93.ライニードの出会い
「…そういえば、ライニード。
ミリーナ嬢とはうまくいってると聞いたが、どうなんだ?」
マジェスタ公爵家のミリーナ様は三人兄弟の末妹。
一番上に長女のリリーナ様、真ん中に長男のジョルジュ様がいると聞いている。
「…うん。なんでも、俺はミリーナ嬢の理想だったそうだ。」
「理想?」
「ミリーナ嬢の理想は細身で銀髪で緑目、将来は宰相になる人だったんだと。」
「え。それってライニードそのものだな。
ライニードのこと知らなかったんだろう?」
「ああ。うちは騎士の家系だろう?だからごついと思われていたらしい。
そのうえ、マジェスタ家の長男は騎士にあこがれているらしくて…。
うちの父上のような男になるのが夢だそうだ。」
「長男がそれで、なぜミリーナ嬢の理想が逆になるんだ?」
「長男のジョルジュとミリーナ嬢は仲が悪いらしい。
ジョルジュは14歳なんだが、6つも下のミリーナ嬢とは口喧嘩ばかりで。
それで理想の男性についてミリーナ嬢が話したら、
そんな男がいるものかと言われたようだ。」
「嫌いな兄と反対な男性が良いって言ったわけだ。」
「うん。でもいないって言われて落ち込んでいたところでお茶会に呼ばれた。
自分が理想だって言ったままの男が目の前にいる。しかも見合い話まで来ている。
すっかり喜んでしまって…興奮して落ち着かせるのに大変だったんだよ。」
大変だったんだよと言いながら、ライニードはにこにこしていて、
少しもそんな感じはしない。
「ああ、それでリリーナ様がたしなめていたっていう話になるのね。」
「ライニード。ミリーナ嬢は良いとして、ライニードはどうなんだ?
ミリーナ嬢が学園に入学するまではまだ時間があるけれど、
本気でこの話進める気なのか?」
レイニードは自分が言い出した見合い話だから、
ライニードの素直な気持ちを聞きたいようだ。
無理矢理押し付けるように見合いさせたと心配しているのだろう。
「俺はレイニードとエミリアを見てうらやましいなって思っても、
エミリアと自分がどうこうなりたいとは一度も思わなかった。
エミリアのことは可愛いとは思うが妹のように思っているからだと思う。
学園やお茶会で会う令嬢たちも…淑女で素晴らしいとは思うが、
どちらかと言えば苦手で一緒にいたいとは思えなかった。
悪評のあるビクトリア王女は尚更…中身を知っていると美しいとも思えない。」
「ミリーナ嬢は?」
「…可愛いと思ってしまったんだ。
俺を見上げて、大きな目をさらに大きくして、キラキラして話を聞いてくれるのが、
まるで飛び跳ねそうなくらい喜んでくれているのが見ただけでわかって…。
まだ小さいけれど、素晴らしく綺麗な金髪で透き通るような緑目なんだ。
俺の灰色がかった緑目のことも、同じ緑目だけどもっと素敵だって言ってくれた。
ミリーナ嬢はきっと大きくなったらリリーナ様よりも綺麗になると思う。
その時に一緒にいるのは自分だと、そう思った。」
「そっか…なら良かった。」
「じゃあ、ミリーナ様が入学する頃に婚約の話を?」
「…もう少し早めてもいいかなと思ってる。
ミリーナ嬢が12歳になる時に婚約しようかと思って。
その時、俺はもう21歳だ。婚約していたほうが助かる。」
「ふふふ。そうね。王太子の側近が、未来の宰相が婚約していないのは苦労するわ。
令嬢たちに夜会の度に囲まれることになるもの。
ミリーナ様が12歳になったら婚約だけでも急いだほうがいいわね。」
うれしそうに話しながら少しだけ顔が赤くなっているライニードに、
良い出会いがあって本当に良かったと思う。
私にとってライニードは兄で、家族の一人だと思っている。
レイニードを見ると、レイニードも同じように喜んでいるのかとてもうれしそうだ。
「婚約の際には二人も呼ぶからね。」
「ああ。」「ええ、楽しみにしているわ。」




