こんにちは。
需要があるのか疑問がありますが……。
脳内で擬人化していただいて全く問題ありませんが、一応、個人的にはホントにうさぎと狼を想像してかいております。
「いってきまーす♪」
プリムラは真っ白な小さなウサギさんです。そして、その愛らしさといえばその辺り一帯のどのウサギさんも敵わないくらいです。
だからプリムラはみんなにとっても愛されて育ちました。
大切に、大切に育てられたプリムラはいつも笑顔を絶やさず、みんなを幸せにする天使の笑顔を持っています。
今日、プリムラは初めて一人でお出かけです。いつも誰かと一緒だったのですが、今日はどうしても一緒に草の実を取りに行く手の空いたウサギがいなかったからです。
みんなはらはらしながらも、それでもけっこうしっかりしているプリムラだからと、一人で送り出したのでした。
プリムラは一人で森の中をぴょこぴょこと歩きます。
そして、たくさん草の実がある場所に着きました。
「うわ~、みんなここ知らなかったのかな? おいしそうな実がたくさんある♪」
プリムラは初めて来たこの場所にうれしくなってしまいました。
そんなに遠くまで来ていないのに、今までここへ来たことはなかったのです。
たくさん草の実を採っておうちへ帰ろうとしたときです。
カサカサ。
草をわける音がしました。
おおかみです。
実は、ここはおおかみがよく来る場所だったのです。だからウサギたちはここへ近寄らなかったのですが、プリムラはそんなことを知りませんでした。
プリムラはびっくりして木陰に隠れました。
そして大きな身体のその動物を陰からこっそりと見つめます。
実は、プリムラ、おおかみを見たことがありませんでした。
おおかみが自分達ウサギを食べる恐い動物だと言うことは知っています。でも、おおかみを見たことがないので、そこにいるのがおおかみだとは分かっていません。
だから、逃げもせずにそっとおおかみを見ていました。
本能でしょうか。やっぱり、大きなそのおおかみはどこか恐くて、隠れて見ています。
でも、プリムラは、そのおおかみに見とれていました。
だってとってもかっこいいのです。
りりしい顔立ち、すっと切れたグレーの瞳、しなやかな身体。
恐いのに、恐いのとは違う感じで、どきどきしていました。
ひそかにおおかみは木陰に隠れている小ウサギに気付いていました。でも、特にお腹もすいていなかったので、ほうっておきました。でも、いつまでたっても小ウサギは逃げません。
小ウサギではお腹もはりませんが、おいしいので、いつ食べることができるかも分かりません。ここはくっちゃおっかな~とか考えている、おおかみさん。
名前はラグラスといいました。
おおかみの世界では有名な強くてかっこいいおおかみです。だからお姉さんな美狼にももてもてです。
そして筋はきちっと通す、とても立派な狼です。
寝たふりをしながら、ぱたぱたとしっぽを振ります。お腹もすいてないのに、狩りをするのは彼の主義に反します。でも、めったにないごちそうです。
寝てるフリをしてる間に逃げて欲しいような欲しくないような……。
しかし、いっこうに逃げる気配はありません。
ラグラスは最後の手段に出ました。
「……何をしているんだ、お嬢ちゃん」
寝ていると思っていたおおかみに声を掛けられて、プリムラはびくりと震えました。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか……?」
ふるふるとからだをふるわせながら、耳を垂らしたプリムラはラグラスの前に姿を現しました。
驚いたのはラグラスです。
声を掛ければ驚いて逃げると思ったのに、逆に出てきたのです。
何だこのお嬢ちゃんは?!
