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魔道大国日本、異世界へ  作者: 輪舞曲
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第五話 異世界への旅立ち2

あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いいたします。



 魔法歴2040年6月

 大日本帝国樺太島から遥か北西

 上空約2500M



 水色の空を、一糸乱れぬ鉄塊の軍団が進んでいく。大日本帝国空軍所属『第伍航空魔導艦隊』の航空艦計32隻は、使節団を伴って『A大陸』へと時速約60kmで直行していた。



「報告には聞いていたが、中国大陸が存在しない。我々は本当に、異世界にやって来たのだな」



 黒と白で彩られた『第伍航空魔導艦隊』の旗艦『鳳凰』の中央部の先端、その歪曲部の前面がほぼ180度ガラス張りになっている司令室で、艦隊司令官である北野 幸雄空軍中将は眼下に延々と広がる層雲の群れと青い海を収めながらそう呟く。



 瑞禮級航空戦艦の三番艦である『鳳凰』は、その500M弱という圧倒的に巨大な全長と、種々の強力な兵装を誇る。前面は中央の司令室がガラス張りになっており、上部には海上艦と同じく甲板も存在するが、飛行する高度から滅多に人が出ることはない。下部は、これもまた海上艦と同様に湾曲しているが、海上艦のようなスクリューは付随していない。また航空艦である一方、航空機と違って一切の翼の類も付随しておらず、まるで海上艦をそのまま空に浮かべたようであった。


 それを可能にしたのが、1917年にドイツのグディマンらが開発した『飛行機関(フルーク・モトーア)』である。実は、既に1899年にイギリスのグライストによって航空機は開発されていたが、即時の航空艦の実現には至らなかった。航空機と航空艦では飛行させる質量がまるで違ったため、より莫大な魔力を消費するのだが、それを留める魔鉱石が存在せず、必然大きな魔鉱石が試用されたが、魔力の補給の関係からごく一時的な飛行は可能であったが、一定時間以上の飛行は不可能であった。そして、魔鉱石を大きくすればするほど、飛ばせる質量も増えるが、必然的に必要な魔力も増大するということで、コスト面からその路線は打ち切られた。


 そこで、グディマンは当時研究段階であった航空機の魔鉱石に、大気中の魔素を取り込ませ、飛行時間を伸ばすというアイデアを航空艦にも採用した。実は、空中に含まれる魔素は上空の方が多い。そのことが分かっていたため、特殊な方法で魔素の取り込みに特化するよう加工された魔鉱石と、それを覆うように取り付けられた、魔素の取り込みを助ける魔術式、魔法陣が十分に書き込まれた『覆助装置』と呼ばれる補助装置を使うことで、初めて航空艦の実現に成功した。


 現在の飛行機関はより効率化され、はるかに馬力も性能も向上しているが、空飛ぶ船、確かにその第一歩を踏み出した人物として、グディマンは記憶されている。



 巨大なガラスから外に目をやれば、まるで白地のキャンパスに青い絵の具をバケツからたっぷりとぶちまけたかのように、全体的な青色の合間を縫うように白い層雲が群れを成して漂っている。



「ええ、そうですなぁ。しかし、異世界と言えども海は青く、雲は白いものだとは、しみじみとしたものがあります」



 穏やかな声が、北野の後ろから投げかけられた。その声の主は、『鳳凰』の艦長を務める大塚 高昌空軍大佐である。


 彼はすでに退役間近の老軍人であるが、最後の奉公としてこの任務に就いている。それはまた、艦隊司令である北野中将の望んだことでもあった。



「全くだ。空気の成分も殆ど我々のいた地球のものと同じらしい。何とも不思議な星よな」


「海水の成分も地球と同様のものだったようで、我らも食べることのできる魚も棲息していると聞きましたぞ」


「ああ、それは俺も聞いた。見た目が相当エゲツないという話もな」



 そんな北野司令の言葉に艦内に微かに笑い声が広がる。その時、彼らのもとにとある男が歩み寄って来た。



「む、これはこれは大使殿。空の旅はいかがですか───と、聞くまでもなさそうですな」



 大塚艦長が振り返りそう声をかけたのは、小太りの眼鏡をかけた50代ほどに見える大使とよばれたその男こそ、今回の外交使節の正使である、外務省新世界局の局長である長田(おさだ) 広その人である。彼は元は『北米局』の局長であったが、転移後は『新世界局』へと転属されていた。


 大使は御堂北家家閑院流加茂氏の流れを汲む名門長田氏の分家出身で、長田宗家の当主で厚生大臣でもある長田 岱三(たいぞう)侯爵は、大使にとって父方は戦国時代中期に別れた遠縁だが、母方では再従兄にあたる。


 彼は明らかに顔色が悪そうにしていた。足取りもどこか覚束ない様子である。大塚艦長の発言の意図は、彼が航空艦で船酔いでもしたのか、と思っての発言である。


 しかし長田大使が航空艦に乗り慣れていないかと言えばそうではなく、というより寧ろ旧世界でも外交官として幾度も乗船経験はあり、彼にとっては本来慣れたもののはずだった。が。



「いえ、飛行艦に乗ること自体は慣れたものなのですが、ぅぷ………その、何せ言語が通じるかも不明な相手との交渉ですから、胃が……うっぷ!」



 言いながら、長田大使は胃と口元を抑える。慌てて大塚艦長が大使に歩み寄って背中をさする。ただし、彼がいつ吐いても大丈夫なように警戒はしながら。



「だ、大丈夫ですか?気分が優れないようならお部屋まで案内しますぞ?」



 長田大使は艦長のその歩み寄りを制止するように広げた右手を艦長の方へと伸ばすが、しかし。



「い、いえ…外を見ていた方が落ち着くので……一番よく外が見えるここに、とおも、うぷっ!」



 再び吐き出しそうになる長田に、周囲は慌てた様子を見せるが、よろよろと正面の巨大なガラスに寄りかかり、なんとか持ち堪えたようだった。


 「本当に大丈夫かよ…」とその場の全員が思っていると。



「先頭の飛行戦艦『来栖』から入電!!『A大陸』と思われる陸地を水平線に捉えたそうです!!」



 連絡員がそう声を張り上げる。艦隊の先頭を行くのは、武陵級航空戦艦の六番艦『来栖』であるが、この旗艦は進行方向北にして上から見上げた時、艦隊の中央やや下に位置していて、飛行艦同士で一定の距離を保っているため、先頭とそれなりの距離があった。


 そしてついに見えて来た───と言ってもこの飛行艦こらは未だ目視できてはいないが───新世界の大陸に、全員が期待と緊張、不安を混ぜ合わせたような心持ちでいた。



航空艦の開発の歴史については、「何言ってんだ?」と思われるかもしれませんが、フィーリングで読んでください笑

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