、目をきらきらさせながらその木苺を見つめ、その前にちょこんとすわっています。
ラグラスはそんなプリムラの姿をうれしそうに見つめています。全てはプリムラの喜ぶこの姿のためにがんばっていっぱい採ってきたのです。
「うわぁ、おいしそうですー♪ ラグラスさまも一緒に食べませんか?」
うれしくて、うきうきしながらプリムラはラグラスを誘います。大好きなものを、大好きな人(狼?)と仲良く食べる、それはプリムラにとってとっても幸せなことだからです。
でも、ラグラスは困ってしまいました。
「あ、いや、それはお嬢ちゃんのために採ってきたんだから、全部お嬢ちゃんが食べていいんだぜ」
「……そうなんですか? じゃぁ、ラグラスさまは食べて来られたんですか?」
さりげなく鋭くて、うっとラグラスは詰まりました。
お嬢ちゃんを差し置いて食べてきたと言っていいものだろうか、しかし、それを食べることができないと言えば、それはそれで傷つくんじゃないだろうか………。
悶々とラグラスは考えながら、見つめてくる赤いつぶらな瞳に、答えともならない答えを返します。
「う、ああ、まぁ、そうだな、一応……(木苺以外は食ったしな……)」
「そうなんですか? じゃぁ、全部いただきますね!」
ラグラスの様子にきょとんとして首を傾げながら、プリムラは何の疑問も持たず、木苺をほおばり始めました。
プリムラの聞いたこと以上何も思わず突っ込んでこないところは、この二匹にとって、かけがえのないほど大切な特性なのかも知れません。
ラグラスはそのことにほっとしつつ、真剣に黙々と食べるプリムラを、幸せな気分で見つめていました。食べ始めるととたんに静かになって食べることに集中してしまう姿が何だかとっても愛らしくて、ラグラスはとってもとっても大好きなのです。