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1話(通算8話)「いい年して、まだやってるの」

 午後の公園。

 小学生たちの声が風に混ざっている。


 ベンチに座っていた美津代は、リュックからスマホを取り出した。

 アプリを開くと、編み物サークルの掲示板にメッセージが増えている。


『今日もオンラインでやります?』

『寒いけど外で編みたい気分〜』


 指を滑らせながら、ふっと笑う。

“いい年してスマホ”と笑われたあの日から、もう半年。

 いまでは、この掲示板が小さな居場所になっている。


 少し離れたベンチでは、スーツ姿の真帆がノートを広げていた。

 隣に座った子どもが、タブレットで動画を見ている。


「すごいね、ちゃんと作ってるんだ」

「うん。アニメの続き、ぼくが描いてるの」

「へぇ、いいね」


 声をかけた真帆の笑顔がやわらかい。

 そのやり取りを見ていた美津代は、思わず頬を緩めた。

“いい年して話しかけるなんて”──そんな言葉が浮かんで、すぐに消える。


 夕方、二人の帰る方向がたまたま同じだった。

 信号待ちの間、自然と会釈を交わす。


「寒くなりましたね」

「ええ。でも、悪くないですね」


 青になって、歩き出す。

 風が少し冷たい。

 けれど、どこかあたたかい。


 ──“いい年して”という言葉が、そっとほどけていく音がした。

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