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3話(通算10話・最終話)「いい年して、言えるようになった」

 町の文化センターの小さなホール。

 今日は「地域の手しごと展」。

 美津代の編み物サークルも、机の一角に並んでいた。


 昼下がり、外の陽ざしが窓に反射して、室内をやわらかく照らす。

 人の流れの中に、見慣れた顔があった。


「……あ、真帆さん?」

「こんにちは、美津代さん」


 手元には、取材用の小さなカメラ。

 近くで、莉子がスタッフ証を下げて動き回っている。


「お久しぶり。あら、莉子ちゃんも」

「うわっ、美津代さん!? 本当に出してたんだ!」

「出してたのよ、こっそり」

 笑い合う三人。


 通りすがりの佐久間が、パンフレットを片手に立ち止まった。

「これ、取材ですか?」

「はい。地元の広報で、ちょっとだけ」

「いいですね。僕、ここのコーヒー目当てで来ました」


 その軽口に、周りの空気がふっとやわらぐ。


 テーブルの上に並んだ手編みのマフラーを、莉子が手に取る。

「……こういうの、自分でできたらいいな」

「できるわよ」

 美津代が笑って答える。

「最初は、毛糸と格闘するの。でも、ある日すっと、形になる」


 真帆がその言葉を聞きながら、カメラを構えた。

 レンズ越しに見える三人の顔が、

 どれも“自分らしい光”をまとっている。


「いい年して変わりたい、とか」

「いい年して笑っちゃうね、とか」

「でも、言えるようになっただけで、すごいことですよね」


 佐久間がぽつりとこぼす。

 誰も否定しなかった。


 その沈黙のなかで、少し風が通り抜けた。

 午後の光がテーブルに揺れて、

 編みかけの糸がきらりと光る。


 ──“いい年して”と言い合えること。

 それが、誰かとわかり合う最初のサインなのかもしれない。


 外では、木の枝がそよぎ、

 どこからか子どもの笑い声が聞こえていた。

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