87.二度目の夜会デビュー
着ているドレスのせいでいつもよりも少し狭く感じられる馬車の中、
レイニードと両手で握りしめ合って笑う。
こんなに夜会が楽しみなのは初めてで、王宮に着くのが待ち遠しく感じる。
馬車が渋滞し始める前に王宮へと着き、会場の広間へと入場する。
もうすでに伯爵家以下の令息令嬢たちは広間に集まっていた。
私たちが今日の夜会デビュー最後の入場だったようだ。
一斉にこちらを見られ、少しだけ身体が硬くなる。
その中をレイニードに手をひかれて歩き出した。
ほぅっと令嬢たちがレイニードに見惚れているのがわかる。
学園ではローブ姿でいるレイニードがタキシード姿で私をエスコートしている。
白シャツにグレーのジャケット、青のタイとカフス。
それに銀色の髪を束ねて横に流している。
誰かがレイニードのことを王子様よりも王子らしいと評していたが、
その気持ちもよくわかる。
入場した後は王族を待つために、広間の中央付近の空いている場所で待機する。
以前なら一人だったために隅の方でおとなしくしていたが、
本来は高位貴族は中央に出ていなければいけない。
すぐ近くに顔見知りの公爵令嬢を見つけ軽く礼をする。
もうすぐ王族が入場する今は時間がなくて挨拶ができない。
それをわかっているため、向こうの公爵令嬢も微笑みを返してくれた。
王族の入場が告げられ、扉が開いたところで広間中がざわついた。
いつもならジョージア様がフレデリック様を伴って入場してくるのだが、
今日は違っていた。
陛下が王妃様をエスコートして入ってこられ、
その後ろにジョージア様がリリーナ様をエスコートしている。
私たちは陛下の体調がよくなったことを知っているが、他の者たちはそうではない。
今まで夜会には出席することの無かった陛下と王妃様に、皆が驚いて迎えている。
その後ろのジョージア様がリリーナ様に微笑みかけながら、
正式にエスコートしていることへも驚きの声が上がった。
陛下が開催の宣言をし、同時にジョージア様とリリーナ様の婚約を発表すると、
広間中が歓声でいっぱいになる。
少しだけ悲しんでいる令嬢の声が聞こえていたが、
大部分のものはリリーナ様との婚約を喜んでいる。
発表が終わり夜会が始まると、こちらを見ていた陛下と目が合った。
うれしそうに笑う陛下に微笑みを返すと、軽くうなずいて王族席へとむかわれる。
「陛下もうれしそう。夜会に出席できるようになるなんて…良かったわ。」
「そうだね。あれは俺たちへのお礼だろう。
俺たちは王族席に挨拶に行くことはないし、夜会中に話す機会も無いから。
さぁ、エミリア。行こうか。
約束通り俺と踊ってくれる?」
「ええ。何曲でも!」
ちらほらと人が集まりだした段差があるステージに向かうと、
それに合わせたように音楽が始まる。
見つめ合って踊りだすと、もう周りは何も見えないくらいに楽しくて、
そのまま4曲も踊り続けた。
さすがに喉が渇いたと言うと、
レイニードも同じだったようで笑いながら飲み物を受け取りにいく。
「さすがに4曲も踊ったら疲れた?」
「気がついたらこんなに踊っていたの。つい楽しくて。
帰る頃には身体が痛くなってそうだわ。」
「大丈夫、歩けなくなったら抱きかかえて帰るよ。」
「もう!そこまではひどくないわ。」
くすくす笑いながら休憩していると、後ろに令嬢たちが集まっているのに気がつく。
顔見知りではない令嬢たちが数人集まって私を見ている姿に、少しだけ怖気づく。
…また嫌味を言われるのかもしれない。
「何か用事でも?」




