第4章 別れの予兆
朝、学校に行こうとすると、ミっちゃんがいなかった。
玄関に制服の上着がかかっている。
靴も、昨日と同じ位置のままだった。
「お姉ちゃん、今日休み?」
お母さんに聞くと、洗い物の手を止めて、小さくうなずいた。
「ちょっとね、疲れてるみたい。学校も休ませたの」
私は「ふーん」とだけ言って、リュックを背負った。
「いってきます」
「いってらっしゃい。……シズ、帰りに寄り道しないでね」
その言い方が、いつもより少しだけ強かった気がした。
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放課後、部活を終えて帰る途中。
ふとスマホを見ると、ミっちゃんからのLINEが届いていた。
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ミっちゃん:
「ごめんね、今朝バタバタしてて見送れなかった」
「体調ちょっと悪かっただけ。すぐ治ると思う」
「今日の晩ごはん、ちゃんと食べてね」
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私はメッセージを既読にして、
「うん」とだけ返した。
その後に、グッドサインのスタンプも添えて。
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家に帰ると、ミっちゃんは自室にいた。
部屋のドアは閉まっていて、灯りの漏れもない。
ノックしても返事がなかったから、そのままにしておいた。
リビングに行くと、テーブルの上に小さなメモがあった。
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《冷蔵庫:左上のタッパー、シズの大好物入ってます!
ごはん炊いてあるから、好きなタイミングで食べてね。
──ミっちゃん》
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私は鼻をすすって笑った。
「病人のくせに気ぃ回しすぎでしょ……」
でもその時、ちょっとだけ胸がざわついた。
なんで、こんなに丁寧に書いてあるんだろう。
なんで、「大好物」なんて言い方するんだろう。
なんで、最後に“ミっちゃん”って名前を書いてるんだろう──
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翌朝、ミっちゃんの部屋の扉は開いたままだった。
ベッドにはいない。
机の上に、畳まれた制服と通学カバンだけが置いてあった。
「……え、行ったの?」
お母さんに聞くと、
「……病院よ」
小さく、それだけ言われた。
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私は、それ以上なにも聞けなかった。