第6章 春の帰り道、ひとりじゃない
春。
また新学期が始まった。
私は2年生になった。
通い慣れたはずの通学路が、少しだけ遠く感じる。
桜の花びらが制服の肩にひらりと落ちた。
学校の帰り道。
私は、ひとりで歩いていた。
前は、あの角でミっちゃんと合流した。
信号の手前で、たまに並んで歩いた。
いま、その場所を通っても、
もうそこに“待っている誰か”はいない。
でも、私は立ち止まらなかった。
ゆっくりと歩き続けた。
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ポケットの中のスマホが振動した。
画面には、誰からでもないリマインダーが表示されていた。
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「今日も、気をつけて帰ること」
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ミっちゃんが最後に送ってくれたLINEを、
私はアーカイブから取り出して、毎日リマインダーに登録していた。
最初は意味なんてないと思っていたけど、
それがあるだけで、少しだけ強くなれる気がした。
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家に着いて、玄関の前で靴を脱ぐとき、
ふと空を見上げた。
雲はすっかり流れて、澄んだ青が広がっていた。
私はそっと、右手を胸の高さまで上げた。
そして──グッドサインをつくった。
誰にも見られてない。
でも、それでよかった。
それで、すべてが、ちゃんとあったことになる気がした。
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「……ただいま、お姉ちゃん」
終わりです。
でも始まるんですね。
これからもシズはミっちゃんの気遣い、優しさを忘れないことでしょう。
それが思い出。