ざまぁをしようと思ったらヤベェやつがやってきた
深夜テンションで思いついたので書きました!
暇つぶし程度にどうぞ!
「好きです! 付き合ってください!」
「嫌よ。勘違いしないでくれない? そんな見た目のくせして私に告白とか。キモ」
高二の秋。
俺は小さい頃からずっと一緒だった幼馴染にそう言われた。
※※※
突然だが、みんなはWeb小説は読むだろうか?
そう。誰でも投稿できて、自分の好きな物語を書くことが出来るあれだ。
俺はそれが好きで、特に恋愛ものをよく読むのだが、最近、あれの中でブームがある。
そう。「ざまぁ」だ。
大抵の場合が幼馴染や彼女、妹、親友などに裏切られるか告白を酷く振られるところから始まる。そして、その人物たちはあとからそれを深く後悔するような事が起きるか、悲惨な目に合うという結末を迎える。
そして、その間、主人公は美少女とキャッキャウフフだ。
中にはこう言った物語を「作者の自己投影」「発想がキモすぎ」などということを言う者がいる。
だが俺は「ざまぁ」を読んだ時胸のすくような快感と共に思ったのだ。
俺もやってみたい!!!!
と。
唐突な自分語り乙。と思う人がいるかもしれないが聞いて欲しい。
俺はこれまで望んだことは全て成し遂げてきた。
成績で1位をとり、部活では全国1位を取り、取りたいもの、欲しいものは全て取ってきた。
父と母の才能を引き継ぎ、努力を行ってきたのだから当然だ。なるべくして俺は成っている。
だから俺は今回も手に入れるのだ。
あの快感を!
あの爽快感を!
そう!
「ざまぁ」を!!
※※※
まず俺はターゲットを決めた。
俺がざまぁをキメる相手、それは幼馴染だ。
小さい頃から一緒に育ち、俺に匹敵するまでの才能を持つ彼女は美貌と才能を褒められながら育ち、高飛車でいけ好かない女になった。
今は違う女子高へ行っているがたまに模試の点数は何点だったかの確認LINEが来る。返すと返事を返さない。ムカつく。
次に作戦を立てる。
机に向かい、ペンを走らせる。
どういうストーリーでいくか。
やはり王道のあれだ。
見た目がダメなやつが努力したら変わって、美女や知らない人などが自分のことを好きになる。そして、そんな俺を振った幼馴染は後悔する。これだ!!
そうなると目的を達成するためには、振られるような男になる必要がある。
つまり、必然的に今の俺を変える必要があるのだ!
「あら、今日も頑張ってるわねぇ」
「こら、邪魔をしちゃだめだ。母さん」
「えぇ、今度は何を取ろうとしてるのか気にならない?」
「何だってとるさ。俺たちの息子だろ?」
父と母が部屋の外でイチャイチャし始めたが関係ない。
俺は俺のやるべきことをするだけだ!
深夜2:00
「できたぁ!!」
作戦を書いた紙を掲げる。
行うべきことを全て書き出し、全てに順番を付けた。
うむ。我ながら完璧だ。
俺はその出来に満足し、明日から実行に起こすことを決め、布団に入った。
翌日。
俺は作戦を実行する。
「あ! おはよう! ゆき!」
「ああ、おはよう。かな」
「いや〜、今日もイケメ…ってどうしたのその髪…」
作戦その1。髪のセットを辞める(ただし寝癖は直す)
「どうしたって、まぁ色々あってな」
「そ、そうなの…? だ、大丈夫…??」
ふっ。この動揺ぶり。俺は随分と変わって見えるらしいな。
いつもは上げている髪を下ろし、整えていた髪も一切触っていない。
作戦は完璧だ。
次!
「やっほ〜。ゆき。お昼ご飯食べに来たよ〜!」
「ああ、かな。食べようか」
「うん! 食べよ〜ってデカ!」
俺は重箱をカバンから取り出した。
これを入れるために今日の授業の教科書とノートは全部置いてきた。
「すこし、デカくなろうと思ってな」
「へ、へぇ〜。そうなんだ…」
蓋を開けて何段もの層を広げていく。
中身は米。唐揚げ。ハンバーグ。唐揚げ。ポテチひと袋。と様々だ。
「え!? これが中身!? あまりにも不健康すぎない!?」
「いいんだ。でかくなるためだから」
作戦その2。太って脂ギッシュになる。
これが時間がかかる上に1番大変だ。何せ食わねばならない。食事が苦痛に変わるだろう。
だが! 俺は成し遂げる漢! やると言ったらやるのだ!!