まさか天敵のおおかみを見たことがないからなんて思いつきもしません。
驚いて、まじまじと見てると、真っ白な小ウサギは、目を涙で潤ませて、つぶらな赤い瞳で自分を見つめて来ました。
……か、かわいい……っっっっ
ラグラス、小ウサギプリムラにノックアウトでした。
「あの、起こしてしまって、怒ってますか……?」
プリムラは怒られるのかな、とどきどきしながらラグラスのそばに近づきます。
でも、ホントは近くに行きたかったので、プリムラは、ラグラスが気付いてくれて、とってもうれしくなっていました。
首を小さく傾げてプリムラはラグラスを見ます。
「いいや、怒ってないぜ」
ラグラスは優しく微笑んで言いました。
怖がられたら、小ウサギは逃げてしまいます。
もう、食べる気なんて、全くなくなっていました。
こんなにかわいい小ウサギを食べるだなんて、ラグラスにはできません。
何とか怖がらせないように、一生懸命でした。
微笑みかけると、小ウサギはほっとしたように、笑顔を浮かべました。
ラグラス、もう、めろめろです。
「お嬢ちゃんは、俺が恐くないのか?」
目の前まで来たプリムラに、ちょっとどきどきしながら訊ねます。
「……? 恐い? どうしてですか??」
きょとんとして小ウサギは目の前のおおかみに訊ねます。
ラグラスは理解しました。
この稀に見る愛らしい小ウサギは、ウサギたちからも愛されて、大切に育ったため、危険から遠ざけられすぎた結果、何が恐いものかわかってないということを。
それに気付けばこっちのものです。
ラグラスはぱたぱたとしっぽを振りました。
だって、この小ウサギは、おおかみである自分を恐れていないのですから。
ぺろんと、舌で小さな小ウサギをなめます。
きゃっきゃと小ウサギが笑いました。
食べられる心配なんて、この小ウサギがしていない証拠です。
「この俺が、お嬢ちゃんのかわいさに思わずくらっとくるなんてな」
ふっと笑みを浮かべておおかみは言いました。
そこでいつもなら、普通お姉さんおおかみたちはラグラスの言葉にうっとりするのですが、プリムラはよく分かんないという感じににこにこしながら首をちょこっと傾げています。
その様子の愛らしさに、ラグラスは言葉を失ってしまいました。
プリムラは黙ってしまったラグラスに、ぴょこぴょこと更に近づいて、すり寄ります。
どうやらその感触が楽しいようです。
そして後ろにまわり、おおかみの大きなしっぽをちょいちょいと触ってみます。ラグラスはぱたぱたと軽くしっぽを振って見せました。
すると、小ウサギは更にうれしそうにしっぽへじゃれつきはじめました。
すっかり二人(2匹?)は仲良しです。
小ウサギがしっぽにじゃれつく様子を見ながら、ラグラスも楽しんでいたのですが、突然、雨が降り始めました。
ぽつり。
雨粒をうけて、小ウサギがぷるぷると震えました。
ラグラスにとってはなんて事ない雨ですが、この小さなウサギには大変なことです。
震えているこの小ウサギを放っておくことなんて、とてもでじゃないですがラグラスには出来ません。
「お嬢ちゃん、木陰に行こう」
ラグラスはあわてて言うと、牙でプリムラを傷つけないように細心の注意を払ってくわえて、木陰まで行って雨宿りをしました。
「お嬢ちゃん、俺のお腹の下に隠れてるといい」
プリムラは震えながらコクンとうなずくと、木の下でごろんと寝そべるラグラスの体の下へ潜り込み、冷えた体を温めます。
ラグラスの体温と、毛皮は小さなプリムラを暖めるには十分でした。
そのうち小ウサギの体からふるえが止まると、ラグラスの耳にくーくーと言う気持ちよさそうな寝息が聞こえはじめました。
「……恐いもの知らずのお嬢ちゃんだな」
優しげな笑みを浮かべて、ラグラスは呟きました。
一体どこのウサギがおおかみの体に包まれて安心しきって眠るでしょう。
この状況のおかしさに、ラグラスは苦笑を禁じ得ません。
でも、気持ちよさそうな小ウサギの寝顔を見ていると、そんなことはどうでもいいような気がします。
くー、くー。
ふかふかであったかなその小さな体に、たまらない愛しさが込み上げます。
たった今出会ったばかりの小ウサギを離したくないと、心から思っていました。
ラグラスは雨の音と、小ウサギの寝息を聞きながら、満足げな気持ちで、ずうっと小さなぬくもりを抱きしめていました。
どん引きされないように、心底願っております。だいぶ昔に書いたのを、引っ張り出してきました。懐かしかったのでw