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二度目の転生特典としてリセマラを繰り返した結果、最も楽な人生を送れるキャラに転生した……はずだった  作者: コータ


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家族とのひととき

 それからしばらくの間、アトラスは平穏な日々を過ごすことができた。


 同じクラスの生徒達とも徐々に交流しており、リリカやマーセラスとは以前よりも付き合いが多くなっていた。


 また、ノアも時々クラスにやってきてはアトラスを闘技場に誘ってくる。


 リリカは一見すると何においても興味を示していなかったが、ノアのことは不思議と気にかけていた。


「あの人、今日も来た」

「ああ、物好きな奴だろ」

「仲が良いのね。まるで男の子みたい」

「そうだ。実は再会するまでは男だと勘違いしていたが。そういう気性の奴でな」

「……」


 普段は人形のように無表情な彼女が、なぜノアのことを気にするのか不思議だったが、彼はあまり気にしていられなかった。


 どちらかといえば、一番気にしているのは王子のことである。闘技場での一件が終わってからというもの、不自然なほど気にしている様子がない。


 レグナスは順調に学園での地位を築いているようだった。クラスでも友人が増えており、教師達からの信頼も厚い。


 どうやら生徒会からも誘われているようだが、入るかどうかは保留としているらしい。


 アトラスからすれば、彼が部屋に帰ってくる時間が日によって違うので、そこだけがどうも落ち着かなかった。


(それも最初のうちだけだ。じきに慣れるだろう)


 この時期、生徒達は皆学園の日常に早く溶け込もうとする。自分もきっとそうなのだとアトラスも思っていた。


 ただ、もしかしたら彼は本能的に気づいていたのかもしれない。マーセラスが剣聖として未だに目覚めていない今、黒い脅威が膨らみつつあることに。


 ◇


 初めて学園の休みとなり、彼は夕方にある場所へと向かった。


 噴水や色とりどりの花が並ぶ公園で待っていると、お馴染みの顔ぶれがこちらに手を振ってくる。


 両親と弟であった。今日はたまの休みに、久しぶりに家族で会って劇でも鑑賞しようという話になっていたのである。


 パンフレットには、ルーサー演劇団という名前が書かれていた。


「おお! 制服が随分と似合ってきたのではないか」

「まあ。男前になってきたわね」

「まだまだ、制服に着られていますよ」


 父シェイドと母マリアンヌには、息子が僅かな日々でも成長したように映る。


「今日の公演には、どうやら兄上の同級生が出演されるのですよね? レオナさんっていう」

「ああ、そうらしいな。入学式でも挨拶をしていた」

「ええ、本当に綺麗な人で。どうしてもまた拝見したいと思っていました」

「まったく。お前はませているからな」


 イルは落ち着いた成長をしたように見えて、まだまだ好奇心旺盛な子供の面影を残している。


「私もそういう歳ですから。では参りましょう。劇の時間はもうすぐです」


 水魔法も相当な上達をしており、魔導書も遠方から買い取っているほどである。着実な成長をする弟を見て、兄は嬉しくなった。


(俺が楽をできる道は、確実に進んでいるな)


 無論、弟が成長しているということも純粋に嬉しいが、次期当主問題が解決に向かっていることはさらに喜ばしい。


 他の貴族達が聞いたら呆れるに違いない想像を膨らませながら、アトラスは劇場へと足を踏み入れた。


(それにしても大きい。このような劇場とは思わなかった)


 ちょっとした映画館ほどのサイズを想像したアトラスであったが、予想は大きく外れた。数千人は余裕で入れるほど巨大な場である。


 しかも、席と席の間には十分な余裕がある。前々世では考えられないほど、ゆったりとした配置になっていた。


「今日は有力な貴族達も多数来ておる。劇が終わったら挨拶まわりに行くぞ」


 父の一言に、長男は苦笑した。貴族である以上、他の貴族達との交流は重要であり、怠ることは許されない。


 やはり面倒だな、と彼がしみじみ思っているとステージの幕が上がった。


 暗い世界の中心に立っているのは、長い金髪の少女。灯りに照らされると、彼女は不幸な役を演じ始めた。


 身分違いの男に恋をする姫。そんな役柄である。続いて彼女と相思相愛である、身なりが貧しい男がやってくる。


 しかし二人が結ばれることを、国王は許さず強引に引き離されてしまう。


 劇について知見が浅いアトラスでさえ、どこかで見たような物語である。だが、演じている役者の技量が素晴らしく、不思議と退屈する時がない。


 また、劇の途中で入る歌が、なんとも聴き心地が良いのである。特に主演を務めるレオナは、誰もが忘れることができないほど、声だけで心を揺さぶってくる。


 母親は物語の中盤で、すでにハンカチで涙を拭いていた。父は「うん、うん」と強くうなづきながら物語を見守っている。


 弟はといえば、「レオナさん……素敵だ」などと呟いていた。

(まったく、劇の内容は頭に入っていないようだな)


 弟はどうやら、相当レオナが気になってしょうがないらしい。サイン色紙の用意までしている。


 劇の時間はあっという間に過ぎていき、気がつけば終幕となった。


 ◇


 劇が終わってからというもの、ロージアン家は他貴族への挨拶で右に左に大忙しであった。


 仕方なくついていく長男であったが、すでに早く帰りたい気持ちでいっぱいである。


 ようやく全てが終わり、劇場から出て行こうとすると、出口付近で出演者達が見送りを行なっていた。


「ああ! 兄上、レオナさんがあそこに!」

「ああ。サインを忘れないようにな」


 興奮気味のイルとは対照的に、アトラスはもう疲れていた。それでも嫌そうな顔は見せず、淡々と挨拶をしながらすれ違っていく。


 この時、彼は初めてレオナとすぐ近くですれ違った。


「とても楽しかった。ありがとう」

「ありがとうございまし……た……?」


 淡々と挨拶を交わした時、レオナはなぜか奇妙な反応をした。しかしアトラスもまた、普通にしていたが違和感を覚えている。


(武器を隠し持っているな。女だけではない。この劇団員は全員、相当な腕がある)


 一人一人とすれ違う度、劇団員達が普通ではないことに気づく。彼ら彼女らからは、前世で感じた戦いに慣れた人間の匂いがした。


 もしかしたら、向こうも同じものを感じたかもしれない、とアトラスは思った。特にレオナからは、明確にこちらを気にする反応がある。


「ルーサー演劇団とは、随分人気があるのだな」


 それとなくアトラスは、イルに劇団の話題を振ってみる。


「ええ。勿論です。大陸で最も人気のある劇団ですからね。しかも劇によっては、本物さながらの殺陣まで披露するんです。きっと実際に魔物と戦っても勝てると思いますよ」

「そうか。頼もしいな」


 実戦でも間違いなく強いだろう、とアトラスは心の中で同意する。しかしその後は考えなかった。


 劇場の出口付近から、何やら派手な格好をした男が現れたからである。

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