第16話 青葉さんは徹夜に強い
同居同盟初回は、なんとも色気なく、午前2時までモンハンをやった。俺がしばらく意地になって宝玉を探していたのだが、そのうち音を上げ、しかし眠ることはせず、ソファに座ったままだらだらと他愛のない話に終始した。俺の上司が実は同じセキュリティ部の別の上司と仲が悪い暴露話をした。青葉さんの弟の5歳のときの写真を見た。
気付けば、窓の外が明るくなっていた。朝日を見たのなんて何年ぶりだろう、そうぼやきながら、ランナーズハイのテンションに任せるがまま「同居を隔週でなく毎週」に増やした。だって思いがけず噛み合わせがよかったから。
でもそれだけだ。それ以上もそれ以下もない。不思議なことをやってるから不思議なことになっている。それだけだ。
徹夜してもさして辛くなさそうな青葉さんに見送られ、俺は玄関を出た。しんと静まり返った住宅街では、空気も心なしか新鮮に思えた。青葉さんの部屋で快適に涼んでいた体に、徐々に温い空気を取り込みながら、駅までの道を歩いた。朝焼けを浴びながら聞いた始発電車の音はどこか懐かしかった。
ああ、なんだかちょっと学生時代に戻ったみたいだ。
そんなことを思ったからか、その日の夜(というか朝)は、久しぶりに夢を見た。
出てきたのは、昔の彼女――相原だった。昔といっても直近の彼女で、別れてもう5、6年は経つ。
夢の中の相原は大学4年生だった。そりゃそうだ、俺の記憶の相原は大学4年生で止まっている。
相原のちょっと茶色く染めたストレートの髪は、俯くたびに表情を覆い隠していた。夢の中でもそうだった。院試の話をしながら、相原はぼそぼそと小さく呟いていた。
『直くんは余裕そうだよね』
『そんなことないよ。結構ヒヤヒヤしてる』
夢の中の俺は反射的にそう返事をしていた。現実では、当時の俺は目当ての研究室に入るべく猛勉強をしていたいて、毎日吐きそうになっていた。正直、あの頃は食事もあんまりちゃんと摂れていなかった気がする。
夢の中の相原は「あーあ」と呟いた。
『もっと早く調べとけばよかったな。だってもう間に合わないし』
『え? もしかしてTOEFL受けてないの?』
『受けてたけど、スコアが悪かったから。これじゃ足きりだよ』
そう言ってわんわん泣いていて、夢の中の俺は狼狽しながら慰めていた。相原は『もっとちゃんとしとけばよかった』を繰り返していた。俺は、やべぇなあ、こうなった相原は全然泣き止まないんだよなあ、と困り果てていた。
そこになぜか颯爽と青葉さんが現れた。グレーのスカートの裾をはためかせて仁王立ちしていた。
『白沢さん、コンプライアンス違反です』
『えっなんで!? 俺ちゃんと社内規程に沿って相原のメンタルケアしてるんですけど!?』
目覚めてみると全く意味不明の言い分なのだが、俺はそう言っていた。そして青葉さんはコンプライアンス部の青バラの顔で言ってのけた。
『その社内規程、古いものですよ』
『そんなものをいつまでも置いておくな!』
『アップデートはちゃんとイントラで知らされています。最新の規程発行は既に半年前、白沢さんが従うべき規則はこちらです。担当部署が違います、白沢さんは相原さんではなく、森川さんの承諾を得る必要があります』
相原の承諾も意味分からんし、それが森川になったって何がどうなるわけでもない――という謎過ぎる夢から、昼間の太陽に呼ばれて目覚め、スマホを見ると「12:13」の下に「青葉蘭香:そういえばオンラインプレイは平日でもできるのでは?」と表示されていた。何が夢で何が現実なのかは分かったが、それでもまるで夢のようにおかしな現実だった。
「……俺の身に、一体何が起きてるんだ」
呆然と呟いた。頭の中には、夢の中の相原の姿が妙にこびりついていた。




