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軽い気持ちで国民的アイドルと友達になったら、周りの美少女達から激重感情をぶつけられる件――え!? トップアイドルの君まで!?  作者: 沢田美


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目立たれるのも困る

 月曜の朝。

 目が覚めて最初に見たスマホの通知数で、僕はしばらく布団の中から動けなかった。


 クラスのグループチャット。学校の非公式な雑談グループ。見覚えのない同級生からのフォロー申請。

 昨夜、僕は結局ショートドラマを一秒も見なかった。自室でゲームをして、イヤホンをつけて、下の階のテレビの音も可能な限り遮断していた。見たら終わる気がしたからだ。


 でも、見なくても終わらなかったらしい。


 グループチャットを恐る恐る開くと、案の定、僕の話題で埋まりかけていた。


『沢渡マジで出てたな』

『白須賀さんと普通に距離近くて草』

『いやあの金髪の子誰!?』

『西条静さん、沢渡の名前呼んでなかった?』

『月曜これ絶対本人いじられるやつ』


 画面を閉じる。

 見なかったことにしたい。だが見てしまった以上、現実逃避にも限界がある。


 休みたい。

 本気でそう思った。けれどこういう日に休んだら、余計に話題になる未来しか見えない。


 僕は諦めて布団から出た。


 ※ ※ ※


 通学路からして、もういつもと違った。


 駅のホームで、うちの学校の制服を着た生徒たちがスマホを見ながら何か話している。

 その会話が止まるタイミングと、僕が近くを通るタイミングが、何度か妙に重なった。


 校門へ近づくほど、視線が増える。


 見られている。

 しかも悪意というより、好奇心と面白がりが混ざった感じの視線だ。陰キャにとって、これが一番きつい。敵意ならまだ割り切れる。興味本位は、反応の正解が分からない。


 今すぐ引き返したかった、その時だった。


「おはよう、沢渡くん」


 白須賀だった。


 何でもない朝みたいな顔で、当然のように僕の隣へ並ぶ。

 周囲の空気がそれだけで少し変わる。昨日の放送を見た連中からすれば、画面の中で近かった二人が、そのまま登校でも一緒にいるように見えるのだから無理もない。


「……おはよう」


「顔、死んでるね」


「死ぬでしょ、これは」


「だよね」


 白須賀はくすっと笑う。

 笑い方は明るいのに、目だけは妙に落ち着いていた。


「たぶん今日、一日中見られると思うけど」


「知ってる」


「でも、沢渡くんが変なふうに受け答えしなければ、私は別に困らないかな」


「君は困らなくても僕が困るんだけど」


「ふふっ。そこは頑張って」


 無責任だった。

 でも、白須賀が隣にいるだけで、変に声をかけてくる連中が少し遠慮するのも事実だった。


 昇降口へ入る前、白須賀はふと前を向いたまま言った。


「昨日のやつ、ちゃんとすごかったよ」


「見てない」


「知ってる。見てない顔してたし」


「顔で分かるもの?」


「分かるよ」


 そこで彼女は少しだけ声を落とした。


「見なくて正解だったかもね。沢渡くん、多分、見たらすごく嫌な気持ちになってたと思う」


 それがどういう意味なのか聞き返す前に、白須賀はもういつもの笑顔に戻っていた。


 ※ ※ ※


 教室へ入った瞬間、空気が止まった。


 いや、本当に止まったわけじゃない。

 でも少なくとも、僕がドアを開けたタイミングで、いくつもの視線が一斉にこっちへ集まったのは事実だった。


「お、おはよう」

「沢渡、おはよ」

「昨日の見た?」


 挨拶のふりをした質問が早い。


 席へ向かう途中で、すでに何人かが様子を窺う顔をしていた。

 逃げたい。できれば机ごと消えたい。


 座った途端、前の席の男子が振り返った。


「なあ沢渡、あれマジでお前なの?」


「僕以外の誰に見えたんだよ」


「いや、そうじゃなくて! 白須賀さんとあんな感じなの?」


 その質問が雑すぎる。

 そこへ右斜め前の女子まで身を乗り出してきた。


「それより、あの金髪の子と何!? 普通に助けてたじゃん!」

「あと黒髪の清楚な子! 名前呼ばれてたよね!?」

「え、西条静さんってめっちゃ有名じゃない!?」


 だから、一気に来るな。


「撮影だから」

「助けたのはたまたま」

「名前は台本と名札見れば分かるだろ」


 できるだけ事務的に返したつもりなのに、まるで火に油だった。


「え、じゃあ連絡先知ってるの?」

「知らない」

「うそだ」

「ほんとに知らない」

「玲音ちゃんとは?」

「知らない」

「え、知らないのにあの空気なの?」

「だからなんなんだよ……」


 自分でも情けないくらい、声に疲れが滲んだ。


 その時だった。


「みんな、朝から元気だねー」


 白須賀が、僕の机の横へ当然みたいに立った。


 声は明るい。笑顔も完璧。

 でも、その立ち位置が絶妙だった。僕の机へ寄ってくる人間と、僕との間へ自然に入る位置。あからさまではないのに、これ以上は踏み込ませない空気がある。


「質問なら、そんなに一気にしなくてもいいんじゃない?」


 にこやかな一言で、少し空気が緩む。

 いや、正確には、緩んだふりをして後退した。


 そこへさらに、後ろから静かな声が落ちた。


「朝から見世物みたいにされるの、沢渡くんがかわいそうだから、その辺にしたほうがいいよ」


