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4話 いい年して遊んで

「ゲーム、まだやってるの?」

 職場の休憩室で、先輩が笑いながら言った。

「いい年して、飽きないねえ」


 直哉はスマホを伏せて、

「まあ、現実の方がバグ多いんで」

 とだけ返した。


 先輩は笑って出ていった。

 残った缶コーヒーの音だけが、

 カチンと静かに響いた。



---


 家に帰ると、

 イヤホンの中で友人の声がする。

「おつかれー、今日も潜る?」

「潜る潜る」

 画面の向こうの仲間たちとログイン。


 仮想のフィールドに立つと、

 空がやたらきれいだ。

「今日、リアル曇ってたからさ」

「そういう日は晴れマップ行こうぜ」


 彼らは顔も知らない。

 けれど、名前を呼び合うたびに、

 何かが救われる気がする。



---


 深夜。

 モニターの明かりだけが部屋を照らす。

「いい年して遊んで」

 ふとつぶやく。


 誰かの声みたいに聞こえた。

 子どものころ、

「宿題より遊びを優先して怒られた日のこと」

 高校で「部活の練習を真面目にやれ」と言われた日のこと。

 全部、思い出す。


 ——遊びって、命の余白みたいなもんじゃないのかな。


 現実がギチギチしてくるほど、

 あそび(余裕)が要る。

 ゲームも、音楽も、友だちとのチャットも。

 生きるための“隙間”だ。



---


「おい、ボス来てるぞ!」

 仲間の声。

 直哉はマウスを握り直す。


 画面の向こうで、誰かが笑っている。

 世界が一瞬だけ、軽くなった。


 戦闘が終わると、ログの欄にメッセージが流れた。


> “いい年して遊んで、ありがとう”




 誰が打ったのかわからない。

 でも、心のどこかにそっと残った。



---


 画面を閉じて、

 真っ暗な窓に自分の顔が映る。

 笑っていることに気づいて、

 直哉は少し照れた。


「いい年して、遊んでる」

 それで、いいじゃないか。

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