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コンプライアンス部の青葉さんは恋をしたい~関わるとトゲがある美人同僚に同棲を提案された件  作者: 潮海璃月/神楽圭


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第29話 青葉さんはボケると滑る

 俺達の同居同盟は、変化なく続いていく。なんだか肉が食べたい、と言い出した青葉さんの提案を受け、その日は焼肉を食べることになった。


「そういえば白沢くんって、婚活パーティーで連絡先とか交換しなかったの?」


 テーブル席で向かい合い、カルビを焼きながら、青葉さんが急に言い出した。婚活パーティーなんて、もはや遥か遠い昔の記憶である。森川は現在進行中ではあるが。


「いや、したにはしたけど……そのまま連絡も来なかったから忘れてたな」


 俺から何か連絡をするべきだったのかもしれないが、青葉さんの言葉を借りれば、連絡するほどの興味が湧かなかったので仕方がない。青葉さんはなるほどと頷いた。


「ま、相原さんを引き摺ってるからその気もなかったし?」

「引き摺ってない、というか人の元カノの名前をさらっと出してくるのはやめろ」


 そのとき、昼間の話を思い出した。別に森川が不誠実と言うつもりはないし、マッチングアプリや婚活パーティーで複数の異性を並行しているというのはよくある話だろう。でも女性から見てどうなんだろう。素朴な疑問を抱いた。


「俺の話は措くとしても、他の女性と比べられるというか……並行されてるなんて嫌じゃない? 特に女性にとっては」

「さあ……。女性という大きい主語は知らないけど、私は気にならないかな」


 その時点であんまり参考にならなさそうな気がしてきた。そうだ、青葉さんに訊いた俺が悪かった。


「最初に話したでしょ、婚活は結婚する相手を見つける場なんだって。仕事と同じじゃん、共同開発をするのに相見積もり《あいみつ》も取らずに一社に絞って交渉するなんて論外。結婚というイベントを前に最初から一人の相手に的を絞るなんて、上辺の誠実に甘えた話でしょ」

「すんごい表現するな。共同開発にたとえられるとまあ分かるけど」


 青葉さんはいちいち考え方が合理的過ぎる。多分女性一般はそういうものではないと思う。雑談がてら聞いた俺が本当に間違っていた。


「逆にどう、白沢くんは婚活パーティーで出会った女性が他の男とも、交際を目指した連絡を取ってたら二股とか浮気とか思う?」

「いやあ……まあ、青葉さんのいうとおり、婚活だし……」


 ただ、いい気分でないのは確かだ。たとえば青葉さんがここで、金曜日の夜は俺と同居同盟を結び、土曜日の夜は――まあ例えば(有り得ないけど)柿井さんと同居同盟を結んでいるとなったら。


 ……それはなんか違うくない? そう思う。


 その俺の微妙な蟠りゆえに生まれた間は、追加の肉の皿に影を潜めた。青葉さんが机の上を整理しながら「ま、だよね」と続きを引き取る。


「だから白沢くんが相原さんを引き摺りながら婚活しても、別に不誠実とは思わないかな。最終的にどうするかは別として」

「最終的って――だから引き摺ってないけど、仮に引き摺ってるとして、付き合う前にはちゃんと割り切れってことか」

「そうそう。ま、おくびにも出さないなら引き摺ってないことと同じじゃないかとか言う人もいそうだけど。一人の女性として言わせてもらえるなら、そんな男は願い下げ」


 その発言にはある矛盾がある。青葉さんとしては、他の女に気持ちを残す男と付き合うなんてとんでもない。そして俺を〝相原《元カノ》を引き摺っている男〟と認定している。


 しかし、その俺と恋愛をするための同居同盟を結んだままでいるというのは、果たしてどういうことか。


 多分その疑問は青葉さんに読まれた。煙の向こうの青葉さんは不敵に笑う。


「もちろん、この同盟は“距離が縮まった結果、こいつナシだなって思うのもアリ”だから。いつか距離が縮まったら、元カノのことはちゃんと忘れてもらおうかなー」

「何の話をしてるんだ、まったく」


 答えながら、同居同盟の趣旨を反芻する。青葉さんがその趣旨を口にするたびに、この同盟には枷も何もないと言われるようで気楽でいい。ただ、妙に腹落ちしないところもなくはない。




 炭火で温まった体は、冬の風であっという間に冷えていく。今年は秋がなかった。鬱陶しい残暑は突如消え失せ、気付けば冬将軍の配下が息巻く日々が続き、この有様だ。レジでもらったミントキャンディごと手をポケットに突っ込み、首をすくめる。でも隣の青葉さんが口にキャンディを放り込むのを見て、もう一度取り出した。あんまり好きじゃないような気がしていたのだが、いま食べてみると悪くない。


「キャンディって舐めとくの難しいよね」

「なに、どういうこと?」

「齧っちゃうでしょ?」


 青葉さんの口の中で、カラカラとキャンディが転がる音がする。すぐ隣を車が走り抜けていくのに、気になったのは青葉さんのキャンディの音だった。


「齧らないよ……青葉さん齧るのかよ……」

「食べ物だから咀嚼するでしょ」

「舐めるのを楽しむ食べ物なんだよ」


 地下鉄への階段を降りるときには、青葉さんの口の中からはガリッバキッと音が聞こえていた。涼し気にキャンディを噛み砕く横顔は、コンプライアンス部の青バラの異名が相応しい。

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