5年前と5年後
「ッ!」
「な、何なんだよあれ!?」
「間違いなく15階に出ていいモンスターじゃないでしょ!」
「お、追いつかれちゃう!?」
「とにかく走れ!」
とある5人パーティーは、後ろから追いかけてくる漆黒の龍から逃げていた。本来ありえない現象だが、ダンジョンにありえないなどと言うことはありえない。それが、ダンジョン探索における鉄則だ。
そうこうしていると、突如龍の足元が崩れ落ちる。広がっていく穴は黒髪の少女すらも飲み込もうとした瞬間、少年が少女の腕を掴んで投げ飛ばした。その反動で少年は穴へ落ちていった。
「…カッコつけてこれはダサいだろ」
そんな呑気なことを言っているが、穴は急速に塞がっていき、やがて穴などなかったかのように塞がってしまった。
「う…嘘…でしょ…はるっち…?」
銃を持つ金髪ギャルの少女は唖然としながら膝から崩れ落ちる。
「晴人さん!晴人さん!」
先程助けられた杖を持つ黒髪の少女は涙を流しながらダンジョンの地面を手で掘削しようとしていた。
「…ッ!晴人ぉぉぉぉぉぉ!!!」
そして、剣を持つ赤髪の少年は涙を滝のように流しながらそう叫んだ。
これは、5年前に起きた始まりである。
ー
それから5年後…
-新宿ダンジョン【深層】900階層-
「…いやー、ここまで長かった…」
「そうだな、しかしまさかここまで強くなれるとは…マスターに感謝だな」
「いいんだよヘラクレス、ウンディーネも平気か」
「えぇ、あなたに救われたこの命。まだまだ平気よ」
「な、なんか怖いな…」
『ご主人!見てみて!』
「おぉ、ウォル!ボスのレアドロップか!」
新宿ダンジョン900階層の何百何千以上もの武器と腕と技術を持つボス【ヘカトンケイル】を倒した少年 皇 晴人は仲間たちと共にボスドロップ【ファントム】を見ていた。
この青年は5年前、穴に堕ちて深層の350階層に紛れ込んでしまった少年であり、地獄という言葉が優しいレベルの魔境を生き抜き、ここまで来た。
そんな彼の仲間はモンスターである。最初に彼の仲間になったミノタウロスのヘラクレス。晴人が名付け、最初は赤毛色だったが、モンスター特有の進化を繰り返しだからか、引き締まった筋肉を持ち、巨大な戦斧を持つ黒毛色になっている。ヘラクレスは晴人をマスターと認めており、貴重なタンク兼アタッカーである。
もう1匹はウンディーネ。名前は最初からあり、このダンジョンのモンスターとされていた。その身が朽ち果てる定めだったが、晴人に助けられ、彼をあなたと呼ぶ恋する乙女。回復と水魔法を得意としており、魔法に関しては一級品である。彼女の他にイフリート、シルフ、ニンフもいるが、今はとある空間でのんびりしている。
最後にウォル。フェンリルであり、ペット。されど侮ってはいけない。俊敏な動きをしながら口から波動砲を連射しまくるやべー仲間である。
そんな仲間たちと共に変形しまくる武器【ファントム】を見て目を輝かせながら900階層より下にいく。すると、901階層との間にあるテレポート部屋に出た。
「…長かったな…」
そう思いながら巨大な石に触れると
【15階層のテレポート部屋前に転移しますか?】
そんな声が頭に響いた。
「よっしゃ!」
「おぉ、やっと20以下の階層が出たのだな!」
「長かったですね!」
『地上見てみたい!』
「…いや、というかお前ら出れるのか?」
【可能です。彼らはあなたとリンクしています】
「…リンクってなんだ…」
「「『…?』」」
「わかんないのね…とりあえず15階層に転移するよ」
【であれば、リンクしたモンスターも触れてください】
そう言われた仲間たちは石に触れるとそのまま消え去った。
ー
「15階層だ…!うっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
晴人は雄叫びを上げながらそう言うとガッツポーズを取る。
「大喜びですね…あなた、私たちをあの空間に」
「あ、あぁ…そうだったな…【異界の扉】
晴人の横に穴が現れると、ヘラクレス達がそこに入っていく。全員が入り終えるのを見た晴人はダンジョンを登っていくと、入り口近くである匂いを嗅ぐ。
「…血」
そう言って曲がり角を曲がると、そこには白い目をした紅蓮の狼が、人を食っていた。紅蓮の狼は晴人を見つけると食事をやめ、晴人に襲いかかる。だが、
「…インフェルノハウンドは350階層から出てくるモンスターだが…あの時のような感じか」
そう呟きながらインフェルノハウンドの首を切断する。
「…とりあえず、この人は…」
晴人はインフェルノハウンドに喰われていた人を見る。それは女性であり、両足がなく、顔も半分喰われていた。そして腹から臓器が出ており、もはや死んでいるのではないかと思わせるほどだった。だが、
「…ヒュー…………ヒュー……」
不規則ではあるが、呼吸をしていた。
「…こんなでもまだ生きてる辺り、何かしら生命維持に関わるスキルを持っているのか…それか迷宮人か…いや、それよりもだ」
晴人は考えるのをやめ、ウンディーネを呼び出す。
「ウンディーネ、手伝ってくれ」
「えぇ、しかし酷い傷ね…」
「あぁ、ウンディーネは顔を頼む」
晴人はそう言って女性に触れる
「再生」
「精霊水、彼女を治しなさい」
2人はそう言うと変化が起きる。女性の無くなっていた足と顔の半分が再生されていき、やがて腹部も治っていった。女性の呼吸もやがて規則的になっていく。
「…よし、終了だな」
「えぇ、とりあえずは大丈夫ね…私はまた帰るわね」
「あぁ、ありがとう」
そう言ってウンディーネは帰っていくと、晴人はあるマントを女性に被せる。
「【ブラッド・レイスの霊衣】…これでこの階層のモンスターには見つからないはずだ…あとは」
そう言って、武器や防具、ポーションを置いていく。
「…よし、これならOKだろう…)
そうして晴人は眠って女性を置いてその場から去る。
晴人は気づいていなかったが、実はその女性は配信をしていた。そしてもちろん、晴人のことも映っていた。
そしてこれが、彼の運命を変えることとなる。
【スキル】
ダンジョンが現れたと同時に人々に発現した力。様々な力があり、これがないと冒険者は強くなれないほど。本来なら最大でも4〜5つが限度だが、晴人は何故か100以上持っている。
【迷宮人】
ダンジョン出現から15年後に現れた人類。ダンジョン内で絶大な力が使え、生命力も高いが死ぬ時は死ぬ。迫害の対象とされていた。
【ダンジョン】
1995年、突如世界中に現れた存在。洞窟型や塔型、建物型と様々あり、深ければ深いほどモンスターも強くなる。