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アンノウン(UNKNOWN)  作者: ニート主夫
第3章

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第4話 蛇の巣の崩壊

十分後。


佐藤家のリビングは異様な静けさに包まれていた。

割れたガラスの匂い、散乱したダミー札、結束バンドで縛られた佐藤一家の“演技”。


全てが、舞台装置のように整えられていた。


リョウは業務端末を手に取り、《講師》へのビデオ通話を繋いだ。

画面には、ノイズのかかったアイコンと波形だけが表示される。


『……状況は? 随分かかったな』

ボイスチェンジャーを通した機械音声。


安全な高みの見物を決め込む、傲慢な響き。


「手間取らせやがって。だが、制圧完了しました」

リョウは答え、カメラのアングルを動かす。


画面には、手足を結束バンドで縛られ、床に転がる佐藤一家の姿

もちろん、すべて緩く巻いただけの演技。


そして散乱した万札、通販で購入した映画撮影用のダミー札。


『……よし。でかした。すぐに金を持って車に戻れ。受け渡し場所は追って指示する』


《講師》の声に、僅かな安堵と欲の色が混じる。


「なあ、講師さんよ」

リョウはふと、口調を変えた。


敬語を捨て、地を這うような低い声で呼びかける。


『……あ? なんだその口の利き方は』


リョウはスマホのカメラをインカメラに切り替えた。

画面いっぱいに、リョウの凄みのある顔が大写しになる。


彼は画面の向こうの《講師》に向かって、ニヤリと笑った。


「よう。何年ぶりだ?、“スネーク”」


そのあだ名が出た瞬間、向こう側の呼吸が止まった気配がした。


『な……誰だ、お前』


「忘れたか? オレオレ詐欺の拠点を潰された時、お前が屋上から突き落として重傷を負わせた記者だよ」


リョウの古傷が疼く。


実行犯は逃亡し、記事を未解決事件で終らせてしまった。

その因縁の相手の声紋を、葉山は忘れていなかった。


『葉山……か!?』


『おい! 現場はどうなっている! C、D! 葉山を殺せ! そいつの頭をかち割れ!』


スピーカーから《講師》の絶叫が響く。


だが、リビングにいる誰も動かない。

実行犯だった三人は、部屋の隅で佐藤一家と共に息を潜めている。


「残念だったな。お前の駒は、全員俺が貰ったよ。今、彼らは自分がいかに脅されて犯行に及んだか、俺のボイスレコーダーに告白している最中だ」


『ふ、ふざけるな! そいつらの親の住所も全部握ってるんだぞ! 火をつけてやる!』


「それも無理だ。今、この会話……お前のその脅し文句も含めて、全世界に配信中だからな」


リョウが指を鳴らす。


佐藤が震える手でリモコンを操作し、リビングの大型テレビをつけた。


映し出されていたのは、大手動画サイトのライブ配信画面。

画面は二分割されており、半分は現在のこのリビングの様子。


そしてもう半分には――。


東京湾を望む、高級タワーマンションの一室で、パソコンの前で狼狽する男の後ろ姿が映っていた。


観葉植物が倒れ、コーヒーカップが床に散乱する。

安全圏の象徴だった部屋が、一瞬にして「晒しの舞台」へと変わっていた。


『なっ……!? な、なんだこれは!!』


俺の友達(UNDERLINE)は仕事が早くてね。お前が使ってるIP、さっきの通信で全部割れてんだ。マンションの防犯カメラにもハッキング済みだ」


画面上のコメント欄は、凄まじい勢いで流れていた。

《これニュースでやってた強盗団のボス?》


《場所特定。港区芝浦のタワマンだ》


《警察に通報した》


《今の『火をつける』って発言、脅迫罪の証拠ゲット》


安全圏という名の温室でコーヒーを啜っていた男が、一瞬にして数万人の監視の目に晒される恐怖。


テレビ画面の中で、男が慌てて立ち上がり、カーテンを閉めようとして椅子につまずく無様な姿が映し出された。


『やめろ! 消せ! 配信を切れェェェ!!』

プライドも余裕も剥ぎ取られた男の悲鳴。


「“無限ループの犯罪”を終わらせるには、元を断つしかない」

リョウは静かに、しかし断罪するように言った。


「怯えて待ってろ。警察がドアを蹴破るのが先か、お前に恨みを持つかつての“駒”たちが押しかけるのが先か……早い者勝ちだ」


言い終えると同時に、リョウは手にしていた業務端末を床に放り投げた。


右足で踏みつけ、全体重をかける。


バキッ、という乾いた音と共に液晶が砕け散り、通信は途絶えた。


リビングには再び静寂が訪れた。だが、それは恐怖ではなく、終焉の静けさだった。

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