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コンプライアンス部の青葉さんは恋をしたい~関わるとトゲがある美人同僚に同棲を提案された件  作者: 潮海璃月/神楽圭


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第17話 青葉さんは悪戯好き


 俺と青葉さんの同居同盟は、順調といえばそうであり、特に進展がないといえばそれもそうである。


 順調なことといえば、俺と青葉さんは、多分自意識過剰ではなくそこそこ仲が良くなった。同居同盟を結んでいるのは金曜日の夜だけだが、仕事が終わった後はなんとなくLINEで話していることが多くなった。そのうち「明日会議ないけど、昼食べる?」とどちらかが言い出すこともあり、金曜日以外も昼飯を一緒に食うことがある。俺としても、昼に誰かと喋りながら食事をできるのはいい気晴らしになる。そうして、俺達が食事をすること、実に……数えきれない。その意味で俺達は非常に順調な同盟関係にある。


 が、それだけだ。俺の日常にちょっと青葉さんが登場したところで、それは些細なこと。判を押したような日々と言ったって、その判がズレることだってたまにはあるだろうと、その程度のもの。


 それに、俺と青葉さんの関係の名前に変化はない。恋人ではなく、友人ではなく、同居同盟を結んでいるだけの相手だ。


 週明け、少し寝不足の頭で出社する。毎晩毎晩、なんとなく青葉さんとLINEをしているうちに夜が更けてしまうせいだ。これは同居同盟発足後の難点かもしれない。


 そして今日は、その青葉さんとの会議が設定されている。コンプライアンス調査の結果確認ということで、怒られるわけではないのだが緊張する。なにせここ最近の俺は、オフラインの青葉さんばかり見ているのだ。大剣を振り回しながら「ぐえっ吹っ飛ばされたっ」と北斗の拳みたいなリアクションをとる青葉さんを見ているのだ。その青葉さんと会社で、オンライン会議をする。今までの日常と非日常が逆転していた。


 11時半の少し前、俺はミーティングルームに参加する。11時ぴったりに、ぱっと青葉さんのアイコンが映った。相変わらず映りの悪い証明写真だ。やっぱりコンプライアンス部の人だから真面目なんだな――なんて印象は間違いだったのだと、今の俺は知っている。あの青葉さんのことだ、「どうせ会議で顔を映すんだから、自分の写真ならなんでもいい」と無関心に適当に設定したのだろう。


 そのアイコンはすぐに青葉さんに切り替わった。背景は会議室だ。直近の青葉さんはオフラインで見ていた時間が長かったので、ちょっと違和感があった。


「《お疲れ様です、白沢さん》」

「お疲れ様です……」


 仕事の青葉さんは愛想笑いを浮かべている。しかし、今の俺が思い浮かべる青葉さんといえばモンハンをやってるときの抜けた表情なので、何の企みがあるんだと怖くなる。


「《お忙しい中でお時間を取っていただいてすみません。早速ですけど、報告いただいた調査結果について少し詳細を確認させてください》」

「はい、大丈夫です。資料は事前に送ってるとおりで……」


 同居同盟を結んでいても、仕事は仕事、青バラは公私混同などしない。同居同盟を結ぶ前と全く変わらない淡々とした声だ。


 会議が終わる頃になってもそうだ。特に雑談などもなく、青葉さんは「ありがとうございます、助かりました」と軽く頭を下げる。


「《現状はこれで問題ありません。また何かあればご連絡させてください》」

「ええ、お気軽にどうぞ」

「《そういえば白沢さん、ずっと会議詰まってますねえ。最近忙しいんですか?》」


 ……雑談? それとも次の会議の予定? 一瞬意図が分からずに首を傾げた。


「……あー、会議じゃないです。少し前にコンプライアンス部から突っ込まれたじゃないですか、認証取ってないこと。あれ、もともと年内に予定してたんで、予定埋めて集中してやろうと思ってるだけで」

「《あ、そうなんですか。うちのせいでしたか》」


 カラカラと青葉さんは軽い調子で笑った。コンプライアンス部のせい、というわけではないのはお互い分かってることなので、申し訳なさはそうない。


「いえ、まあ、もともと予定してたことなんで。何か用事、というか会議入れるなら大丈夫ですよ」

「《そういうわけじゃないんですけど、今日の会議入れようとしたときにすごく忙しそうだったんで。大丈夫かなって思っただけです》」

「あー、まあ、大丈夫です。残業までいってないですしね」

「《金曜日の夜はしっかり空いてますものねえ》」


 青バラめ……。ふふ、と画面越しに妖艶に笑われ、俺は一人拳を握りしめた。


「……コンプライアンス部がハラスメントしないでください」

「《あら失礼しました。きちんと毎週、予定は確認させていただきますね》」


 つまり、毎週金曜日、同居同盟を続けることができるか連絡するよ、ということだ。青バラめ、と俺は更に強く拳を握りしめた。


「《では白沢さん、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします》」

「……よろしくお願いします」


 青葉さんは画面から消えた。首の後ろを触ると少し汗をかいていた。


 青バラめ……。心の中でもう一度呟きながら背筋を正し、会議室のほうを見る。遠くの会議室の扉が開いて、パソコンを抱えた青葉さんが出てきた。グレイのスカートを翻しながら通路を歩き始めて――こちらを見て、ニヤッと意味ありげに笑った。


「白沢」

「うわっ」


 そのとき声をかけてきたのは、森川だった。俺は飛びあがってしまいそうになったし、現に心臓は跳ね上がった。


 び、っくりした……。椅子から転げ落ちそうな勢いで驚いた俺に、森川は「……そんな驚いた?」と申し訳なさそうな顔をする。


「こっち見てるから気付いてると思った、すまん」

「いや……いやごめん、虚空を見つめてた」

「疲れてんな。メシ食いに行こうぜ」


 今日はデスクワークなんだ、と言った森川の背景で、青葉さんが通り過ぎていく。それをまた視線で追っているうちに、森川が振り向いた。


「珍しいな、青葉さん。こっちにいるの」

「……言われてみれば確かに」


 コンプライアンス部はその業務内容が内容なので、比較的閉鎖的なエリアを割り当てられている。フリーアドレスとはいえ、セキュリティ部とは会議室エリアを挟んで真逆の位置にあるので、あえてこちらを通る必要はない。


 ……さては青葉さん、俺の反応を見るためにこっちを通ったんじゃないだろうな。頭には「がぶっ」と言いながら手を動かす青葉さんのことが浮かんだ。


「ま、いいや、メシ行こう」

「おう」


 森川に畳みかけられて席を立つ。青葉さんはもうコンプライアンス部エリアに消えていた。


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