85.やり直しの夜会デビュー
お義父様が満足そうに帰って行った後、私とレイニードは少し気が重くなっていた。
まさか王宮へ行った時にビクトリア様に見られていたとは思わなかった。
そのせいでライニードに迷惑をかけることになるとも。
「ここでビクトリア王女に関わってしまうとは…。
まさかあの時に見られていたとはな…。」
「あのビクトリア様が一度欲しがったレイニードのことを、
こんなに簡単にあきらめてくれると思う?」
「…思わない。きっと、また何か言って来ると思う。
陛下とジョージア様が抑えてくれるとは思うが…。
来年の学園入学時が怖いな…。
その時には貴族科に行く授業もないから、避けられるとは思うが…。」
「それでも安心はできないよね…。
戻って来たってことは王宮に行けばいるんだし、
しばらくは夜会に出ないとは聞いているけど、それもどうなるかしら。」
「…夜会か。心配ではあるけど、楽しみでもあるんだ。」
「そうなの?」
「エミリアと夜会で一緒にいられたことが無かったから。
いつも誰かに邪魔されてばかりで…。
やっと二人で踊れると思って。」
「…うん。」
そっか。これからは夜会に出てもレイニードが一緒にいてくれるんだ。
レイニードと踊っても、誰にも邪魔されないんだ。
「…エミリア、泣いてる。」
「え?」
気がつかないうちに涙がこぼれていたのをレイニードが指ですくっていた。
頬を自分でさわってみると冷たい。
「どうした?つらいことを思いだした?」
「…ううん。多分、うれしくて。
これからは夜会でも一緒にいられるんだって思ったら、うれしくて。」
「うん…俺もうれしい。やっと一緒にいられる。」
立ったまま抱き合ったら、レイニードの胸に私の頬があたる。
どんどん身長差は広がるばかりだし、身体つきもたくましくなっていく。
だけど、二人の距離は近くなって、こうしていつでも抱き合えるようになった。
あの時とはもう違う。
だから、何があっても負けない。
それからしばらくして、ライニードがミリーナ様と顔合わせをしたと聞いた。
意外にもミリーナ様の方がライニードを気に入ったようで、
ライニードが振り回されていたそうだ。
それを困ったようにたしなめるリリーナ様とジョージア様の間で、
弟と妹は手がかかるという話で盛り上がったという。
お互いに三兄弟で弟、妹がいて、苦労が絶えないという共通点があった。
最初は共感しただけだったのかもしれないが、
ジョージア様は初めて心を許せる令嬢と出会えた、そう思ったそうだ。
その結果、ジョージア様とリリーナ様の婚約の話がすすめられている。
ライニードとミリーナ様のことは、
ミリーナ様が13歳になる5年後まで正式な話はお預けとなった。
それでも一応は顔合わせを終えて、
今後も話し合いを持つということを両家で決めたことにより、
ライニードの他家からの見合い話はすべて断ることになった。
その話を聞いたビクトリア様がどう受け止めたのかは…
さすがに私たちの耳に入ることは無かった。




