表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の転生特典としてリセマラを繰り返した結果、最も楽な人生を送れるキャラに転生した……はずだった  作者: コータ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/51

約束

「ごめんね。道が分からなくなっちゃって。迷惑だったよね?」


 レオナは気まずそうに、何度も道中でアトラスに謝っていた。


「気にするな。俺もまだまだ迷う。話は変わるが、今日の演劇は素晴らしかった」

「あ、やっぱりあなただったの。もしかして……って思ってたんだけど」


 劇場出口の挨拶のことを、レオナはふと思い出す。何千という人と挨拶を交わした中で、なぜかふとアトラスが気になっていた。


「歌は昔からやっているのか」

「うん。ずっと昔から」


 この時、なぜか彼女が話したくないものに触れた気がして、アトラスは続けて質問をするのをやめた。


 レオナは芸術科の生徒であり、恐らく幼少から歌や演技を練習しているはず。だから、必ずしも楽しい思い出ばかりではないはず、と彼は推測した。


 そして花が咲き誇る道の真ん中で足を止め、夜空を見つめていた。


「ここでも、ちゃんと星は見えるんだね。都会だっていうから、もう無理かもしれないって思ってたの」

「星が好きか?」

「うん。あなたは?」

「俺もだ。窮屈な時に見るのが良い」

「あ、分かるかも!」

「夏になるともっと良いものが見れるぞ」

「そうなんだ。夏までいられるといいな」

「ん?」

「ううん、なんでもない」


 ふと気になる一言が出たところで、彼女は苦笑いしつつ手を振る。


「ここで大丈夫。ありがとう」

「ああ、じゃあな」


 そう言って二人は別れた。アトラスはそのまま帰って行ったが、レオナは一度立ち止まり、静かに振り返る。


(あの人……)


 何か不思議な感覚がする、そう彼女は気になっていた。


 アトラスもまた、レオナが変わっていると思う。入学式の時も、劇の最中も、そして今会った時も。彼女はずっと、心ここにあらずという風に映るのだ。


(何かをずっと気にかけているようだな。まあ、俺が考えたところでしょうがないが)


