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アンノウン(UNKNOWN)  作者: ニート主夫
第3章

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第1話 闇夜の車列

決行の日はすぐに来た。 午前二時。


幹線道路沿いの、大型トラックの陰になるコインパーキング。

街灯の光は届かず、夜の湿気がアスファルトにまとわりついている。


指定された場所には、黒塗りのハイエースが一台停まっていた。

ナンバープレートは泥で汚され、判読不能に近い。


リョウが運転席のドアを開けると、えた臭いが鼻をついた。

安タバコと男たちの体臭、そして強烈な“恐怖”の臭いだ。


「遅えぞ、ドライバー」 助手席には、顔面蒼白の中年男が座っていた。


後部座席には金髪の若者と、うなだれた様子の小男。全員、初対面だ。


これが「バイト」の実態。お互いの素性を知らされず、その場限りの捨て駒として集められた素人集団。


リョウは無言で運転席に乗り込む、中年男がダッシュボードの上に置かれた箱をあごでしゃくった。

「スマホ、電源切って入れろってよ」


それは募集時の条件だった。個人のスマホを没収され、代わりにGPS付きの“業務端末”が一台だけ支給される。


その時、業務端末が不気味な通知音を上げた。

『ピロン♪』 秘匿メッセージアプリ《シグナル》の画面が光る。


《講師》:『全員揃ったな。これより作戦を開始する』

《講師》:『目的地到着まで会話厳禁。相互の詮索禁止』

《講師》:『逃げたら、事前に提出させた身分証の実家に火をつける。

お前らの家族がどうなるか、分かってるな?』


車内の空気が一瞬で凍りついた。


「う、うっぷ……」 後部座席の若者――《C》が口元を押さえ、窓の外に向かって嗚咽を漏らした。

極度の緊張から来る吐き気だ。


助手席の中年男《D》は、震える手で何かブツブツと祈るように呟いている。


もう一人の小男《E》も、虚ろな目で宙を見つめていた。


衣擦れの音すら銃声のように響く。

呼吸は乱れ、窓ガラスに映る顔は青白く歪んでいた。

沈黙の中で、恐怖が物質のように車内を満たしていく。


リョウはハンドルを握りながら冷徹に分析した。


彼らは凶悪なプロではない。借金や生活苦につけ込まれ、個人情報を握られ、

「やらなければ自分が終わる」という恐怖だけで動かされているだけだ。


だからこそ厄介でもある。パニックになった人間は何をするか分からない。

恐怖に追い詰められた人間ほど予測不能で危険な存在はない。


リョウは一瞬、記者時代の記憶を思い出した。

バイトに駆り出される若者の特集記事。彼らは「犯罪者」ではなく「搾取される側」でもあった。


だが今は、その弱者が自分の仲間として隣に座っている。

彼らの恐怖を利用しなければならない。


業務端末が再び震えた。

《講師》:『目的地は世田谷区・佐藤邸。到着後は指示に従え』


助手席の中年男《D》が小さく呻いた。

「……家族がいるんだろうな」 その声は祈りにも呪いにも聞こえた。


リョウはアクセルを踏み込んだ。

ハイエースが滑るように夜の闇へ走り出す。

幹線道路の街灯が後方に流れ、窓の外には暗闇だけが広がっていた。


目指すは佐藤家。

彼らが“狩り場”だと思い込んでいる場所。

だが、そこは“処刑場”――リョウが仕掛けた罠だった。

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