第5話 青葉さんは人の話を聞くのが得意
そうこうしているうちに、事務局が時間をアナウンスし、俺達のもとへ麦茶が配られた。手元のタブレットは「読み込み中」に変わって、ニックネーム「ランさん」のプロフィールが表示される。青葉さんの下の名前は蘭香だ。
表示されるのは男と同じプロフィールだ。出身は岡山、現住所は東京都内、家族構成・長女、趣味は映画、仕事はサービス業、ハイハイ知ってるよ弊社のコンプライアンス部ね。まあイメージ通りだな、と思いながら、年収にも目がいった。……俺の1.5倍以上だった。いや待てよ、弊社では有望中途採用にLTIを付与してるはず。青葉さんは中途だから、下手しこれにプラス100万円相当の弊社株……。
なんか見ちゃいけないもんを見た気がするな……てかそこ正直に書くなよ……。白い目でタブレットを見つめる俺の向かい側で、青葉さんも俺のプロフィールを眺める。
「へえ、白沢さんって実家広島なんですね。お隣じゃないですか」
「確かに。っていっても、僕は山口寄りなんですけど」
「私も兵庫寄り、というかだいぶ田舎のほうです。広島風お好み焼き、結構好きですよ」
「ああ、懐かしいなあ。まあ家で作るときは関西風でやっちゃうんですけどね」
「料理なさるんですね」
「嫌いじゃないです。でも所詮男の一人暮らしなんで、週に4回は野菜炒め食ってますよ」
お、意外と盛り上がってるか? 青葉さんも「分かります!」と顔を明るくした。やっぱ美人だな。
「私も、週に4回は鮭の塩焼き食べるんで」
……いや、週に4回野菜炒め食うのと鮭の塩焼き食うのは違うくない? 野菜炒めは肉と野菜の種類と味付け変えられるけど、鮭の、しかも塩焼きって幅狭くない?
「焼き魚ってバリエーション出すの難しくないですか?」
「え? ええ、塩焼き一択ですね」
……青葉さんの意外な一面を見た。意外とずぼら……いやずぼらとかそういう話じゃないな。意外と……なんだこれ。週に4回同じメニューを食えるって、なんだそれ。
「ああ、ごめんなさい、婚活中でしたね。性格の話とかしておきます?」
青葉さんは軽く俯き、零れてきた髪を耳にかける。やはり美人だ。
「白沢さんは――真面目で、穏やか。ですよね、仕事してる印象もそんな感じです」
「ああ、まあ、はい。青葉さんは――」
視線を落とした先には『人の話をじっくり聞くのが得意です』と書かれていた。どっかで見たと思ったら、森川が見せてくれたメルマガの一例だ。なるほどな、多分申込みのときにある程度書いてて、当日前に運営が勝手に抜粋して配信するんだな。
……って、そうじゃない。
「……これってヒアリングとかそういう話ですか?」
「そうですね、仕事柄、人の話を聞くのは慣れてます」
にこやかに微笑まれたが、そういうことじゃない。なんで婚活相手に事実調査をされねばならんのだ。
「ちなみに白沢さんは仕事以外でも真面目だとか穏やかって言われるんですか? それはどんなときに?」
「あ、そうですねえ、僕は趣味がゲームで友達と一緒によくやるんですけど、その時によく言われますね。白沢はゲーム好きなのに一喜一憂しないっていうか、のんびりやるよなって」
「なるほど。ゲームというとフラストレーションが溜まる人も一定数いるように思いますが、白沢さんはそういうことはないんですか?」
「いや、僕はそういうゲームはしないんで」
「そうなんです? 具体的にどういったゲームがフラストレーションの溜まるゲームとして分類されるんですか?」
ん? これ、事実調査に入ってないか? 性格の評価は自己申告だから裏付ける事実関係を提出してくださいって言われてないか?
段々と不穏な空気が漂い始めていた。なんだか俺が知ってる青葉さんと違う……。
「やっぱり向こう側にいるのが人だと分かっているゲームはその類じゃないですかね」
「でも白沢さんはご友人とゲームをなさることもあるのでは?」
「ええ、まあ。でも僕がやるのは共闘とかサポートであって……」
尋問かよ!! 喋りながら冷や汗が流れ始めた。これ完全に調査に入ってるじゃん。「穏当な性格とか自称してるけどゲーム内でキレてんじゃないの?」って誘導しようとしてるじゃん! こっわいよ青葉さん!




