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2話(通算9話)「いい年して、気をつかいすぎ?」

 スーパーのレジ奥。

 パートの美津代が休憩室へ向かうと、若い子が椅子に座っていた。

 髪をまとめたまま、スマホを見つめている。


「あら、莉子ちゃん」

「……あ、美津代さん。こんにちは」


 彼女──あの第6話で真帆と話していた莉子だった。

 別の職場に移ったと聞いていたが、ここにもシフトで来ているらしい。


「大丈夫? 顔、ちょっと疲れてる」

「いやぁ……お客さんに“笑顔が引きつってる”って言われちゃって」

「まぁ……そんなこと言う人もいるのねぇ」

「いい年して、まだ気をつかいすぎだって。言われました」

「誰に?」

「母です」


 言って、苦笑した。


 美津代はしばらく黙ってから、コーヒーを二ついれた。

 湯気の向こうで、笑顔がやわらぐ。


「気をつかえるって、すごいことよ。

 でもね、気をつかいすぎないのも、もっとすごい」


「え?」

「いい年して、って言葉。

 あれ、歳をとった人にだけ向けられるものじゃないと思うの。

 若い人が、無理してるときにも響くのよ」


 莉子は、しばらく黙ってコーヒーを見つめていた。

 そして小さく、うなずいた。


「……じゃあ、ちょっとサボっていいですか」

「いいのいいの。サボれるうちが華よ」


 二人の笑い声が、午後の光に混ざっていく。


 ──“いい年して気をつかいすぎ”、

 そう言える誰かがいる世界は、まだやさしい。

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