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二度目の転生特典としてリセマラを繰り返した結果、最も楽な人生を送れるキャラに転生した……はずだった  作者: コータ


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運命の星

「ギアアアア!」


 絶叫する女を横目に、彼は小舟に飛び乗ると、転がされている少年の様子を見る。


「無事なようだな。お前、一体誰に指示されてこんな真似をした?」

「ぐ……何者だ、このガキ」

「答える気はないか」


 そう易々と答えるつもりはないことは明らかだった。少年はマーセラスを縛る縄を切り、横たわらせると、怠そうに女に迫る。


「その槍は、易々とは抜けない。俺ではなくてはな。しかし残念だ。お前が協力的ではないのなら、俺も助けるつもりにはなれない」

「こ、このあたしに……ガキの助けなんているか!」

「聞こえないか?」


 顎で通路の奥を指し示す。何か騒がしい音が聞こえてくる。


「ここに来るまでに、助けを呼んであるんだ。後少ししたら到着するだろう。憲兵達はお前を見つけたら、どうするのだろうな。加えて、人の死体まで転がっている」

「く……」

「マーセラスを誘拐するよう指示しているのは誰だ?」

「………」


 誰かの声が聞こえてくる。それは徐々に大きくなってきた。もし憲兵達に捕まったら、生きて帰ることはできない。


 女マーマンは焦っていた。アトラスはため息をひとつ残すと、マーセラスを担いで背を向ける。


「ま、待って! 言う、言うから! これさっさと抜いて!」


 彼がもう一度振り返った時、蒼白な顔で女は話を続ける。


「あたしだって、こんな命令は聞きたくなかったのさ。でも逆らえっこない。なんたって奴は、あたしらの王なんだからね。その名も——」


 しかし、彼女が口を聞けたのはそこまで。


「う……うぅううう! あああああ」


 魔物の額に歪な文字が浮かび上がり、そのまま体を蝕んでいくのが目に見えて分かる。


「……これは、口止めか」


 呪術の一種だ、とアトラスはすぐに理解した。口にしてはならないことを口にした時、内包されていた呪いが外に吹き出し、体を滅ぼしてしまう禁断の術。


 彼は前世で同じ術を見た記憶がある。しかし、よほど抜けた性格でなければ防げるものであり、二匹の魔物に呆れるばかりだった。


 泡を拭きながら女マーマンは絶命した。憲兵を連れたリリカがやってきたのは、その後すぐのことだった。


 ◇


 この事件は大きな波紋を呼んだが、結局のところは魔物同士の仲間割れということで落ち着いた。


 アトラスもまた、攫われそうになったと子供らしい演技をすることで、これまでどおりの日常を維持しようと努めていた。


 まさかこの少年が、二匹の魔物を圧倒したなどとは誰も信じない。


 少しして、シェイドとマリアンヌが顔面蒼白で現場にやってきた。二人を見つけるなり、すぐに駆け寄り抱きしめる姿を、遠くからリリカが穏やかな顔で見つめている。


 現地民ですら知られていない通路での事件で、周囲は野次馬で溢れ返っていた。


 そして憲兵達の事情聴取も終わり、ようやく解放されたアトラスは、宿までの迎えの馬車に乗り込もうとしていた。その時、ふと小走りでリリカがやってきたのだ。


「アトラス。貴方にこれをあげる」

「ん。なんだこれは?」

「せめてものお礼」

「大したことはしていないが」

「ううん。なんとなく、分かる」

「何がだ?」

「魔物を倒したのは、貴方」


 渡されたそれは、白い鞘におさめられたナイフだ。よくわからず首を傾げる少年に、少女は微笑む。


 リリカは予知能力だけではなく、強い直感の持ち主でもある。大人から質問を受け続ける少年を見るうちに、魔物を倒したのが誰であるかを知ってしまった。


 しかし、アトラスからすれば、認めるのは面倒なことこの上ない。あくまで白を切るつもりでいる。


「誤解をされているようだが」

「受け取って」

「まあ、誤解でもいいなら受け取っておこう」

「貴方の運命の星は、大きく膨らんでる。マーセラスと同じくらいに」

「なに?」

「……ありがとう。それと、また」


 リリカの微笑は、いつの間にか弾けんばかりの笑顔に変わり、爽やかな香りを残して去っていった。


(運命の星など、俺にとっては不要だ)


 そう思い馬車のドアを開けると、興味津々なイルが食い入るように見つめていたことに気づく。


「リリカお姉ちゃんって、もしかして!」

「どうした?」

「ううん、なんでもない!」


 ニヤニヤする弟に、兄は首を傾げるばかりだ。両親は安心して疲れたのか、もう馬車の中で眠りかけていた。


「あーあ。でも僕、なんで急に気を失っちゃったのかなぁ。魔法なんて使ってないのに」

「あんな怖い魔物を見たら、誰だって気絶するさ。俺も怖かった」

「お兄ちゃんも!? でも、なんか平気そうな感じだけど」

「虚勢を張れるのも、当主には必要だぞ。つまりお前は覚えるべき技だな」

「えー、お兄ちゃんが当主になるんでしょ」

「俺には合わない」


 二人は変わった跡取りである。本来貴族の家を継ぐ者達は、我こそは次期当主だと争うのだが、この二人はまったく逆であった。


 とにかく長い一日はようやく終わり、魔物達の暗躍は失敗に終わった。


 しかし、一つだけ大きく運命を狂わせる事態が起きていることに、誰も気づいてはいない。


 本来なら、この事件によりマーセラスは剣聖の力を覚醒させるはずだったのだ。

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