表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

それは?

作者: Namina-me

「夕暮れの朱色に染まる離れの校舎の壁」

それは、なんだ。


「仏頂面を引っ提げていた人物が、試験管の中身を覗いては悦楽の表情を浮かべる」

なぜ、そう言う。


昔から簡単な言葉で言えないのかと思っていた。

小学生の頃、自分がノートに「悦楽」と書けば、それだけでバカにされた。

彼女の宝物が納められる、と書けば、それだけで気持ち悪いと言われた。


―楽しい、嬉しいと書け


―引き出しへとまた帰っていくでいい


気持ち悪い

格好つけ

笑える

死ね


そう言われる度に俺は同級生ではなく、世の小説家を恨み、呪った。

自分が扱うことで中傷されているのに、同じ言葉を同じ形式で扱う貴様らが売れていることに納得がいかない、と認めずにいた。

試験管を持ち上げることに、"今"それほどの描写が必要か?

実験が上手くいったことに、"今"それだけの感情は必要か?


世の小説家全員を知っているわけでも、その生活を24時間見ていたわけでもないが

彼らは小説家として、格好つけと言われたところを見たことがない。


自分が同じ言葉を使えば格好つけたがりと言われ、気持ち悪いと笑われたのに

小説家はそういった言葉をかけられない。

友人に聞いても家族に聞いてもその答えは得られず、その度に疑問が大きくなっていく


「先刻の名残」とはなんだ

「先ほどまで作業をしていた痕が残っている」ではいけないのか


後者より、前者の小説家が褒められるのは何故だ

いや、褒められるならいい。

何故後者が叩かれなければいけないのだ。

双方ともに同じ意味のはずだ。

それなのに、何故…


体躯とはなんだ

身体ではいけないのか、全身と表すのは不正解か?

双方ともに想像することに違和感はないはずだ

それなのに、何故…


「は、と空気の塊吐く」

どうしてこの表現が賛辞を浴びるのだろう

「嗚呼止せばいいのに。思考と反して顔は音の出所に向く」

どうしてこの表現に注目が集まるのだろう


相手に伝わらなければ、意味はないというのに




俺は世の小説家を許さない。

代わりがいるにも関わらず難読漢字を使い、世間から人気を集めている小説家を許さない。

「難しい読み」を正解とし

「経験のある言葉」を不正解と判断する


「難しい読み」を格好いい、と褒め称え

「経験のある言葉」を気持ち悪い、格好つけたがりと中傷する


難読漢字を使い、それでいて世間から認められる人間がいるのか

本当に分からない。


…。

相手に伝わらなければ、意味はないというのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