 天雨だった。


 穏やかな口調なのに、妙に効いた。

 言われた側の女子たちが、一瞬だけ言葉を詰まらせる。


「天雨さん、別にそんなつもりじゃ……」


「つもりじゃなくても、今そうなってるから」


 ぴしゃり、とまではいかない。

 でも、その静かな指摘だけで、何人かは気まずそうに席へ戻っていった。


 助かった。

 助かったのだが、目の前に白須賀、後ろに天雨という状況も、それはそれで周囲に変な説得力を与えていそうで嫌だった。


 案の定、教室の端のほうから誰かが小さく「うわ」とか言っているのが聞こえた。

 聞こえるな。聞こえないでくれ。


 ※ ※ ※


 一時間目と二時間目の間の休み時間には、別方向からの余波が来た。


 廊下に出た瞬間、見知らぬ女子二人組がこちらを見てひそひそ話している。

 しかも同学年ではない。上履きの色が違うので、おそらく二年だ。


「ねえ、あの子でしょ」

「ほんとだ。思ったより普通……」


 思ったより普通って何だ。

 こっちは最初から最後まで普通のつもりなんだけど。


「沢渡くん」


 今度は柊先輩だった。

 ちょうど廊下を歩いてきたらしく、僕を見るなり少しだけ眉を寄せる。


「ちょっと」


「何ですか」


「朝から、他学年の生徒まで廊下であなたを見に来てるんだけど」


「僕に言われても困るんですけど」


「私も困っているわ」


 そこは即答だった。


 柊先輩は周囲を一度見回し、それから小さく息をつく。


「……面倒な人が増えたわね」


 完全に小言だった。


「もともと少なくはなかったのに、今回のでさらに増えた。しかも校外の反応まで混ざっているから余計に質が悪いわ」


「校外?」


「他校の生徒が学校アカウントに動画の感想を送りつけてきてるの。白須賀さん目当てもあるけど、あなたに関するものも少しある」


「やめて」


「私もやめてほしい」


 柊先輩は本気で面倒そうだった。

 けれどそのあと、少しだけ声を落とす。


「今日はなるべく一人で校内を歩かないで。変な呼び止められ方をされるかもしれないから」


「それ、守れる気がしないんですが」


「守りなさい」


 無茶を言う。

 だが、柊先輩がここまで言うのなら、本当に少し面倒なことになっているのだろう。


 ※ ※ ※


 昼休み、僕は半ば逃げるように屋上へ向かった。


 教室に残れば、また放送の話を蒸し返されるのは目に見えていたし、廊下も廊下で視線が多すぎる。やっぱり僕にはここしかない。

 そう思って扉を開けた瞬間、すでに先客がいた。


 白須賀と天雨だった。


「……なんで」


「なんでって、沢渡くん来ると思ったから」


 白須賀が当たり前みたいに言う。


「ここ、静かだから」


 天雨が補足する。

 つまり、僕の逃げ道は完全に読まれていたらしい。


 ベンチへ座ると、白須賀が少し楽しそうに僕を覗き込む。


「人気者だね、沢渡くん」


「やめて」


「でもほんとだよ。朝からみんな気にしてたし」


「気にされたくないんだけど」


「そういうとこ含めて、だと思う」


 何が“だと思う”なのか分からない。

 だが、その横で天雨ははっきりと嫌そうな顔をしていた。


「昨日の放送、内容はよかったと思う」


「見たんだ」


「見たよ」


 その返事は短い。

 そして、すぐに続く。


「でも、ああいう編集は最悪」


 かなり直球だった。


 白須賀が、くすっと笑う。


「分かるかも」


「笑いごとじゃないでしょ」


「だって、ほんとにちゃんと作ってあったし」


「だから嫌なの」


 天雨はそう言って、少しだけ視線を逸らした。


「沢渡くんが変に目立つ形で、他の人の“気になる対象”みたいに見えるの、普通に困るから」


 その言い方は、相変わらず静かなのに重い。

 僕が何も返せずにいると、白須賀が先に口を開いた。


「でもさ、美鈴ちゃん」


「なに」


「それ、私も同じこと思った」


 一瞬、天雨が黙る。


 白須賀は前を向いたまま、どこか軽く聞こえる声で続けた。


「沢渡くんって、本人は全然そんなつもりないのに、ああやって切り取られると“みんなが気になっちゃう人”みたいに見えるんだよね」


「……実際、そうなりかけてるから嫌なんだけど」


「うん。ほんとに嫌だよね」


 同意の仕方が妙に自然で、逆に怖かった。


 風が吹く。

 僕は紙パックのジュースを持ったまま、ただ黙るしかない。


 白須賀は少しだけ笑っていた。

 でもその笑顔は、朝の教室で見せていたものよりずっと私的で、ずっと温度が低かった。


「だから、沢渡くんはあんまり無自覚に優しくしないほうがいいと思うな」


「またそれ?」


「まただよ」


 今度は、はっきり言い切られた。


「だってもう、昨日ので増えたし」


 増えた。

 その単語がやけに生々しかった。


 僕は思わず視線を逸らす。

 でもたぶん、その場で一番逃げていたのは僕だけで、白須賀も天雨も、それぞれちゃんと現実を見ていた。


 昨夜の放送は終わった。

 けれど、その余韻だけは月曜の学校中に残っていて、むしろ今朝からずっと広がり続けている。


 そして、その中心にいるのが自分なのだという事実だけが、ひたすら重かった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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