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魔法少女は今日も仮面で素顔を隠す

作者: 下菊みこと

私は魔法少女だ。


イタイのはわかってる、でもやるしかない。


何故なら。


「ガハハハ!今日もちびっ子たちをいじめてやるぞー!がおーっ!」


「きゃー!」


「待ちなさい!正義の魔法少女、花仮面参上!」


子供達の笑顔を守るため。


…なんて夢のある話ではなく。


生活費を稼ぐため、である。


「ガハハハ!また来たな花仮面!だがお前には負けん!」


「ふん!今日もギタギタのボコボコにしてあげる!」


「頑張れー!はなかめーん!!!」


子供達の応援を背に、ライオン魔神と戦う。


最終的にはいつも、私の勝利。


なんたって魔法少女だからね。


「くそー!覚えてろ、がおーっ」


「花仮面すごーい!」


「すごーい!」


喜び私を囲む子供達。


その中に、似つかわしくない女の子が一人。


「花仮面様、今日も素敵でした!」


同じ学校に通う女の子。


一つ下の後輩、クールビューティーと噂の花梨ちゃん。


いつも一人ぼっちで、でも美人だから本当は人気者。


「いつもありがとうね!花梨ちゃん!」


「こちらこそです!いつもかっこいいです!」


「えへへ、ありがとう!」


花梨ちゃんの応援はいつも死ぬほど嬉しい。


みんなの人気者の花梨ちゃんが、私なんかに尊敬の目を向けてくれるのが幸せなのだ。


いじめられっ子で、貧乏で、ネグレクトされてて、家では同じく放置されている弟妹の面倒も見なくちゃいけない、そんな私の唯一の自信の源。


花梨ちゃん。


可愛い可愛い、私のお姫様。


「…あれ?花梨さん?」


「こんなところでなにしてるの?あ、ヒーローショーを冷やかしてたのか!」


「冷やかし?私は…」


「本当にくっだらないよねー、花梨さんもこんなの相手してないで一緒に遊びに行かない?」


「貴方達…カッコ悪いわね」


花梨ちゃんに相手にされていない取り巻き達。


けれど私は怯んで何も言えなかった。


でも、花梨ちゃんは言い返してくれた。


「私は好きでヒーローショーを見てるの。人の好きなものを冷やかして楽しいの?そちらの方が余程最低な趣味じゃない」


「え」


「あ、でも」


「高校生になっても、好きなものは好きなの。おかげさまで貴方達なんかよりずっと人生充実してるわ。これ以上花仮面様のお耳を汚さないで。しっしっ」


…情け無い。


魔法少女なのに、ファンである花梨ちゃんに庇われてしまった。


もっと、強くならなくちゃ。













「姉ちゃん、焼肉おいしいね」


「焼肉といっても、ほとんどもやし炒めなんだけどね」


「姉ちゃんが働いてくれてるおかげで肉が食べられるんだもん、文句ねーよ」


「お姉ちゃん、ありがとう!すごくおいしいよ!」


「家事しか手伝えないけど、もっと大きくなったら俺たちも働いて姉ちゃんを楽させてやるから!」


弟妹たちはいつも私を気遣ってくれる。


働いてばかりでろくに帰ってこないくせに、家の口座にはお金を入れないあの人たちの子供とは思えない。


ま、私もそうなんだけど。


「姉ちゃんは本当にかっこいいよ!」


「お姉ちゃんは私たちのヒーローだよ!」


「ありがとう、みんな」


弟妹にはヒーロー活動のことは秘密にしてる。


ヒーロー活動は普通の仕事より報酬が高いので、私たち家族はなんとか学費含め借金せず暮らせてるが…厄介なのは働き詰めなのにお金を入れない、そのくせ兄弟をポンポン増やす両親。