 二人はまた、それぞれの日常に帰っていく。交わることは、もうないものかと思われた。


 ◇


 次の日、学園はいつもどおりに授業が行われ、アトラスは眠気と戦い続けていた。


 魔法学の授業はいよいよ本格的になったが、特に理解が難しいものではない。前々世では苦手だった勉学も、そう難しいものではないように思われた。


 一日の中で気が晴れるのは体育の授業くらいだが、それも力を抑えながらである。爽快な気分とまではいかない。


 それでも順調に一日は終わる。そろそろ寮に戻ろうかと考えていた頃だった。


「この後、時間ある?」


 後ろから鈴音のような声がかかる。聖女リリカだ。


「時間ならあるが、どうした?」

「少しだけ、付き合ってほしい。マーセラスも」

「うん! いいよ」


 マーセラスもまたこの時は暇であった。リリカが向かった先は、学園内にある教会で、いつもどおりに穏やかな時間が流れているように見える。


「今日は二人に、星を見せたい」

「星って、どういうこと?」


 剣聖になるはずの男には、彼女の言葉が飲み込めなかった。アトラスもまた同じだったが、湧き上がってくる何かを感じている。


 教会には今、シスターを除いては三人しかいない。リリカは祭壇の手前まで歩みを進めると、跪いて祈りを捧げた。


 すると、いつの間にか教会の中が薄暗くなっていき、やがて本当に真っ暗になった。


「うわ? こ、これって」


 マーセラスが驚いていると、天井付近にいくつもの星が煌めき始める。それらは星座とは違う並びとなっていて、星によって明らかに大きさや色が異なっていた。


「あの一際大きな星は、なんだ?」


 アトラスは星々の輝きに魅せられている一方で、どうしても無視できぬ異物を見つける。


 それは赤くおどろおどろしい星であり、何か蠢いているような動きであった。やがて星の輝きが全て消え、教会内が明るさを取り戻していた。リリカが祈りをやめたのだ。


「魔の星。あれは私達の敵。そして、今急速に大きくなってる。運命が、歪に変えられている」

「運命が? え、それってどういうこと?」


 振り返ったリリカの表情に曇りが見える。想定していなかった何かに、明らかに脅威を感じていた。


「もうすぐ魔物が来る。それしか今は分からない」

「その魔物とやらは、厄介なのか?」

「あの大きさからすると、滅びの道もある」

「ほ、滅びの道だって!?」


 冷静に話を聞くアトラスとは対照的に、マーセラスは驚きで声を上げてしまう。


「グロウアスの大神父たちにも連絡する。もしものことがあったら、二人にも手伝ってほしい」

「よく分からないよ。でも……」

「俺たちはこれがあるからな」


 アトラスは腰に下げた白いナイフを、ちらと見せた。


「わ、分かった!」

「やるしかないな」

「二人とも、ありがとう」


 この世が魔物や有害な何かに襲われた時、聖女は人々を守るために動かなくてはならない。


 そして白き聖なるナイフを持つ者は、必ず聖女を守護しなくてはならない。


 アトラスはその約束を破るつもりはなかった。だが、ふと邪な考えが頭を過った。


「しかし学園での守りが薄いのは、よろしくないな。もう少し人手が必要だ」

「え……」


 聖女が珍しく首を傾げる仕草を見せる。


「またな」

「え、ちょっと待ってくれ! アトラス」


 マーセラスに呼び止められても、彼は手を振って応えるのみだった。


 ◇


「え? 俺に聖女を守ってほしい??」


 戦闘学科の教室にいたノアを、とりあえず裏庭まで引っ張ってきて、アトラスは事の次第を説明した。


 あまりに荒唐無稽な話であり、実際には何も事件が起こっていないので、こういった事を話せる者は限られる。


 聖女の予言については、盲目的に信じてくれる者と、恐らくはありそうだが信じられない、という二つに分かれることがほとんどであった。ちなみに、全く信じないと言うのはごく少数派である。


 学園も教会派と非教会派がおり、現実的な問題が生じるまでは教師たちも動かないだろう。しかし、アトラスは何かが起こってからでは遅いと考えている。


 ノアは素直に話を聞いてはくれたものの、やはり半信半疑であった。


「聖女の予言は、いつだって当たっている。しかも今回は、あまりに急だ」

「でもー、流石にそれはないんじゃない?」

「俺もそう信じたい。リリカの予言は確実ではないが、可能性が高い。だからお前に頼みたい」


 明らかに自分を必要としてくれている。そんな意図が明確に伝わってきた時、ノアは少しだけ様子がおかしくなった。


「ん……んー。そっかー、そこまで言うなら、いいかも」

「そうか。助かる。では——」

「あ、でも!」


 話が決まった、と思った時だった。ノアは慌ててアトラスを引き留めた。


「じゃあさ、一つだけ条件があるんだけど」

「なんだ?」

「王の日に、俺と外に遊びに行こうよ。それが条件」


 王の日、と言うのは毎週やってくる休みの曜日である。最近になって名前が変わった曜日名であり、アトラスが前々世で過ごした日本でいえば、日曜日にあたるもの。


 なんだそんなことか、とアトラスはほっとした。


「いいだろう」

「ほんと? やった! じゃあ楽しみにしてるね。絶対だからね!」


 軽やかな足で、ノアは走り去っていった。アトラスはそんな彼女の意図がよく分からなかったが、とにかく同意を得られたことに安堵していた。


(今回の事をきっかけにして、このナイフをノアに譲ることができるかもしれん)


 などという企みをしているとは、誰にも話さなかった。


 しかし、悪いことは考えないほうが良いもの。その日の夜までは、彼は呑気な気分でいられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