エピローグ 夜明けの終止符
端末が破壊されると、部屋には再び静寂が戻った。
だが、それは絶望的な静けさとは違う。
嵐が去った後の清々しい静寂だった。
空気は澄み、張り詰めていた緊張が解け、呼吸が楽になる。
ソファの陰から、佐藤の娘がそっと顔を出す。
頬には涙の跡が残っているが、その瞳からは怯えが消えていた。
代わりに宿っていたのは、目の前の不思議な救世主を見つめる光。
母は娘の肩を抱き寄せ、震える手で髪を撫でながら、ようやく安堵の涙を流した。
和也は深く息を吐き、演技を続けていた緊張を解いた。
リョウは大きく息を吐き、少し熱を帯びるのを感じた。
だが、それは痛みではなく、心地よい「生きている証」だった。
へたり込んでいる実行役の三人に視線を向ける。
彼らの顔には恐怖ではなく、解放の色が浮かんでいた。
「さて。約束通り警察を呼ぼう。お前らは“自首”扱いだ。リストの出どころ、脅された内容、全部洗いざらい吐けば、情状酌量の余地はある」
中年男《D》が深々と頭を下げ、あとの二人も涙を流して頷いた。
彼らもまた、戻れない道を転がり落ちる恐怖から解放されたのだ。
遠くから、サイレンの音が近づいてくる。
最初はかすかな重低音だったが、次第に胸に響き、窓ガラスを微かに震わせる。
それは無力な事後処理の合図ではなく、ようやく訪れた“解決”へのファンファーレだった。
リョウはカーテンを少し開け、東の空が白み始めているのを確認する。
夜の青と朝の橙が混じり合い、再生の色を描いていた。
「さてと……。久々に、記事でも書くかな」
元記者・葉山 凌。
その目には再び、決して消えない火が灯っていた。