「うわぁ。すごい食べっぷりだね…」
休みの日。
今日やることは簡単だ。
作戦その3。怠惰な生活を送る。だ。
怠惰な生活を送っていれば体はだらしなくなるからな!
そして家から出ないことで人と喋ることを忘れさせる!
今日はいつも5:00に起きるのを無理やり昼まで寝る。そして、ベッドの上でずっと過ごす。
食べるものはポテチ。飲み物はコーラ。昼食はハンバーガー。
そして漫画とゲームをして過ごす。
完璧だ。
「ね、ねぇあなた…。あの子何かあったのかしら…」
「大丈夫だ。あいつはやる時はやる。見ろあの必死に漫画読む顔を。何かを頑張っている最中なのだよ」
「そ、そうね!」
作戦その5。喋り方を変える。
告白の時に緊張した感じを出す練習でもある。
これは本で読んだやつを真似ることにしよう。
「あ、おはよ! ゆき!」
「あ、その、お、おはよ。かなえちゃん…」
「え、ど、どうしたの…?」
「…喋り方の練習だ。俺は今後これでいく」
「……またゆきが変なこと言い出した…」
変なこととは失礼な!!
夢のために努力している人間になんてことを!
数ヶ月後。
俺は見事に見た目が変わっていた。
髪はボサボサで全身に贅肉がついた。顔はだらしなく垂れ下がり、髪は伸ばしたのでモサモサしている。
更には見た目だけではない。周りからの評価もナイアガラの滝のように滑り落ちた。
勉強はしない、授業中は女子をガン見。テストでは赤点ばかり。これでまず先生からの評価が地に落ちた。
そして次は生徒たち。こちらは簡単だ。清潔感のない見た目をして教室で俺の趣味であるWeb小説を見ていれば勝手に引かれていく。
今も生徒は俺を遠巻きに見ながらヒソヒソとしている。
ふっ。完璧だ。
完璧に準備は整った。
俺はLIMEで幼馴染である、一条瑠璃を呼び出した。
「あ、ゆき。もう帰るの?」
「そうだ。これからちょっとな」
ちなみに喋り方はもう身についたので、かなと喋る時は戻した。
「どっか行くの? じゃ私も行くよ〜」
「ふっ。お前も見たいか。いいぞ、来い。面白いものが見れるぞ」
「えぇ〜?」
かなはそう言ってほくそ笑む俺を見てケラケラと笑った。
なぜかかなだけは俺から離れない。
他の奴らは俺の変わり様を見て離れていったのに。
…なるほど。これが真の友人。
いい。実にいい! 振られたあとはさっさと元に戻ってかなと遊びに行こう。そしてざまぁだ!
「あなたから呼び出すなんて珍しいわね?」
「そ、その…い、言いたいことがあって…」
かなも手伝ってくれた緊張した喋り方をここで発揮する。
俺の前にいるのは幼馴染。一条瑠璃。
艶のある綺麗な髪に、子鹿のような長いまつ毛にビー玉のような丸くキラリとした目。スラッと通った高い鼻は本当に日本人ですかと、疑いたくなるほどだ。
プロポーションも完璧で制服の上からでも分かる豊満な胸。対照的に締まった腹。モデルかと思うような長い足。
街を歩けば間違いなく注目を集めるような美少女だ。
「へぇ。私に言いたいことね」
「う、うん」
「何よ。言ってみなさい。この豚」
きたぁぁぁ!
見た目をバカにする言葉!
やっぱりこいつなら言うと思ったぜ!
「そ、その」
「気持ちの悪い喋り方ね。さっさとしてくれる? あなたに取っているような時間はないの」
おぉ。
いい! いい流れだ!
さぁ、行くぞ諸君!!
「好きです! 付き合ってください!」
「嫌よ。勘違いしないでくれない? そんな見た目のくせして私に告白とか。キモ」
彼女はそれだけ言うとその場を去っていく。
そして俺は愕然とした表情でその場に崩れ落ちた。
完璧だ…。完璧だ!!
望んでいた言葉!!!!
望んでいたような蔑んだ目!!
いいぞ! 参考にした小説通りだ!!
一言一句違わない!!! 最高だ!!
