第25話 青葉さんはシゴデキ
部屋へ到着すると、提案したのが自分なので引き受けよう、と青葉さんはキッチンに立った。そうはいっても和食なんて小鉢の数が云々と言っていたのだから人手がいるのでは、と言いたかったが、青葉さんの手際はよかった。
まず鍋で湯を沸かし、ゴボウを洗う。それを薄っぺらく削いで水に晒している間に、湧いた湯にほうれん草を突っ込む。ほうれん草を茹でている間にフライパンを火にかけてニンジンを切り、そうこうしているうちに茹でられたほうれん草をザルにあげ、別の鍋を取り出してまた湯を沸かす。ほうれん草の湯を搾った後はフライパンにゴボウとニンジンを突っ込み、次の瞬間には備え付けのグリルにほっけの干物を放り込む。ほっけが焼ける間はきんぴらごぼうを作って、寝かせる間にほうれん草の胡麻和えを、そしてそうしているうちに湧いた湯で味噌汁を……なんてしているうちに、干物が焼ける。
女はマルチタスクが得意だとは言うが、ここまでとは。カウンター越しに見物を決め込んでいた俺は舌を巻いた。冷凍された白米がいつ電子レンジに突っ込まれたのかなんて、認識さえできていなかった。
「じゃ、白沢くん、テーブルへ運んでどうぞ」
「お、おお……」
テーブルに並ぶ一汁三菜から漂ってくる甘い醤油の香りは、確かに和食の風格を放っていた。これが6時上がりの平日8時前に出来上がるものなのかと感服する。
「……本当に青葉さんって仕事できるんだな」
「こんなのただの慣れだから。和食は待機時間もあるからね、その時間にできることから逆算して手を付ける順番を考えればいいだけ」
「それを仕事ができるっていうんだよ。タスクに優先順位をつけてやるといい、なんて言い方しただけで不適切指導まっしぐらなんだぞ」
軽口を叩きながらも、内心はまだ感動したままである。テーブルにつきながら(なんとなく、テレビに向かう側が俺だと決まっている)、しかし鮭の塩焼きのくだりを思い出す。
「青葉さん、普通に料理できるのに、なんで鮭の塩焼き?」
「面倒くさいし、朝は苦手だから」
そういえば、俺と喋っているといつもほぼ徹夜みたいになるもんな。夜は起きていられるけど、早起きはできない。そういう人はいくらでもいる。俺然り。
「じゃ、食べましょ」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
そしてもちろん、この食事はしっかり美味いのである。青葉さんの弱点を見つけたいという衝動に駆られた。が、人を呪わば穴二つというやつか、ほっけは身が固くてうまく食えない。そして青葉さんは、慣れた手つきでほっけの身を綺麗にほぐして食べていく。見合いの席にいつ焼き魚を出されたって困ることはありません、そう言いたげな余裕のある仕草だった。
「……青葉さん、食べ方綺麗だよな」
「これもまた慣れ」
「そんなもんかなあ……」
しかし、確かに俺は焼き魚を食い慣れていない、と言い訳をさせてもらうことにしよう。そうしよう。
そんな青葉さんは、ほっけを食べながらはたと止まった。
「……そうだ」
「どうした?」
「似てる魚を聞かれたら、サメと答えようと思う」
……たちまち俺は溜飲を下げた。青葉さんにはちゃんと弱点がある。――脈絡がなく、また発想が突飛であり、いわゆる変な人である。




