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7話 いい年して変われるの

 職場でパート仲間が口にする。

「うちの孫がスマホ教えてくれてね」「いい年して覚えられる?」

 笑い合う昼下がり。

——“いい年して変われる”、それがどれほど誇らしいことか。


 昼下がりの休憩室。

 湯気の立つ紙コップのコーヒーと、スーパーの袋に入った菓子パン。

 蛍光灯の音がかすかに響いている。


「うちの孫がさ、スマホ教えてくれてね」

「えー、いいじゃない」

「でも、覚えられなくて。ほら、いい年してでしょ」

 笑いながら、千代子が手を振った。


 その隣で、美津代はやさしく笑った。

「でも、覚えたんでしょう?」

「うん、まぁね。スタンプの送り方とか」

「すごいじゃない」


 言葉にした瞬間、自分でも胸の奥が少し温かくなった。


 昔は、変わることが怖かった。

 歳を重ねるほど、「もういいや」「今さら」と口にする機会が増えた。

 でも──。


 昨日、孫に教わって初めて送ったスタンプ。

 画面に「ばあば、かわいい!」と返ってきたメッセージ。

 あの一言だけで、世界がちょっと広がった気がした。


「いい年して変われるって、案外、誇らしいことよ」

 ぽつりとつぶやくと、隣の千代子が目を丸くした。

「ほんとね。なんか、若返った気がする」

 二人して笑い合う。


 窓の外では、午後の日差しが穏やかに街を照らしていた。

 バスが通り過ぎるたび、光がテーブルの上をかすめていく。


 美津代はスマホを取り出し、そっと画面をなぞった。

 カメラを開いて、休憩室のコーヒーとパンを撮る。

「これ、送ってみようかな」

「いいね!」


 笑い声が、午後の空気に溶けていった。


 ──“いい年して変われる”、それがどれほど誇らしいことか。

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