「ちょ、ちょとちょと! 告白ってあんた、あのこと好きだったの!?」
焦ったように走ってきたかなが俺にそう聞く。
その顔は少し上気しているように見える。
「ん? いや全く? 微塵も好きじゃないが」
「……え?」
おかしなこと聞く。
好きなわけないじゃないか。あれただのざまぁの相手だ。恋愛感情など当然ない。
「そ、そうだったの…。え、じゃあなんで告白?」
「ふっ。かな。それもまた分かるさ。なんせ、今の所小説と同じ……おなじ…おなじ?」
おかしくないだろうか。
今のこの状況。告白を酷い振られ方をした俺とそれを見て駆け寄ってきたかな。小説と全く同じ状況だ。
小説では主人公は振られたところを見ていた心優しい美少女に慰めの言葉をかけられる。そして、女の子と一緒に頑張り、痩せてかっこよく男らしい青年となる。そして支えてくれた女の子やその妹や別の子などとキャッキャウフフだ。
今の状況はそれに似ている。
それにさっきの告白の返事…。
小説に書かれていた内容と一言一句違わない…。
おかしい…!!
「…どういうことだ…。全く同じなんてありえるのか…?」
そんなふうにしゃがんだまま、首を捻る俺を見て、かなは言った。
「ダメです。バレました」
「は?」
かながそう言うと、さっき去って言ったはずの瑠璃が戻ってきた。
「お嬢様。ダメです。完全にバレています」
「…何故かしら。どこで気づかれたの?」
「お嬢様の言動かと。だから言ったのです。全くおなじはダメですと」
「そんなこと言っても…」
かなと瑠璃が2人で会話をしている。
完全なざまぁへの1歩を踏み出したと思っていた俺には何が何だか分からなかった。
「お、おい。かな、瑠璃。これはどういうことだ…?」
堪らず俺は聞いてしまう。
するとこちらを見た瑠璃が申し訳なさそうな顔をする。こいつのこんな顔は小学生以来見たことがない。
「ごめんなさい。失敗してしまって…」
「どういうことだ? 失敗??」
「『俺のことを振った幼馴染は生まれ変わった俺に追い縋る』」
「な、なぜその題名を…!」
彼女が口にした『俺のことを振った幼馴染は生まれ変わった俺に追い縋る』は俺の大好きな小説だ。初めて俺に『ざまぁ』を教えてくれて、今回も参考にした。
「当然じゃない。あなたが読んでいる小説よ? 私が読んでないわけないじゃない」
当然のような顔で瑠璃は言う。
何を今更とでも言いたげだ。
「い、いや。なんで読んでるって知ってるんだ…」
俺は読んでいることを誰にも言ってない。親はもちろん、友達にも言ってないし、ネットとかにも特に上げていない。
なのに…なぜ知ってる…?
「あなたの事よ? 知ってて当然じゃない」
「え? は?」
「あなたの好きな物。好きなこと。今ハマっているもの。今日の朝食べたもの。あなたのことなら全て知ってるわ」
「………え? ど、どうやって…?」
「学校でのことはかなえを使ってよ。家の中については…内緒ね」
瑠璃はそう言って口に人差し指を当てた。
ふ、普通じゃない…。
イカれてやがる…。
「な、なんでそんなことを…」
「決まってるじゃない。あなたの妻になるためよ?」
俺の疑問に間髪入れずに答える瑠璃。
瑠璃はふふっとまた笑った。
俺は心臓がバクバクとなり始める。
これはきっと恋や愛の類じゃない。もっと別の何かだ。
「つ、妻…?」
「あら? もう忘れてしまったのかしら?」
なんの事だ。いつの事だ。
こいつを妻にするなんて言ったことがあるばすがない…!
「相変わらず、変なところで気づかないわね。ふふっ」
「……」
「5歳のころ。あなたは言ったじゃない。お前を妻にするって」
5歳の頃じゃないか…。
「5歳の時のことなんて…」
「5歳の時のことなんて? 何かしら? ねぇ、ゆき?」
その先の言葉を俺は紡ぐのを止めた。
彼女がカバンから何かを取り出す素振りを見せたからだ。
彼女のカバンには多分アレが入っている。
俺の第六感がそれ以上何も言うなと叫んだ。
「ふふっ。かわいいゆき。私の王子様。ねぇ、ゆき? この小説の続きはする? ゆきが望むなら私は何だってするわよ? ふふ。…ああ…! 告白なんてゆきがするからちょっと、我慢できないかも。ふふっ! ふふふふっ!!」
愉悦の表情を浮かべながら笑う彼女。その酷く欲望に歪んだ目は俺の事だけを見ている。
違う。
俺がしたかったのはこんな、こんなことじゃない…!
変なことをするんじゃなかった、と俺は後悔が頭をよぎる。
変なことをしたせいで俺は見つけてはいけないものを見つけてしまったらしい。
知るべきではなかったことを知ってしまったらしい。
ざまぁをしようと思ったら、もっとやばいやつがやってきた。
お読みいただきありがとうございました!