さすがにこれ以上無計画に子供を増やされると…いや、少子高齢化社会においてはある意味で貢献してるのかもしれないけど。


…それでも、私は諦めない。


ヒーロー活動を続けて、なんとしてでも私も弟妹たちも大学に進学して安定したところに就職する。


両親のようにはならないし、両親のようには育てない。


私と弟妹たちの未来は、私が守るのだ。















「貧乏人のくせに高校なんて無理して通って何になんの?」


「いい加減学校やめればぁ?」


学校ではいじめられる。


けど、口撃ばかりで物理的には問題ない。


だから無視して、休み時間も勉強を頑張る。


「…ちっ、貧乏人のくせに無駄に成績上げるのやめてくれない?」


「推薦枠あんたみたいな貧乏人に取られるとマジ迷惑」


迷惑だろうがなんだろうが、推薦枠はぶん取る。


推薦枠で特待生として入学してみせるんだから。


「マジこいつないわー」


「いい加減邪魔なんだけど」


無視。


勉強に集中だ。


「みんなー!聞いたー?」


「え、なになに?」


「後輩に花梨って子いるじゃん!クールビューティーとか言われてた子」


「うん、それが?」


「ヒーローショーにお熱なんだってー!高校生にもなって有り得なくね?」


あ、噂になったんだ。


そう思って、居ても立っても居られない気分になった。


「からかってやろうよ」


「いいね」


花仮面としてではなく、ただの静江としての私にはいじめなんて止められない。


そう思った。


でも、なんとなくいじめっ子たちの後を追ってしまった。


「ねえ、花梨ちゃんて実はヒーローショー好きらしいよ」


「うわぁ、ないわー」


「実は幼稚だから一人ぼっちでいるんだ」


「きもーい」


どこをとっても噂話でいっぱい。


しまいには私のいじめっ子たちに花梨ちゃんは囲まれてしまった。


「あんた綺麗な顔してるのにガキみたいな趣味してんなー」


「恥ずかしくないんでちゅかー?」


「…せっかく冷やかしに来てくれた先輩方には失礼ですが、私は恥ずかしいとは思っていません」


「はぁ?」


「好きなものは好き、その何が恥ずかしいのでしょう」


…花梨ちゃんは、いじめっ子たちにいじめられてもへこたれない。


その姿を見て私は、気付けば叫んでいた。


「むしろかっこいいよ、花梨ちゃん!」


「は?」


「え」


「何あの人」


「先輩だよな、目立たない感じの人」


人の目なんてもはや気にならない。


花梨ちゃんを応援したいと思った。


いつも、花梨ちゃんがしてくれるみたいに。


「好きなものは好きって言える花梨ちゃんはかっこいいよ!ヒーローショーを見る時目がキラキラになる花梨ちゃんは可愛いよ!周りに何を言われても自分を通す花梨ちゃんは素敵だよ!」


私の言葉に、周りが静まり返る。


「そんなことで幻滅するような、花梨ちゃんの顔しか見てない人たちよりよっぽど誠実だよ!花梨ちゃんの優しさも知ってる!ヒーローショーのあと、花仮面に必ず声をかけるけどその時いつも花仮面を喜ばせるようなことを言って…でも子供達には邪魔せず花仮面との時間を譲ってあげて…花梨ちゃんは優しい!」


「なにこいつ急に…」


「きもいんだけど」


「こら、廊下で叫ぶな」


生活指導の先生がそこで登場して、ちょっとだけ怒られた。


でも。


「だがまあ、いじめを止めるのは良いことだな…で、お前ら、人の趣味一つで噂が持ちきりって暇人か?そんなことしてる暇があったら勉強してろ」


先生の言葉にみんな気まずそうに解散した。


花梨ちゃんは、私のことをいつもと同じキラキラした目で見ていた。


…もしかしたら、ばれたかもしれない。


















「静江先輩」


「はい」


花梨ちゃんにその日の放課後呼び出された。


本格的にばれたかもしれない。


「あの…静江先輩…私…静江先輩の…」


「うん」


「…静江先輩のファンになりました!」


「…ん?」


「花仮面様が一番の推しですが、同じくらい静江先輩が好きです!」


…バレてはないが、それはそれで大変かもしれない。


















で、結局のところ。


私も花梨ちゃんも、あの騒動の後特に生活は変わらなかった。


私はヒーローショーでお金を稼ぎ、弟妹を養い育て、学校ではいじめられつつもなんとか進学に向けて色々準備している。


花梨ちゃんは相変わらず一匹狼で、美人で、陰では人気者で、趣味のことは誰も触れなくなって。


変わったことといえば、花梨ちゃんと私がお友達になったことくらい。


「ねえ静江先輩、やっぱり静江先輩も花仮面様のヒーローショー観に行きましょうよ!」


「パス」


「何故!?」


まあ、こんな日常も悪くないかな、なんて。


こうして今日も、私たちの世界は小さく小さく回っている。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました!


楽しんでいただけていれば幸いです!


静江先輩、勇気を出して良かったですね。


こんな静江先輩に愛情深く育てられた弟妹たちも、いつか誰かのヒーローになれそうですね。


きっと花梨ちゃんも、ある意味で静江先輩にとっての素敵なヒーローなのです。


ここからは宣伝になりますが、


『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』


というお話が電子書籍として発売されています。


よろしければご覧ください!

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