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魔道大国日本、異世界へ  作者: 輪舞曲
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第三話 新世界対策会議



 皇紀2700年(魔法暦2040年)6月。



 無機質で白く淡い光を放つ建物群が並び、それらの建物は天を衝く高さを誇る。それらの間を空飛ぶ車が飛び交い、定期列車がそれらの車両の頭上を通過していく。


 そして街の地下、地面の下にももう一つ────否、地上のそれの規模を遥かに超える大都市があった。地下の街にも地上と同様、いやそれを大きく上回る数の空飛ぶ車・列車が建物の間を飛び交う。車や列車からは全く煙が出ず、それどころか逆に空気を内部で洗浄している。


 これらは全て、この国の誇る最先端の『魔導技術』によるものである。そしてここは大日本帝国が帝都・東京。かつて日本の存在した地球の列強国の一角にして、圧倒的魔道先進国の都である。






 大日本帝国 東京都中央府 第二東京

 第一区 帝国議事堂 第一会議室



「では、これより『新世界対策会議』を始める」



 地下都市の第一区、地上に存在する国会議事堂に対して、『裏堂』と呼ばれる地下議事堂。地上が激しい攻撃を受け、地上での国会運営が難しくなった時のために設置された。 


 その会議室で、口元に髭を蓄えた堅い威厳に満ち溢れた男、大日本帝国首相 西園寺徳明(のりあき)がそう席に座っている面々に告げた。その場に集まったものたちは、国務大臣ら閣僚で、今現在この国の直面している『未曾有の事態』についての対策が主な議題となる。



「じゃ、坂倉、あれの報告を頼む」



 そう指名された坂倉という人物───内務大臣である坂倉 (はじめ)が手元の資料を持ち立ち上がる。



「我々が新世界に転移してからすでに1ヶ月半が経過しました。海軍の哨戒機による近海の調査により、判明した事実を報告させていただきます」



 そういうと、徳明の背後に設置されていた巨大なスクリーンに画像が映し出された。



「こちらの写真をご覧下さい」



 それはおそらく哨戒機から撮影されたであろう複数の空撮写真で、それらには見たことのない形の緑色の半島が写っていた。



「北海道から北西に約1000kmほどの地点に、未知の大陸が存在することが判明しました。そして、私としてはこの大陸を我が国の新世界における橋頭堡とすべく、この大陸への進出を図るべきと考えています」



 坂倉が説明を終える前から、閣僚たちは騒がしくなり始めていた。何せ転移後初めて、大陸と呼べるような巨大な陸地があると判明したのだから。


 転移後、近海にも所属不明の群島などの存在が幾らか確認されていたが、それらは全て無人であった。そのため、今回の大陸で初めての『異界人類』を確認することになるのかもしれないのだ。とは言っても、既に日本も自分たちが呼んでいる『異世界』とやらの一員である以上、この呼び方が適切かどうかは不明であるのだが。



「未知の大陸……現地に国家は存在するのか?」


「いやそもそも、この世界の人類───と言っていいのかは分からんが、とにかくこの星の住人自体我々と意思疎通が可能かも分からんぞ」



 皆驚かずにはいられない、と言った様子だったが、それ以上にやはり国の重鎮としてさまざまな観点から種々の疑問が発せられる。


 しかし、それらは首相である徳明が右手を少し挙げて顔と同じ高さで拳を握ったことで直ぐに静止された。



「まぁ皆落ち着け。説明はこれで終わりではない」


「はい、その通りです。実際に同大陸を確認した哨戒機の搭乗員からの報告や、彼らによって撮影された動画や画像を詳細に調査した結果、同大陸には人が居住しており、都市と思しき建造物群も確認されています」


「つまり、この異世界にも人による社会組織が存在する。我々はそれに接触する、ということか」



 その呟きは───呟きと言っても、独り言ちたような形で外務大臣である米沢 (あきら)の口から吐き出されたその言葉は、会議室全体に通るに十分な声量を持っていた。



「そういうことだ。晟、人選はお前に任せる」


「しかし『徳ちゃん』よぉ、現地のやつらとのコミュニケーションはどうするつもりだい?言葉が通じずに、もし彼らに敵対されでもしたら…」



 そう、この場で最年長の齢104歳にして未だ現役で副総理を務める宇田 繁晴の言葉は、この場にいる全員の持つ共通の疑問であった。


 そんな疑問に、いつになく柔らかく、そう普段の彼からすると幾分か柔らかく笑いながら、西園寺が答える。



「はは。繁晴さんの仰りたいことはわかります。ですが、それも含めて、今の日本の現状を鑑みるに、この世界の人類との接触を図るのは急務かと」


「(あの西園寺さんを『徳ちゃん』なんて呼べるのは繁晴さんだけだな……)そうですね。実際、共栄圏加盟国や海外からの食料や資源の供給が途絶えたことで、物価も上昇し始めています。そしてそれは、時が経つほど悪化していくでしょう」



 商工大臣の津山 春許も、宇田の言葉に内心で若干引きつつもそう補足する。


 彼の言う通り、食料や資源の供給の多くを共栄圏加盟国を含めた海外からの輸入に頼っていた日本は、転移後それらの国々と隔絶されたことで、供給不足に陥っていた。


 そもそも、転移後は地球と比べてこの惑星の平均気温が低いのか、或いは日本の位置が惑星の北辺寄りとなってしまったからかなのかは分からないが、日本の気候が全体的に寒冷化しており、全国的に作物の生育に大きな影響を与えていたことも大きい。



「まぁ実際、言葉が通じなかったらその時はその時さ。現状、我々は行動しなければ滅びるのみなのだから」



 やや投げやりにも聞こえるが、たしかに力の籠った西園寺の言葉をもって、その議題は締め括られた。

 



大臣関連について少しと、属州を共栄圏加盟国に変更。

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