88.令嬢たち
「何か用事でも?」
声をかけたのはレイニードだった。
それに対して令嬢たちは顔を見合わせ、軽くうなずくと話し始めた。
「あ、あの!エミリア様とジョランド様のこと、応援しています!」
「「え?」」
応援しています…?
「わたくしたち、あの剣術大会の時に応援席にいましたの。
お二人が権力に負けずに愛をつらぬく姿を見て、感動いたしました!」
「ええ、あの時のエミリア様がとても素敵で…。
ドレス姿の今日は華奢で儚げでお綺麗ですのに、
戦う時はあんなにも強くりりしいだなんて…。」
「これからもお二人のことを影ながら応援しております!
頑張ってくださいませ!」
顔を赤らめた令嬢たちに口々に称賛されて、戸惑ってしまうばかりで言葉が出ない。
令嬢たちは言いたいことを言い終えたら小走りで去って行ってしまった…。
「ぷっ。」
笑いをこらえきれなかったような声がして振り向くと、
ジングラッド先輩とアヤヒメ先輩がいた。
笑ったのはジングラッド先輩だったらしく、アヤヒメ先輩に軽くにらまれている。
ジングラッド先輩もアヤヒメ先輩も母国の衣装だろうか。
見慣れないデザインではあるが、お二人ともよく似合っている。
「笑ったのはごめん…だって、エミリア口が開けっ放しになっているし、
レイニードも固まっちゃってるし。」
「お久しぶりです…ジングラッド先輩、アヤヒメ先輩。」
「久しぶりね、二人とも。
もうジンってば笑い過ぎよ。
あの剣術大会でのことは聞いたわ。
その時に見ていた令嬢たちの多くがエミリアのファンになったそうよ。」
「ファン…ですか?」
「ええ、そうよ。
第二王子ほどではなくても勘違いして言い寄ってくる令息たちは多いみたいでね。
自分よりも身分の上の令息に言い寄られると、断りにくいでしょう?
それなのにエミリアは第二王子を負かした上できっぱり断ったでしょう。
見ていて痛快だったらしいわよ。」
「そうそう。溺愛の魔術師と氷姫って呼ばれているらしいよ。」
「は?氷姫?」「溺愛の魔術師…?」
「もともと魔術師ってやつは想う相手にはどこまでも一途なものだけど、
貴族たちはそれを知らなかったようだね。
レイニードが戦ってエミリアを守る姿は令嬢たちのあこがれに見えたようだね。」
「氷姫はなんですか?」
「エミリアが第二王子の告白をものすごく冷たく断ったって聞いているよ。
その上で氷の剣を出したんだろう?練習してたの上手くいって良かったな。
俺たちはエミリアの苦労を知っているから…
笑ってしまうのも…ぷぷぷ。ごめんって、つねるなよ。」
まだ笑い足りないのか苦しそうに話すジングラッド先輩の腕を、
アヤヒメ先輩がキュッとつねっている。
そのことよりも聞いた話が強烈過ぎて…呆然としてしまう。
「…まぁ、応援されているのならいいんじゃない?
これで邪魔されることも無いでしょうし、味方は多い方が良いわ。」
「…それは、確かにそうですね。」
「ええ。困った王族は他にもいるのでしょう?
令嬢たちはこのまま味方にしておいた方が賢明ね。」
困った王族。アヤヒメ先輩はもうヴィクトリア王女のことを知っているんだ。




